17.おかいものに行こう
「おっかいっものーおっかいっものー」
俺の少し前を歩く美央は、たいそうご機嫌がよろしいようだ。
対して俺は足が重い。一歩一歩を踏み出すごとに、ため息が出る。
まだ、今度こそメイド服なんて格好で出ようとしなかっただけ救いだったのかもしれない。
さかのぼること1時間前。
掃除を終えて、先に降りていた美央に続いてリビングに降りると、母親が俺を待ちかまえていた。
「雄斗。美央と買い物に行ってきなさい」
「なんでだよ」
「美央が服を買いに行きたいって言うのよ。雄斗どうせヒマなんだろうし護衛のために一緒に行きなさい」
護衛って……どんな親バカ、いやバカ親だよ。いくらなんでも過保護にもほどがないか。
「命令されなきゃいけない理由がどこに」
「美央にあんな格好させているっていうのをご近所さんが知ったらどう思うかしらね?」
どちらかというと、そんな子供に育てていることを暴露するなんて、とあなたが責められると思います。
しかし俺もダメージを食らうのは変わりない事実。
結局、従う以外の選択肢はなかった。母親を道連れにするのもいいが、そこまでリスクを犯したくはない。
考えてみればこうなったのも美央のせいなんだよな。
なんで、その美央の買い物に付き合わなきゃいけないのか。まさか美央はこの展開を見込んで行動してたんじゃないだろうな。
我ながらずいぶん説得力のある話をしているような気がする。
「さ、電車乗ろー」
「電車使って行く場所なのか……」
わざわざ護衛がどうのこうのとか言っていたくらいだから、近場ということはさすがになかったか。
駅に着いて、切符を買う……ということはなく、あらかじめ余裕を持ってチャージしておいた、主に電車に乗るために作られた電子マネーのカードを改札の入口にタッチして中に入る。
電車に乗るためだけでなく、買い物もできるらしい。世の中便利になったもんだね。
そんなことを暇つぶしに考えながらホームに降りると、いつもの休日のこの時間帯にしてはあまりににぎやかな感じになっていた。
「ずいぶん混んでないか……」
「今日、隣町でお祭りがあるんだってー」
「ああ、そういえばあったな」
子供の時は必ず行っていた覚えがある。最近こそ盛り上がりが少なく忘れていたが、出店の誘惑だとか、手作りのフロートが練り歩くパレードだとか、子供ながらに楽しんでいたものだ。
「電車来たよ。乗っちゃおー」
「いや、乗っちゃおうってこれをか?」
目の前に広がるは、ドア間際まで荷物のように詰め込まれた人の群れ。
美央は何を根拠にこれに乗れると判断したんだろう。
「一本待つ時間がもったいないもん」
え? それだけ?