24.お嬢様はご立腹
どうやらお嬢様は大層不機嫌らしい。デパートを出る時も相変わらず俺の前を行くが、今度は振り返ることもせずに俺のペースをはるかに上回るペースで歩いていく。エスカレーターもかまわず歩行している。本当は歩いてはいけないんだぞ。
うん、この一連の言葉の一カ所は嘘だ。不機嫌の理由は「どうやら」ではなく、ほぼ確信として思い当たるものがある。
ずばり、店員さんと話し込んでしまい、美央を放っておいてしまったから……だろ?
それを美央に伝えたら、「やっぱりわかってない」と更に怒られ今に至っている。
うん、再び訂正。どうやらお嬢様は非常に不機嫌な様子です。
これだけご立腹させてしまったにもかかわらず、俺の持たされている荷物は袋一つで済んでいる。
荷物が軽いのはもちろんありがたいが、財布まで軽くならずに済んで良かったというのが本音ではある。
この袋の中に入っているのはデパートに来るまでに着ていた服だ。かといってさすがに何も身につけずに街を歩くなんて、どう考えても法律的にアウトな話ではなく、今美央が着ているのは、先ほどの店で購入したものになる。
要するに、ほぼ俺が選んだ服装を纏っているわけだ。
あくまで客観的に選んだつもりではあるが、自分の趣味嗜好が入ってしまっているようでどこか気恥ずかしい。
「マキシくらいの暖色系フリルワンピ、あ、あとタータンチェックのスカートも反応良かったかな……好みもわかったし、これからだもん」
「なに独り言つぶやいてるんだ、なあ、何かしたなら悪かったから機嫌直してくれって」
「ふんだ。フレッシュなイメージでこっちは勝負するんだもん」
なんだか知らないが、美央は何かに対抗意識を燃やしているらしい。競争は大いに結構であるが俺を巻き添えにしないでもらいたい。
どこに視線を向けていいかもわからず、とりあえずごまかしみたいに腕時計を見ると、十四時を回っていた。もうそんな時間なのか。
朝から掃除させられたり美央に引きずり回されたりして、それでいてこの時間だ。さすがに腹も減ってきた。
「なあ、何か食うか。おごるから」
ついでに美央の機嫌も直せるかもしれないと、この提案をしてみる。
「えっ、おごってくれるの? わーい、いこいこ!」
思った以上の効果に笑いそうになり、口から少しふっと息が出てしまう。まったく、現金なやつめ。