21.店員さんまで悪ノリ
「いらっしゃいませー、あっ、美央ちゃんこんにちは。おおー、今日は彼氏連れだね?」
「えへへー、いいでしょ?」
「とってもお似合い!」
「わーい」
店に入るなりさっそく声をかけてきた店員さんと美央が話し出す。どうやら美央はこの店の常連らしく店員さんも美央のことを知っているようだが、俺が来るなりいきなり誤解をしているようだ。
「いや、俺は……」
「わかってます、お兄さんでしょ?」
「むー、違いますってばー」
なんだ、店員さんは知ってて言っていたのか。それもそれで悪ノリされてしまっているわけだが。
というか、美央が否定している意味がわからない。
「まあ、仲がいいってのは聞いてたけど。腕組むほどなんだね。驚いちゃった」
「そうだ、すっかり忘れてたぞ。いい加減放せ」
「やだ」
「二文字で終わらせるな。放せ……って」
「やーだー」
俺が腕を上げて振りほどこうとすると、美央の絡む力がいっそう腕にこめられていく。
「ふう……まれに見るバカップルね」
「それどころかカップルでもありませんが」
「そんな細かいこと気にしない! ほら美央ちゃん、服見に来たんでしょ? そんなことしてたら手に取って見られないよ?」
「はーい……」
いや全然細かいところじゃないですから、と言おうとしたがその前に話を先に進められてしまった。
美央が店員さんの言葉にすんなり腕を外す。それはあたかも子犬を手懐けているようで、どうやらこの人は美央の扱いを心得ているらしい。
美央が服を選んで試着室に入っていくと、彼女が話しかけてきた。
「美央ちゃん、かわいいわよね」
「え、そうですか? 手がかかって仕方ないんですけど」
「あー、そんなこと言ったらかわいそうだよ? 美央ちゃん、ここにくるたびお兄さんのこと嬉しそうに話してくれるのに」
「どんなこと言ってるんだか」
「ふふ……まあ、だいたい話どおりの人だったかな」
ずいぶんとはっきりしない答えなものだ。話どおりって、良いのか悪いのかもわからない。
「美央ちゃん、あなたの意見で服決めようとしてるのよ。ちゃんと応えてあげなさいね?」
「あくまで兄妹だってこと、わかって言ってますよね?」
「さあ、どうでしょう? でも恵まれてるじゃない、その気になればあなた好みに美央ちゃんを仕立てられるのよ?」
「なんかこの状況を楽しんでいるように見えるんですけど」
「さあ、どうでしょう?」
いや、同じ返し方をしながらウインクされましても。






