12.ゆうわく
「おにいちゃん、起きて、起きて」
朝、俺は肩を揺さぶられる感覚で目が覚めた。
ああ、ついに回避連続記録が途切れてしまったか。よっぽど深く眠っていたのか、意識もはっきりとしない中でそれだけは考えられた。
そうか、もう7時を回ってしまったのか……と思いながら、一応時計を確認しようとする。
しかし、そうする前にある異変に気づく。
いくらなんでも、部屋が暗すぎるのだ。時計を見る前に、時計の位置を確認すること自体ができない。
「美央、今何時なんだ?」
「えーっとね……4時くらい?」
まだ目が慣れず、美央の顔もよく見えない。声だけが俺の元に届く。
腹の辺りにあるわずかな重みだけが、その存在を主張していた。
「4時って……何しに来た、眠いから俺は寝るぞ」
「そんなこと言っちゃっていいのかなー? 何するか、わかんないよ?」
美央とのやりとりをしているうちに目が徐々に覚めてきて、暗闇に目も慣れてくる。
飛び込んできたのは、美央の顔とその格好。
それはへそが見えるほど短くゆったりとしたタンクトップのようなものに、足が完全に露出したホットパンツという、普段でもあまり見ないようなもので。
「なんだよその格好!」
「しーっ、お母さんとお父さんが起きちゃうよ? おにいちゃんがいけないんだよ、視線外さずに見つめてくるんだもん」
「あれは美央に対抗するためにだな……」
「ちょっと、嬉しかったな」
今度は美央が、俺に目を向けて離さない。そむけたかったが、金縛りにあったかのように動けなくなる。
「嬉しかったけど、逃げちゃった。心の準備ができてなかったから。だから、これからその続き」
「続きって……何考えてるか知らんがそんなのしなくていいから!」
「おにいちゃん、かわいー」
まただ。またかわいいとか言い出す。こうなると、また美央のパターンにはまって流されてしまう。なんとか抵抗しなければ。
「抵抗しようと思ってもだめだめ。おにいちゃんがいけないんだから」
「や、やめろ……って」
「さーて、どうしようかなぁ……どきどき」
幸か不幸か、そこで俺の意識は飛んでいく。
いったい何をされてしまうのか、まったくわからないまま……
「おにいちゃん、起きて、起きて」
朝、俺は肩を揺さぶられる感覚で目が覚める。
似たようなことが、つい最近あったような気がする。
違うのは、辺りが明るいこと。時計が7時をさしていること。美央の顔が見えること。
……乗っかられてるのは、同じだった。
「じゃあ、続き、はじめよっか」
美央のこのまどろみを吹き飛ばすような言葉とともに。
「や、やめろって!」
「寝言、聞こえてたよ」
その一言で、完全に目が覚める。
「えっち」
何も言い返せなかった。
何もされていないだけ、とりあえず良かったと思うべきなのかもしれない……自分を保つためのよりどころは、もはやそこしか残っていなかった。