22.女の子は怖い
「あーっ! わたしがいない間におにいちゃんに手出さないでよー!」
むしろ俺の方が美央よりもこの店員さんに遊ばれはじめて困ってきた頃。
美央は試着室から出てくるなり、俺たちの方に指を向けてそう叫んできた。
「ふふ……なんかちょっかい出したくなっちゃった」
店員さんがそう言いながら俺の右肩に両手を乗せて体重をかけてくる。そして顔が近い。ほのかに感じる香水の香りが鼻孔をくすぐる。
そういえばこの人、見た目には俺と同じくらいの年齢のような気がする。バイトで来ているのかもしれない。というか、同年代の異性にこんなに近づくことなど、冷静に考えればあんまりないような……
「あう……おにいちゃんがまんざらじゃない顔してる……」
「あら、誘惑成功しちゃった?」
「……はっ! い、いや、これは違うぞ。単に」
しまった、本気でこの店員さんに引き寄せられてしまったらしい。もう案の定というか、美央が明らかに不機嫌な顔をしている。
「言い訳なんて聞きたくない! おにいちゃんのばかー!」
美央が場所もわきまえずに俺に殴りかかってくる。といってもそんなにもともと力が強いわけではないので、効いている感じはないのだが。
「あーあ、美央ちゃん怒らせちゃった」
いやいや、なんで他人事なんですか。あなたが仕掛けたことでしょうに。
「女の子は怖いわよー? 私だって今冗談っぽく近づいちゃったけど、本当は本気だったり? 美央ちゃん怒らせちゃえば私にだってチャンスが」
「火に油注ぐようなこと言わないでください」
「あはは! ま、とにかく美央ちゃん悲しませちゃったのは本当だし? ここはちゃんと美央ちゃんのお願い聞いてあげないとね」
美央が攻撃をやめて、俺を見上げてくる。あるはずないんだけど、目の中に星があるような幻想を見た。期待をこめられたような目だ。
そして隣の店員さんは笑顔。しかしその裏に何かがあるように見えてくる。
……くそ、これは最初から打ち合わせてあったな。
女の子は怖い。確かにその通りかもしれなかった。