26.パレードを見ながら
「うわー、きれいだねおにいちゃん」
美央の目に浮かんでいるのは、光の宝石。
こんなことを一瞬でも頭に浮かべてしまった自分が気持ち悪い。
つまるところ、今美央が見て離さないのは、お祭りのイベントの一つである手作りのフロートによるパレードだ。
せっかく来たんだからということで、夜になるまで時間をつぶした後、見物することにしたのだ。
さすがに遊園地みたいな豪華さはないけれど、なかなか見応えはあった。たとえば小学生の書いた習字を貼りつけたものだとか、微笑ましいというのもあったりする。
かなり長い距離を練り歩くらしく、沿道に人があふれるということもなく、ゆっくり見られるのもポイントなのかもしれない。
「えへへ……きれいだね」
美央が俺の方を向いて再び言う。
間違っても、フロートのオレンジの明かりだけが照らすその横顔に何らかの思いを抱いたりとかはしない。そこはいわゆるベタな展開とは違うところだ。
「ねね、一つ謝ろうかなーって」
「謝ろうとする気がまったく見えないのが気になる」
「むー、本気なのにー」
変わらない態度にもう一回ツッコみたいが、話が進まないので黙って聞くことにした。
「実はね、今日は最初からこうしておにいちゃんと出かけようと思ってた。お母さんが言ってくれたらきっとおにいちゃんも来てくれるかな、って思って悪知恵働かせちゃったけど」
「なんだそんなことか」
「えっ……おにいちゃん、もしかして気づいてたの?」
なにせデパートの店員と共謀して陥れるなどという事前の打ち合わせの結果をこの目で見ているから特別驚くほどでもなかった。何も予定なくここまでの流れがあるとは思えない。そもそも電車に乗る以前から予想もしてたわけだし。
たまたま今日そうなっただけとも考えたが、もともと来るつもりだった可能性もあると思っていた。
「あう……そっか、気づいてたんだ。あのね、今日は楽しかった! なんて、強引に引っ張ってきたわたしが言っちゃいけないのかもだけどね、えへへ」
「別になにもすることなかったし、別にもういい。むしろ今日一日は悪くなかったぞ」
財布の中は残念な結果になっているが、たまにはこういうのもいい。そんな感覚はあった。
どんなにうっとうしいと感じていても、やっぱり俺にとって美央は大切な存在だと思う。なんか、母親と考えが似てきたのが気に食わないが。
「お兄ちゃん……」
「美央……」
美央と向かい合った俺はそして、その距離を少しずつ迫らせていき。
「なんてことになるわけないだろ」
美央はそんなドラマみたいな展開をやるとでも本気で思ったのだろうか。俺が美央にデコピンをすると、残念がった様子で口をとがらせている。
「ちぇー、もう一押しだったのにー」
さすがにそんな関係にまでなるほど、人の道を踏み外したくはない。
いや、そもそも美央とそんなことをする気にもならないわけだが。