ラベンダー
列車は広大な麦畑の間を、ガタゴト揺れながら走り続けている。
対面式のシート。
目の前には僕と同世代と思われる女性がひとり。
話しかけてきたのは、彼女の方だった。
初就職の初任給の記念にと実行して以来、3年目の個人旅行らしい。
照れ臭そうに笑って教えてくれた。
行き先は初夏に咲き誇るラベンダー畑。
実は僕もそこへ行くのだけど、それ以上は互いに何も語らず、太陽を受ける黄金色の麦畑を眺めた。
ダークブラウンの長い髪を彼女はそっとかきあげる。
開いた窓からの風が心地よかった。
甘い香りと涼し気な青紫色の花畑で、恐らく彼女と再会することだろう。
ああそういえば、変に思われないためにも「行き先は一緒」と話しておくべきだったかな。
今さら遅い。確実に再会するとも限らないし。
列車はやはり揺れながら、ゆっくりと目的地へ近づいている。
景色は変わり、赤や緑や青の屋根。民家が見え始めた。
到着駅まで、あと少し。
Fin.
Thank You!