15.にゃ?
とりあえず母親にはリビングへお帰りいただいたが、俺はメイドスキーという誤解が完全にインプットされてしまったようだ。
俺は何も悪くない……よな?
「ごしゅじんさま、ご迷惑おかけしましたにゃ……」
「いや、そもそもその呼び方をやめろ……って、なんだその語尾は」
さらにツッコミどころが一つ増えている。正直、頭が痛い。反省している感じにはまったく見えない。というか反省する気もないな、こいつ。
「おにいにゃん!」
「だから抱きつくなって!」
「だめだにゃ、にゃーにゃー語で話さなきゃいけないんだにゃ」
いくらなんでも切り替えが早すぎやしないか。とりあえずこのうっとうしいにゃーにゃー語とやらをやめさせなければ。
「にゃーにゃーうるさいにゃ」
「にゃーん! うれしいにゃー」
「くそっ……つられてしまった」
美央がメイド服で小さく跳ねながらにゃーにゃー言っている。もはや俺には理解不能の域だ。
よくよく見てみると、美央がつけているカチューシャの両横から、ふさふさとやわらかそうなネコミミらしきものが出ている。
まさか、そういうことなのか!
……と、乗っかってみようと思ったが無理だった。
無性に腹が立ってきた。ネコミミをつまんで引っ張りあげてみる。
カチューシャと一体になっているからそれごと取れるかと思ったのに、意外としぶとく残っている。
と思ったら、美央がこめかみを押さえるようにして抵抗していた。
そりゃそうだ。これで本当に一体化していたら怖いものがある。
「いきなりにゃにするにゃ! これがないと破壊力が半減するにゃ!」
「なんの破壊力だ、なんの」
「世の男の人のハートを侵略するための必須アイテムなのにゃ! おにいにゃんにどんなにがんばってもだめなら、手当たり次第にまき散らすのにゃー!」
もはや言っていることも理解できない。俺、どうすればいいんだろう。
「大丈夫にゃ、わたしにまかせてにゃ」
「さすがにまかせられない」
「正直じゃないにゃ、きっとすぐ気持ちいー気分になるにゃ」
美央が俺に飛び込んでくる。完全にダイブというような勢いで、俺の胸のあたりで一瞬、息が止まるようなダメージを食らった。
「にゃーん、にゃーん」
美央がそのまま、顔をすり寄せてくる。何この状況。
で、まあたぶん、このあとどうなるか俺には予想できる。
「雄斗、いい加減に……!」
ほら、やっぱり。
「雄斗……あれほどだめよって言ったはずだけど?」
おそらく、言い訳なんて聞いてもくれないんだろう。
俺は覚悟を決めていた。
覚悟決める必要なんて、絶対ないはずなのに……