20.ハデなのは望んでません
どうやら目的地に到着したらしい、デパートの入口に美央が向かっていくので俺も後をついていく。
しかし、少々入るのにためらった。
一応ここは総合デパートではあるが、いくつかに館が分かれている。食品・レストランのある本館、ビジネス館、ヤングファッション館とかがある。
迷いもなく美央が入っていったのはガールズ館。
もうちょっとセンスのある名前の付け方をして欲しいというのが真っ先に思い浮かんだが、それ以上にそのままの意味で若い女性向けのものばかり……というかそれしかなさそうなのが特に問題であって。
美央はナチュラルに、堂々と入っていくがそれは当たり前の話だ。ターゲットそのものなのだから。
「おにいちゃん、なにしてるの? そんなところで立ち止まってると邪魔だよー?」
「そんなことはわかってるっつーんだよ」
「もしかして入りづらいの? 大丈夫だよ、彼氏連れの子もいっぱいいるもん」
「わかってたんなら少しは配慮しろよ。男がいるのはわかったが連れてるのが彼氏だっていうなら俺だと浮く」
「こうすればごまかせるかも。どきどき」
美央が入りかけていた入口から俺の方に戻ってくると、俺の左腕を取って絡ませ、余った左手では前方を指さして、再び入口の方へ歩いていく。
「れっつごー」
俺はもう、美央のされるがままに引っ張られる形だ。
もうこの際カモフラージュになるからいいやと半分諦めて中に入った。
服、アクセサリー、化粧品……
当たり前だけど、館内は若い女性向けに構成されていて、そのほとんどが専門店になっている。
おそらく気に入っている店があるのだろう、美央はどの店にも目をくれず、通路をまっすぐ歩き、エスカレーターに乗っていく。
「しかし……こんな服、美央も着るのか」
エスカレーターに乗るまでに通りかかった店を流し見してみたけど、なんというか、目が痛くなるほど明るいカラーを使っていて、ずいぶん材料費がかからなさそうに見えるトップスだったりスカートだったり、そういった服装が通路に向けてディスプレイされている。インナーまではよくわからないが、たぶん同じようなものなんだろう。
「大胆すぎるし、わたしは着ないよ。入口近くの店はハデハデなものが多いけど、上に行けばそんなことないんだよ? あ、でもおにいちゃんがどうしてもって言うなら考えよっかなー」
「いらない。望んでない」
「えー、つまんないのー」
自分で大胆だから着ないと言っておきながらその反応はないだろう。
イメージ的にも似合わないとまでは思わないが、実際に本音として望んでいない。やっぱり兄としてのストッパーがちゃんと働いているのかね。というか働いてもらわないと困る。
「着いたよー」
改めて自分のポジションを確認していると、美央がある店で立ち止まった。