3.スキンシップチャンス
「ホントは見たかったくせにー、我慢してるとよくないよ?」
「誰が妹の着替え見て喜ぶかよ」
「あう……他の人だったら見てもいいって思ってるんだ……」
「それも違う!」
同じ高校の制服に身を包み、俺、高坂雄斗は美央と言い合いをしながら2階にある俺たちの部屋から1階のリビングに下りはじめる。
あ、もちろん学校が同じだけで制服が一緒ってわけじゃないぞ。しかも俺が美央に合わせたりしたら変態にもほどがある。
結局なんとか美央を追い出すことができ、一人で着替えることに成功したものの、俺が着替え終わって部屋を出ると、美央が待ち伏せしていたのだった。
なんだ、この監視されている気分は。というかなんで男の俺より着替えが早くできるんだ。
「あー、今下着替えたのかって思ったでしょ? ちゃんと替えてるよ? 朝からそんなこと考えるなんてえっち。別にイヤじゃないけどねー?」
「そんなこと考えてねえよ……」
思考としては似たようなものだから、当たらずとも遠からずとは言えるが。しかしよくもまあ、エスパーみたいなことをできるものだ。
「リボン曲がってるぞ、美央」
「あ、ホントだ。直して」
「自分でやれよ」
「えー、せっかくのスキンシップチャンスを見逃すなんてもったいなーい」
なんなんだ、その深夜のテレビ企画のような響きは。
しかし美央はまったく気にすることなく無い胸を突き出している。
「わかったよ、とりあえずじっとしておけ」
「わーい」
美央が小刻みにジャンプして喜びを表現している。
じっとしろと言ったばかりなのに。
俺は美央の茶色いブレザーに手をかけ、曲がった赤いリボンの位置を直す。
下は明るい赤と黒のチェックスカート。
美央はこの制服が気に入ったらしく、受験する前からこの高校に入ることを目標にしていた。俺が美央より1年早く受験する時もこんなことを言い出している。
「というわけでおにいちゃんもこの高校を受験してねー」
何が『というわけ』なのかもこの際どうでもよく、全力で無視しようと思っていたのだが、進路指導でここの高校を受けるのがベストと言われ、結果この高校になってしまった。
なんだか美央の思うつぼになってしまい不本意ではあるのだが、ある意味それでも良かったのかもしれないと思うこともある。
なにせ、去年のことを思うと……
「はーい、スキンシップタイムはもう終わりでーす! なーんだ、やっぱりちょっと触りたかったんだー」
「勝手に言ってろ」
「あっ、待ってよー」
俺は美央から逃げるように階段を下りる。余計なことを言うとますます調子に乗るのは目に見えているから。