14.ごしゅじんさま
とりあえず、整理したい。
美央の部屋に入ったら、着替え中で、メイド服の格好をした美央がいた。整理終わり。
整理はそんなものだが意味がわからない。なぜ、そんな格好をしているのか?
俺が固まったままでいると、美央はその間にも着替えを終えて、俺に視線を向けていた。
「最後まで着替えを見るなんて……信じられなーい。でも別におにいちゃんだから……わたしのすべてを見せてもいいかな、どきどき」
なんか勝手なこと言ってるぞ。動かなかった俺も俺だが、もう少し恥じらいくらい見せてもいいんじゃないだろうか。
「恥じらいなんて見せたらますます興奮させちゃっておそわれちゃうかもしれないもん! あ、でもそれでもいいかも、ねっ。わくわく」
ウインクしながら完全に俺の思考を先読みしてきた。
なんなんだろう。顔に出ているんだろうか。
「ところで、その格好はどうした」
「えへへ、かわいいでしょ。メイド服みたいなの着てみたんだー」
「どんなパーティーに行くつもりでそんなの着てるんだ」
「パーティーなんて行かないよ! おにいちゃ……じゃなくて、ごしゅじんしゃま。うう、かんじゃった」
美央が片手で自分の頭を叩く。
なんだそのドジっ子のような振る舞いは。
「その呼び方やめてくれ。気持ち悪い」
「せっかく喜んでいただけると思って引っ張りだしてきたのに……ごしゅじんさまったら、ひどいです!」
また美央が調子に乗りだしてきたぞ。『ごしゅじんさま』の部分をわざわざ身を出して強調して言ってるし、言い回しも変わってるし。
「おかえりなさいませ、ごしゅじんさま。わたしのお部屋、いかがですか? へへー、うれしい?」
「うれしくない」
美央が遊んでいるだけじゃないか。まさか美央にこんな願望があったとは……ちょっと、いやかなり引いたぞ。別にメイドが悪い訳じゃない、美央がやっているというのが引く。
「またそんなこと言ってー、わかった。そうしてわたしのことを突き放して、気を向けようとしてるんですね。あう……イジワルなお・か・た」
性格がころころ変わるのが余計に気持ち悪い。足先から順番に全身に震えがきた。
「もうやめてくれ……というかそうだ、注意しに来たんだった。とりあえずドタバタとうるさいから静かにしてほしいんだが」
「じゃあ、わたしと一緒にドタバタするようなこと、してみる?」
にひひ、というような感じで口を横に伸ばした笑いをしながら、美央が俺に迫ってくる。
「ちょ、やめろ抱きつくな」
「赤くなってるー、ちょっと期待しちゃってる?」
冗談じゃない。しかし、いつもと違う格好をしているせいか、布のこすれる音とか一応女である美央からの香りだとか……やられそうにはなる。
ま、まずい! このまま流されるわけには!
「ちょっと雄斗! うるさいわよ!」
こんな時に母親が入ってきた。そして動きが止まる。
さっき俺が美央の部屋に入ろうとした時と同じような状況だ。
……冷静に考えている場合だろうか。何かを今、考えなければいけないような気がする。
もう慣れてしまったが俺しか注意されていないこと? いやそれよりも。
「雄斗、あんたの趣味は否定しないけど、美央を巻き込んだら……わかってるわよね?」
なんという、とばっちりだよ。