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第三話 「七歳と九歳」

 時の流れとは早いもので、気づけば俺は七歳になっていた。

 あっという間だ。

 思えば俺はだいぶこの村に馴染んだような気がする。


 アナベス家と共にささやかに誕生日を祝ってもらった夜。

 家族が寝静まったあと、俺はプレゼントの日記帳を手に取っていた。

 革製カバーのしっかりしたタイプだ。


 この日記帳というのは別段俺が頼んだものではない。

 むしろ誕生日を迎える度に俺は何もいらないと言っているのだが、何かしら俺の好きそうなもの母さんがチョイスしてくれている。


 去年は小説「セラフィム」の第六巻だったし、その前は木刀。

 絶対俺の心を読んでいるだろう。

 もしくはテレパシーか。


 ちなみに小説などの娯楽品は村の外から来る。

 実はこの辺境に三か月に一度、商人基役人がやってくるのだ。


 一応この村は王国の一部であるために税を納める必要がある。

 それは年に一度だけだが、それ以外だと商人として物を売り買いしにくる。


 各家、平等をきすため長老がお金を分配する仕組みとなっている。

 商人は服から装飾品、鉄など様々なものを護衛の集団と共に連れてくる。

 だから商人が来る日は皆祭りのように大騒ぎだ。


 話を戻して、俺は日記に少し憧れを抱いていた。

 日記を毎日書いて、分厚くなったら努力した証みたいに残るらしいからな。


 白紙の日記を見ながら、何語で書けばいいか悩んだが日本語で書くことにした。

 ということで、早速日記帳に筆を下ろした。


天雲暦510年2月5日


 ここ六年、起こった出来事を数えていたらキリがないな。


 でもまずは家族だ。

 産まれてすぐの頃は精神がどうしても邪魔していた。

 どうしても前世の両親を思い出してしまっていた。


 ただ、ここ数年二人との時間が長くなるにつれ、二人と前世の二人が乖離していくように感じる。二人を家族だと思えるようになってきた。

 俺の知っている両親というのと大分違うからなのかもしれない。


 母さんはキリっと立った目尻からは想像できないほど明るく、優しい人だ。

 俺を褒める時、母さんは俺をギュッと抱きしめる癖がある。

 初めは驚いたけど、今では自然な行いだと思えるようになった。

 

 今考えても変な話だ。そんなこと、俺が一番忌避しそうなのに。

 俺が褒められることに慣れていなかったということなんだろうな。

 離婚してから母親にはあってこなかったし。


 一方父さんは見たまんまというか、クールな二枚目って感じだ。

 母さんが明るくよく喋るから、父さんは逆に多くを語らないミステリアスな雰囲気を漂わせている。

 ただ言動からは心底俺を愛していてくれていることを身に染みて感じる。

 これまた不思議だ。


 二人が俺に声をかけると胸がポカポカ暖かくなる。

 中毒性の高い物質が分泌されているのだと思う。

 

 

 そして弟、千颯。

 そう。実は二年と少し前に母さんがめでたく懐妊して家族が増えたのだ。

 命名したのは父さん。イカした名前だと思う。


 産まれた弟は父さん似で数年経てば、美少年となるだろう。

 普段はかっこよくシュッとした父さんが慌てふためく姿には笑ったな。

 アナベスには怒られたけど、「笑っちゃダメでしょ⁉」って。


 ただやっぱりというか当たり前というか、千颯は俺と違って転生児じゃないから、ごくごく一般的な速度で成長している。

 母さんもこれぐらい迷惑かけてもらわないとねと笑っていた。

 どうやら俺は迷惑をかけていないことになっているらしい。

 それはそれで心外だ。めちゃめちゃ泣いただろう!


 そういえば最近、剣術を学び始めたな、俺。

 村の子供たちのリーダー格であるユウトという少年から指導を受けているのだ。

 これは父さんから聞いた話だが、ユウトの親は彼が産まれてすぐに亡くなり、長老の家で暮らしている少年で、なんでも父さんから剣術の指導を受けていたのだという。


 そんな彼が村の子供たちに剣術を教えていると父さんから聞いた俺は少し前から通い始めている。

 前世で格闘技をやっていたこともあって、基礎が何故か出来ている点で変に思われたけど、父さんの子供だからということで皆納得している。

 非常にラッキーだ。


 でも正直ここでもすぐに一番になれると思っていたけど、いい意味で思い違いをしていた。

 というのもこのユウトという少年、なかなかすごいのだ。

 だから日々俺は彼にコテンパンにやられる日々を過ごしている。

 目標は一本入れることだ。


 そんなユウトは俺から見てもビックリするぐらい大人び居ている十五歳の少年だ。

 困っていると手を差し伸べるし、謙虚だし、毎日手伝い以外だと剣を振っている勤勉ないい奴だ。

 親がいないからこそ周りよりも成長が早いのかもしれない。


 しかも、嘘か誠か肉屋の長女アケミさんはユウトに気があるらしい。

 彼女は今年十七歳になった村で一番豊満な体型をしている。

 歯に衣着せぬ物言いと抜群のスタイルにユウト以外の男どもは皆彼女にぞっこんだ。


 そして最後に最も重要な人物、アナベスについてだ。


 ちょっと前に知ったんだけど、天子家とユーキ家は昔から交流があったらしい。

 その縁もあってか俺たちは週に一度ユーキ家と食卓を囲む。

 昔は行ったり来たりしていたけど、千颯が産まれてからはずっと天子家だ。


 それが仲良くなったきっかけで、そこからは村の子供たちの日課のおかげだ。

 この村の子供たちは朝から昼まで親の仕事の手伝いをしている子供たちが多い。

 多いというか俺とアナベス以外は皆手伝いをしている。


 天子家とユーキ家には手伝いが必要ないからね。

 父さんは一人で狩りをするし、ジェームズさんは一人で鉄を打っているからね。

 だから必然的にアナベスと一緒に遊ぶ日々が続いたし、今でも毎日会っている。


 初めてアナベスに出会った時は将来自分の彼女に仕立て上げるだなんて思っていたけれど、その考えは会う頻度が増えていくと同時に風化していった。


 あの時は夜な夜な響くギシギシ軋むベッド音を毎晩聞いていたせいで内なる童貞心が爆発しかけてたんだ。

 今思えば大分精神がやられていたな。トホホ。


 結局俺はアナベスを妹としか見れない。

 アナベスに性的感情を抱いたらもうそれは‥‥‥逮捕案件だ。

 それにアナベスも俺を弟のようにしか見ていないしな。


 うわっ。

 今アナベスをそういう風に考えたら吐きそうになった。

 うん。やっぱりそういうことなんだろうな。

 もうさ、精神と肉体の乖離が激しすぎるんだよ。


 まぁ、チャンスは大人になったらいずれ訪れる‥‥‥はずだ!

 だって、俺結構イケメンだし‥‥‥

 ‥‥‥問題ない!

 ‥‥‥今しばらくの辛抱だ。相棒よ!


 「マジで、なに書いてるんだよ‥‥‥はぁ、寝よ」


 日記を本棚に戻してそのままベッドにダイブした。

 明日はアナベスと遊んでから広場へ剣術を習いに行く。

 またまた楽しい一日が始まる。


ーーーーーー


 明けて次の朝、朝食を食べ終えた俺は早速アナベスとの待ち合わせ場所へ向かった。

 今日も千颯が付いて来たがっていたが、やんわりと断りを入れた。

 涙目を浮かべる姿に心が折れかけたが、仕方ない。

 アナベスからは絶対に丘の場所を漏らしてはいけないと忠告されたからね。

 

 秘密の丘は天子家とユーキ家の中間点から天子家に面して右に位置している。

 左側は崖で、その下にはアルダー山脈から流れる川が湖を作っている。

 右側を歩き進めると目の前に「残針樹」の壁が侵入を拒むように立っている。


 名前の通り「残針樹」は幹から枝からその葉まで全てが鋭いとげに覆われているのに加え、針には小さな返しが無数に生えていて一度刺されればなかなか抜けない危険な植物だ。

 

 しかし、これは父さんや他の住人たちも知らないことだが、実は一か所だけまるで誰かが成形したかのようなトンネルが存在する。

 そしてこのトンネルを抜けると、丘への道が現れるのだ。

 一応バレないようにこの穴に草で編んだ衝立をはめ込んでいる。


 ここはアナベスが発見した通路だ。

 トンネルは俺達ぐらいの子供しか通れないほど低くて狭い。

 誰も知らないアナベスとの秘密の場所だ。


 いつものようにトンネルを抜け、丘へ向かうと先客がいた。

 彼女は丘の上に一本だけ生えた大樹を背もたれに地平線を眺めていた。


 涼風に靡く漆黒の髪。

 木々のさざめきを見つめるパッチリとした両目。

 スッと高い鼻頭にぷくっと膨らむ可愛らしい唇。

 今日は黒のワンピースに刺繍の入ったカーディガンを羽織っている。



 その姿に言葉をつけるなら可憐で可愛らしい、だな。

 

 こんな子役がいたら日本のみならず世界中が狂乱するだろう。

 そんな彼女に邪な感情を抱かない自分に今日も今日とて深く感謝する。

 もし神様が実在して会えたなら、お礼に足裏をべろべろ舐めてあげたい。


「あ、ソウちゃん!」


 草を踏みしめる音から気づいたのか、アナベスは立ち上がって俺に手を振った。

 満開の笑顔を目にして口角が上がるのをギュッと我慢しながら手を振り返す。

 今一度心より転生神様に感謝を申し上げながら。


「今日は何する?」

「うーん、今日は「灰かぶり娘」がいい」

 と、人差し指を顎にあてるアナベス。

 

 この「灰かぶり娘」というのはガラスの靴にカボチャに十二時のそれだ。

 当然この世界の物ではない。俺が教えた物語だ。

 というのも、同じ小説のおままごとに付き合っていた頃にふと、「なんで同じ物語ばかりやるのか」と聞くと「だってこれしか知らないもん」と返された。


 当然生まれてこの方おままごとなんてやったことのなかった俺としては新発見。

 まさに、エウレカ!だ。

 死ぬほどこの物語が好きなんだなと思っていた俺は顔を一発殴れた気分だった。


 そこで地球で覚えている物語の話をベースにおままごとを最近やっている。

 幸いにして、アナベスの好きなお姫様系は昔死ぬほど見てきたから全部頭に入っている。

 それはもう何度も何度も見たからな。

 だからこのままちょびちょび小出しにしていけばストックが切れる事は当分ないはずだ。


 

 そうして、午前中はアナベスと遊び俺たちは影が小さくなった所で切り上げた。

 昼ご飯を食べてから俺は広場へ、アナベスはアケミさんの所へ一緒に向かった。

 さすがに広場へ千颯を連れ出すのはどうかと思ったので、思いとどまった。


「じゃあソウちゃん、後で迎えに行くからね」

「うん、ありがとう」


 集会所でアナベスと別れ、俺は坂を下った。

 村の住居は高い土台の上に全て建っている。

 その土台は長靴の形をしていて、天子家が膝あたりだとすると、住民は踵からつま先で集会場は楔状骨にある。

 天子家の後ろにアルダー山脈が広がり、形成された湖の付近に畑が出来ている。

 そして今向かっている広場はその畑たちの隣の空き地にある。


 腰に差した木刀の柄を右手に抑えながら近づいていくと、座りながらご飯を食べている皆の姿があった。


「あ、ソウスケ来たー!」


 縁を登り、カズマと目が合うと彼は大きく叫んだ。

 すると皆は一斉に残っていたご飯を口いっぱいに押し込みだした。

 俺の到着は訓練の始まりの合図らしい。


 一人立ったまま剣を振り続けるユウトに近づくと、彼は木刀を降ろした。

 掻き上げた黒髪に十五歳にしては大柄な百七十五センチの身長と程よく筋肉の付いた体躯。

 キリっとした眉に立った鼻筋。味噌顔とでも言うのだろうか。

 ソースよりも濃くないから多分合っているはずだ。

 まぁ、頼りになるお兄さんって感じだ。


「早かったかな?」

「ちょうどいいよ」


 しとやかに笑うユウトは後ろへ振り向き、言葉を続けた。


「よし、じゃあ軽く準備運動から始めるぞ」

「もうそれ絶対軽くないじゃん。嘘つきー!」

「「嘘つき―!」」


 いつも通りカズマ達から非難の声が上がったが、ユウトは相好を崩すことなく、言い返した。


「でも強くなりたいんでしょ?」


 確かにユウトの軽いは一切軽くない。

 柔軟と走り込みに大体二時間ぐらい使うしね。

 ただ俺が従えるのはユウトも同じメニューをこなすからだ。

 多分皆もそうだと思う。


 ぐちぐち文句を垂れつつもユウトに従い柔軟に走り込み、そして素振りを終える頃には威勢のよかった皆も大の字で床に崩れ落ちていた。

 俺も寝転がっていたがユウトだけが立ったまま呼吸を整えていた。


 湖で水分補給を済ませてからようやく指導が始まった。

 木刀と盾を手に俺たちが整列するとユウトが口を開く。


「今日は昨日教えた星白流の基礎の応用を教えるからね。ソウスケこっち来て」

「まず改めて言うことじゃないけど颯右介は俺たちの中で唯一の左利きだね。だから戦うときにはフェイントが重要になる。だから今日は盾を使った色んなフェイントのかけ方からだね」

「「はーい」」


 ユウトが俺たちに教えている剣術はこの星白王国独自の流派である、星白流だ。


 この流派では片手剣と直径三十センチ程の小柄な円盾を使う。

 利き手じゃない方の手で盾を持ちこれを目いっぱいに伸ばすのが特徴的だ。

 伸ばした手で相手の剣をはじく又は流した隙に剣を振るというのがオーソドックスな戦い方とのことだ。


 ちなみに使っているこの木刀だが、商人から買う特殊な材木から作られている。

 この木材は中に沢山の気泡があるおかげで当たっても痛くないのだ。

 本気で振っても青あざが出来る程度なので全く怖くない。

 あと、この木刀を成形してくれているのがカズマの父親の木こりだ。

 

「盾をあえてぶつけたり、離したり、動かすことで相手の目を追わせたり方法は沢山ある。でもあくまでこれは相手を錯乱させるために使うから次の手を頭に入れた上でフェイントをかけること。」

「「はーい」」


 その後、俺たちは何度か休憩を挟みながらユウトの指導の元、稽古を続けた。

 気づけば真上にあった太陽も静かに足先を地平線に隠し始めていた。 


「よし。いい時間だし今日はソウスケの本立ちで締めよっか」

「「っはーい!」」

「え‥‥嘘。本立ち?」


 ようやく終わりかとへとへとな体でなんとか相槌を打っていると目の前の少年からとんでもない発現が投下された。

 皆が安堵のため息を溢しているのが見ずとも分かった。


「だって左利きはソウスケだけだし。しょうがないじゃん」

「いやいや、しょうがないってなんだよ?」


 ユウトは笑いながら青ざめる俺の肩を叩いた。


「手加減はするからさ。安心して?」

「‥‥嘘つき」


 本立ちは一人の人間に対して皆が列を作り一人一人戦うことをいう。

 それでどちらかが一本取ったら次の人、次の人と交代していく稽古だ。

 一番ハードで一番やりたくない稽古ナンバーワン。

 とりあえず、死ぬ。


「各自フェイントを頭に入れた上で行う事。よーし、始め!」


 しかし容赦なく火ぶたがきられる。

 襲い掛かってくるユウト。

 その顔に手加減の様子は一切見られない。 

 こっちのペース配分なんて考えてもいないに違いない。

 あーあ。

 でも‥‥こっちも本気出すかぁ。 




 うん。

 まぁ、そんなわけで俺は死んだ。

 結局二十人いる子供たちを二周したし、流石に体力の限界だ。

 本ばっか読んでいる根暗に対してこの仕打ちはひど過ぎるよ。

 基礎体力が違うんだよこちとら。死ねユウトめ。


「よく頑張ったね、ソウスケ。ほら」

 

 前のめりに倒れながらぜぇぜぇと荒い息を吐いていると目の片隅に水筒が現れた。

 何とか起き上がるとニタニタと俺を見下ろすユウトと目が合った。

 クソッ、なめやがってさぁ。俺がもっと強くなったらコテンパンに殴ってやるからな。


 水筒をふんだくり、溢すことお構いなくがぶがぶ飲んでいると、異変に気づいた。

 あら‥‥冷たいじゃないの。

 広場に置いてある水筒なら流石にぬるくなっているはずなのに。


 今一度ユウトを見上げると、頭をポンポンと優しく叩かれる。


「流石はソウスケだね。皆体力はあってもそこまでの気力がないからさ。やっぱり一颯さんの息子だね」


 何だ。優しいかよ!本当に憎めないなっ!お前は!


「よし、じゃあ今日はここまで。解散!」

「「はい!」」


 流石に疲弊しきっていた俺はユウトの声と共にドサッと腰を降ろした。

 散々な日だったが、やっぱり楽しくもあった。


「帰らないの?っソウスケ」

「うん。アナベスを待っているからね」

「そっか」


 ゾロゾロと帰り始めた子供たちを他所に、ユウトは再び木刀を振り始めていた。

 勤勉なユウトの姿をボーっと眺めていると、隣から影がぬっと現れた。


「ソウちゃん帰ろっ!」


 振り返るとアナベスと共にアケミさんが立っていた。

 彼女は長いドレスで体型を隠そうと思っているのか知らないが、やっぱり隠しきれない程の陰影がそこにはあった。


 彼女は変わらず木刀を振るユウトに呆れているように見えた。

「ユウトも帰るよ」

「なんで?」

「なんでって、今日は集いでしょ?」

「あー!そうだった!」


 ユウトへ手に持っていたタオルを渡しながら項垂れるアケミさんだったが、どこか嬉しそうにしているように見えた。


「はいはい。そうだと思ったわよ。だから早く帰りましょ」

「ありがとう、アケミ」

「べ、別にいいわよ」


 ツンデレっていいなぁ。

 と、二人を見ていると二の腕をつねられた。


「っいった!」

「‥‥‥‥」

「‥‥アナベスもありがとね?」

「許さない」

「えーーごめんってば」

「ソウスケったら本当にバカなんだから」


 笑うアケミさんにつられてユウトが吹き出した。

 なんだかよくわからないけど俺が他の女の子と話しているとアナベスはすぐに期限が悪くなる。よくわからないものだ。


 でも、そうか。確かに今日は日曜日だったな。すっかり忘れていた。

 集いは月に一度、集会所で村の皆が集まって大人たちがお酒を楽しく飲む場だ。

 俺たちは子供同士で集まってボードゲームをしながら時間を過ごす。

 結構楽しい行事の内の一つだ。


「アナベス達は今日何してたの?」


 自然と一列に並びながら俺達は広場を後にし、謝り続けたおかげで機嫌を取り戻したアナベスに尋ねた。


「今日はアケミお姉ちゃん達と一緒に花かんむりを作ったの!ほらっ」

「おぉーすごいね」

「でしょ?アナベスったら器用なんだからすーぐ出来ちゃったのよ?」

「ほんとだ。流石だねアナベス」

「ありがとっ!ママにも後で見せるんだ」


 ジャーンと高らかに見せてくれるアナベスと共にアケミさんが自慢気に頷いた。


「ユウト達はいつも通り?」

「そうだね。いつも通りかな。でも今日はソウスケが一番疲れたんじゃないかな」

「そうだよ、なんで僕が本立ちなのか意味が分からないよ」

「そう言わないでよ、普通にやってもソウスケにはあんまり練習にはならないでしょ?」

「そうなの?」

「流石はイブキさんの息子って所だね」

「じゃあユウト君よりも強いの?」

「もう少ししたら抜かれるかもね」

「嘘つけーー!」


 前世でも格闘技をかじってきたから分かるけど、俺とユウトの差は歴然だ。

 とてもじゃないけど追いつけそうにない。


「自分を信じないと叶うものも叶わないんだよ?颯右介」

「はいはい。でも僕別にそんな好きじゃないんだけどね」


 とはいえ、褒めてくれることは嬉しいものだ。

 まるで俺の方が年下みたいだけど、隠ぺい生活の弊害か俺自身も自分の年が分からなくなってきたような気がする。

 俯いた顔を上げると、ユウトの口角がなんだか引きつっているように見えた。


「じゃあ、また後でね」


 集会所で二人と別れ、俺はアナベスと一緒に帰りの一本道を歩いた。


「今日は何するのかな?」

「ユナちゃん達が新しいボードゲームを買ったからそれをやるんだと思うよ?」

「そうなの?」

「うん。ユナちゃんすっごく面白いから楽しみにしててって言ってたよ」

「楽しみだね」


 濃度を増すオレンジを背に深く頷くアナベスに俺は笑みを溢した。


「面白そう!」


「続きが気になる!」


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