11.ベッドタイム
結局、今日唯一の自由時間は、今から寝ようとしているこの時間だけになってしまった。
「今日は、いろいろ疲れた……」
朝から晩まで美央に振り回されっぱなしだ。思えば小さい頃からだいたいこんな感じだったけれど、どうも美央が高校生になった今年から、ますますくっついてきているような気がする。
普通、高校生にもなればむしろ離れていくものなんじゃないのか?
そんな疑問をもっても、美央には通用しないようだ。
ベッドの上から、ベッドとくっつけている壁の方に向かって体を向けていた俺は、それに向けて話しかけてみる。
そりゃ、もちろん反応が返ってこないのは承知の上だが。まあ、自問自答みたいなものだ。
「わかんねーなあ……」
「何が、わかんないの?」
しかし、反応が来ないはずの壁から……はさすがに何もなかったが、その反対側、背中の方からの声があったのは間違いなかった。
いや俺の空耳だ、で片づけたいところではあるが、今日一日のことを考えると、もう否定する気も失せてくる。
「いつの間にもぐりこんだんだ!」
「すごいでしょ? もうスリル満点なの、どきどき」
あえて振り向かずにそのまま質問を投げかけてみるが、もはや美央は俺のした質問に答えてもくれない。
この状況、さすがにこれはまずいんじゃないだろうか。何がまずいって、わかるだろう。ふとんの中で仮にも男と女がどっきどきのシチュエーションなんだぞ。……もう自分でも何を言っているのかよくわからなくなってきた。
何も言わず壁の方に身を寄せる。しかし美央が追うように来ているのは、背中を向けていても気配だけでわかった。だんだん追いつめられているような状況だ。
「美央……おまえ何をしているのかわかってるのか」
「妹に何変な想像してるのー? エッチ! ロリコン! シスコン!」
そう言って美央の手が俺の胸に回される。ぴったりとくっつかれるのは、虫の這うような感覚がしてくすぐったい。
だからそういう想像だって。よっぽど美央の方が変な想像……どころかもう行動に出ちゃってるじゃないか。
それにロリコンはないだろ……美央とは一つしか年が違わないんだぞ。いや、それよりももっと違う問題があるのはわかってるが。
しかし、やられっぱなしは癪に障る。今まで散々、やり返そうとしては返り討ちにあうという経験をしてきたが、何もしないで敗北を認めるのはもっと嫌なのだ。
抵抗しようとするからやり返される。ならば、恥ずかしいというか道徳的によくないとは思うが、美央のペースに乗っかってやろうじゃないか。
俺は体を反対側に向け、美央と向き合う形になる。
目を見つめてやる。こんな風に直視することなんてなかなかないので、自分としてはかなり思い切った行動だ。
「美央……」
なんて、名前を呼んでみたりして。今すぐにでも逃げ出したい気持ちはあったが、それではいつもと同じになってしまうので我慢した。
「あ、あうっ……」
美央が先に目をそらす。やった、どうやら競り勝ったようだ。
ふと、何でこんなことで勝たなきゃいけないのか、勝ってどうするのかというのが浮かんだが、深く考えないことにする。
「おっ、おにいちゃんのバカ……っ!」
持ったのはちょうど我慢していたまばたきを一回したころくらいだろうか。
予想外なことに美央の方が先に折れて、ようやくベッドを出たと思ったらそのまま駆け足で部屋を出ていってしまった。
なんだ美央のやつ……せっかく合わせてやったのに。
まあいいや。これでゆっくり寝ることができるというものだ。
とりあえず、出ていくのなら部屋のドアくらい閉めていってほしかったけど。