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第一話 「酷くありがちな始まり」

瞼を開くと、大きな影が俺を覗き込んでいた。

視界はなぜかぼやけていて、何度瞬きしても霧がかっている。


ふと体が浮きあがった。

目の前の人が俺を持ち上げているのだろう。

高校生の俺を持ち上げられるなんて、力持ちだな。

思えば小学生以来じゃないかな?人に抱えられるなんて。


対象に近づくにつれ輪郭がはっきりと見えだす。

ん?・・・・・・女性だ。


それもただの女性じゃない、美女だ。

20代前半の美人。黒い髪にアーモンド型の瞳。

そんな端正な顔立ちをした女性が慈愛に満ちた表情で俺を見下ろしている。

まるで自らの赤子かのように。


途轍もない違和感を覚えながらも俺は彼女から目線を外せずにいた。

美人だからという理由じゃない。

なんだか不思議と繋がりを感じる気がする。

でも親戚にもこんな綺麗な人はいないよな。


「――――。――――・・・――――」


薄っすらと口の動きと共に音が聞こえる。

何語だこれは?

微かに聞こえるその言語は日本語のそれじゃない。


「―――、――――――」


見つめている女性とは違う声がした。

隣を向くと彼女の横で黒髪の男が同じように俺を見下ろしている。


こっちも年は女性と同じぐらい。

爽やかな風貌に切れ長の瞳をした二枚目。聡明そう。

周りから頼りにされ、皆から好かれそうな人だ。

そんな彼もまた俺を柔和な瞳で笑いかける。


やっぱりヤンキーが美女と一緒だったら嫉妬するけど、こういう真面目で頭が良さそうな人が付き合っていたらなぜか気分がいいな。

見下ろされながら俺はそう思った。


よく女性は強い男に惹かれるとか言うけど、あんなのはダメだね。

ダメダメ。

マイナスからスタートしている人よりも最初からプラスにいる人の方が絶対いいに決まっている。


あれ・・・・・・・じゃあ俺は誰なんだ?

仮に二人が付き合っているとして、俺は何なんだ?

二人とは絶対に面識がないのに、慈愛は俺に向いている。

というかここはそもそもどこだ?


さっきの情景が沸々と脳裏に湧き上がる。


突然の豪雨。

赤い信号。

それを無視する三人組。

彼らから逃げる俺。

急停止するトラック。

横断歩道を見るために振り返る俺。


そしてその直後、後頭部に走る激痛。

そのまま前のめりにもう一度頭を打って‥‥それから。

それからの記憶がない。


最後に覚えているのは冷たい雨水が頬から鼻へ垂れていく感覚。

俺は生きているのか?痛みは感じない。


でもここが集中治療室ならなおさら二人がここにいる意味が分からない。

それになんでこんな女性が80キロある俺の体重を持ち上げられるんだ?


ふいにポトッと艶のある黒髪が額に落ちた。

見上げると女性の長髪のようで、少しむず痒かった。

かかった髪を除けようと手を伸ばすが、なんだかぎこちない。


手を目の前で掲げると再び違和感を覚える。

ぷにぷにしている。

まるで・・・・・・まるで赤ちゃんの手だ。

あれ?・・・・・・左手も同じだ。俺の体とは違う。


「あーんにゃー!」


なんだこりゃー!と叫んだつもりが、口から出たのはうめき声とも喘ぎ声とも判別がつかない音だった。


パニックを起こした俺は自分の意志とは裏腹に泣いた。

それもワーワー叫びながらの大泣きだ。

こんなに恥ずかしいことはない。

慌てふためく二人の前で涙腺を必死に閉じようと力むが、うまくいかない。


泣きすぎて耳が痛いし、

尿道も緩いのかなんだか鼠径部が暖かいし、

あたふたする二人にも申し訳ないし・・・


・・・・・・も、もう誰でもいいから何とかしてくれー!



それが物心ついた初日に思ったことだった。



ーーー



あの大泣きから一週間の月日が流れた。


靄が掛かっていた視界も晴れ、わかったことがある。


まず、どうやら俺は転生したみたいだ。

これは鏡を見て確信した。


それまでの疑念がすべて晴れた。

俺はあの事故で死に、赤ん坊として生まれ変わったのだ。


昔から死んだら天国へ行くという概念に疑問は抱いていた。

色んな考えがあるみたいだけど俺はどこかの科学者が唱えた仮想現実説が一番好きだった。


死ぬとVRゴーグルを外されて、隣で監視している人間に、仮想現実はどうだった?と肩を叩かれるそんなオチ。


でも現実は違うようだ。

現に俺は地球に再び生まれ落ちたわけだから。

それに前世の記憶を持ちながら。


そうだ。この記憶があれば、もう同じ轍を踏まずに済む。

大嫌いな自分を改めて、変われることができる。

今度こそ俺の理想とする人間になりたい。


それにはまず、努力をする。

今世の俺には才能が全くないかもしれない。

手先が器用じゃないかもしれない。

見た物をすぐに自分の物にはできないかもしれない。

でも地道に一歩ずつ蓄積していけば必ず実るはずだ。


そして誰も裏切らない。

大切な人の前では絶対に嘘をつかない。

もうあんな罪悪感を覚えたくない。

胸が締め付けられて息ができなくなりたくない。

真っ当にちゃんと両親の誇りになれるように頑張りたい。


最初はこの二つだけでいい。

しっかりと心に刻もう。


ただ赤ん坊の俺にできることはまだない。

今はじっくりと時が経つのを待とう。


あれ・・・・・・頭が熱い

視界がなんだか狭まってきた。

熱中症みたいな感じ。


誓いを胸に刻んで俺は気絶した。



ーーー



一か月の月日が過ぎた。


ちょっと前から思っていたことなんだけれど、

いくら前世の記憶があって実年齢が18歳でも、

体と頭は以前赤ちゃんのままだ。


何がいいたいかと言うと、普通に考え事をすると頭が熱くなって気絶するのだ。

実際何度か気絶して母親に迷惑を掛けた。

多分脳みそが小さすぎて複雑な思考ができないんだと思う。


それと母親と言えば、不思議なことに俺は授乳されることに何ら抵抗がない。


前世の俺だったら間違いなくそういうプレイだと思って欲情するし興奮する。

間違いなくするだろう。

一応健全に思春期のド真ん中にいる男の子だからだ。

でも全くそういう気が湧かないのだ。

むしろ母親に対して感じたことのない暖かい気持ちが湧くのみだ。


本能が彼女を母親だと認識しているからなのかもしれない。

それでいいし、それがいいんだけどね。

だって赤ん坊が授乳の最中に欲情するなんてクソほど気持ち悪いだろうし。


時代が時代なら教会へ悪魔の子だと告発されるだろう。

俺が父親だったらそうする。


「神父様、うちの子が悪魔に取りつかれているみたいです」

「何―?悪魔は根絶やしにしなければな。おい火あぶりにするぞ」

「待ってください!悪魔だけを祓うことはできないのですか」

「それはもう手遅れだ。乳を吸って欲情するということは脳まで乗っ取られているはずだ!」


なんてことになりかねない。


ま、住んでいる家的に教会は近くにはなさそうだからセーフ。

というかここはどこの国なんだろうか。


両親は色白で黒髪だから東洋人だとして、

耳にする言語は聞きなじみがない。


俺はワンランゲージしかスピークできないから、まず日本ではないだろう。

でも青森とかは方言がきつくて日本語に聞こえないって話を聞いたことがある。

だから日本という選択肢は捨てきれない。


父も母もシャツにズボンと物珍しさは感じない。

服の材質は詳しくないけど綿だと思う。


ふむ。何も絞れないな。


ただ断定できることがあるとすれば、ここは田舎だと思う。


たまに食い入るように窓の外を覗くが、見えるのは森に森に森。あと山。

それだけだ。


それにこの前帰ってきた父の服のいたるところに泥が付いていたから間違いない。

クワを持っていたから、畑仕事でもしていたのだろう。


ずっと都会で暮らしてきたから、畑仕事なんて映像で見るぐらいで何も知らない。

前世と違ってあまりお金持ちの家ではなさそうだけど、別に問題ない。


日向ぼっこして野菜が育つのを見守るのも楽しそうだ。

そう考えると不思議と心が躍った。

早く歩けるようになりたいな。



ーーー



半年の月日が流れ、待ちわびていた瞬間は唐突に訪れた。


いつものように寝ていると、ふと後頭部に当たる涼しい風が感覚をくすぐった。

初めての経験に意識が叩き起こされる。

パチパチと瞬きをすると、目の前には田園風景が広がっていた。


俺は家の外にいたのだ。


見慣れない風景を頭がゆっくり咀嚼すると、俺は快哉を叫んだ。

驚く母さんを見て冷静を取り戻したが、心臓は高鳴りを止めない。


澄んだ空気を胸いっぱいに入れ、擦れる葉っぱの音を記憶に保管し、感じる緩やかな風に身を任せる。


初めての体験で何もかもが目新しく感じた。



それから何度か母さんに抱っこ紐で外へ抱えられて仮説は定説となった。

ここは田舎だ。

それも結構な田舎だ。


二階建ての切妻屋根の家が広い間隔で建ちならび、四方は山に囲まれている。

山から流れる水流が池を形成し、その隣には稲の田んぼで埋め尽くされている。

水が張った田んぼに光が射し、それはもう眩しく美しく輝いていた。

花鳥風月とはこのことだろう。


そして両親の家を背に大木が連なった山脈がある。

木漏れ日すらも遮っていて、奥まで見えないせいで少し不気味だ。


俺が暮らしている家は最もこの山脈に近い場所に位置している。

他に土地がなかったのだろうか。

クマとかイノシシがいつでも暗闇から飛び出してもおかしくない。

ま、家が建っているということはそんな心配は必要ないか。


それより、いつか一人でここを歩けるようになりたいな。

都会暮らしだった俺にとってこの景色は新鮮他ならない。

木々に山々それに澄んだ湖。これを見ていたらやる気も出るものだ。


歩くと言えば昨日久しぶりに進展があった。

まず、当たり前だが俺は歩けない。赤ちゃんだから。

だが、歩いたことはある。当たり前だ。


でも歩き方について考えたことは一度もない。

競歩の選手でも一度もないだろう。

クロスカントリーでも同じことだと思う。


何が言いたいかというと、歩き方が分からないのだ。

これは多分本能に身を任せないといけないのかもしれないけれど、俺は早く歩きたくて仕方がない。


なので考えた。そして理解した。

歩くまでの道のりは多分四段階に分けられると思う。

うつ伏せ、よちよち歩き、つたい歩き、歩きの順番だ。


うつ伏せは数か月前に成功している。

初めてやったときは勢いを付け過ぎて、頭を盛大に打った。

その直後に泣いたことは記憶から・・・・・・頑張って抹消している。


ただその次のよちよち歩きまでの道のりは長かった。

這おうと思ってもうまく体が動かない。

思ったように体は動かないし、動いたとしても力が入らない。

陸にいるワニの後ろ脚みたいな感じだ。


あと贅肉が邪魔。可動域が狭くてすごく窮屈なんだ。


ただ何度も何度も母さんが見守る中、俺は懸命に手足を掻いた。

そして昨日、俺は初めてよちよち歩きに成功したのだ。


ゆっくりと自分のもとへは姿を見た母さんは外へ飛び出した。


「一颯!颯ちゃんがよちよち歩いているよ!」

「え?本当に⁉」


よちよち歩く俺を見た父さんは興奮した様子で俺を抱き上げた。

喜ぶ二人を見ると心の隙間が何かで埋まっていく気がした。


「颯ちゃん、こっちへおいで!」


膝をついた母さんがポンポンと床を叩く。


「・・・・・・うちの息子は天才なのかもしれないね」

「ならあなたそっくりになっちゃうわね」

「僕は天才なんかじゃないよ」


母さんの方へ懸命に這っている中、父さんが謙遜の笑みを浮かべる。


赤ちゃんの脳みそとは不思議なもので、近頃両親の言葉をそれなりに理解できるようになった。

中学で習った英語はいくら聞いても理解できなかったというのに。

やはり、成長するにつれて頭が固くなるというのは本当らしい。


でもまだ口の形がまだ形成されていないからか言葉を発すると、

いまだに「アーウー」と言葉にならない言葉で発してしまう。


これは地道に練習するしかない。


もし喋られるようになったらこの言語以外の言葉も学んでみたいな。

今の柔らかい脳みそなら何でも覚えられるような気がして仕方がない。


――


そんな感じで昨日は一日中母さんの膝を追いかけまわし、

へとへとになった俺は目を閉じて今日の出来事を振り返っていた。


俺を見つめながらイチャコラしていた二人はきっと今頃ベッドを揺らしているのだろう。

でも振動が聞こえないから二人は結構淡泊なのかも。

想像力が足りないのか、タガが外れる父さんが想像できない。

野に放たれた野犬の如く母さんに飛び掛かる姿が浮かばないな。


もしくは枕を間に挟んでいるか。


ベッドフレームと壁の間に枕を一個敷くだけで、

枕が振動を吸収して音を緩和できるのだ!


・・・・・・・・・・・


「のだ」じゃなくて「らしい」が正確だけどね。


これは経験ではなく、雑学で知ったものだ。



本だよ、本。

悪かったな。



・・・・・・・・・・・・・


はぁーあ。

泣けてきちゃうよ。


性に対する事柄はすべて知識でしかない自分につくづく呆れる。

実体験だよ。実体験。


幸い、両親の顔はいい。

美男美女カップルの間に俺は生まれているから、俺の美少年率は高そうだ。


いつか・・・・・・・・いつか俺は必ず卒業して見せる。


理想は幼馴染と付き合って、照れながらもデートに誘って、

それで何かのタイミングで初めてを交わし合って、それから結婚する。


思わず股間に手を伸ばす。

・・・・・・小さい。

仕方ないとはいえ、小さいな。


今の短小息子じゃあ彼女を満足させられないかもしれない。

分からないけど、大きければ大きいほどいいんだろう?

自尊心と息子の大きさは比例しているという。

それに当たる面積が増えて悪いことなんてあるのか?


・・・・・・・うーん・・・・・ないはずだ


そうだ。

ならば今日から伸ばしてみるのはどうだろうか。

念力じゃあ無理だろうから、強引に引っ張ればいいのかな。


試しに引っ張ってみると皮がちぎれそうになって痛い。

これは・・・・・・・・キツイな。


あ、そうだ。

それよりも前世の息子は恥ずかしがり屋さんだった。


大きさは不可抗力かもしれないけど、皮被りかどうか何とかできる。

子供の頃から亀さんを外気に触れさせておかないと。

天日干しみたく、カピカピになって新たな層を作らないと。

干し柿みたいに。

強制的に。


と思って、再び手を伸ばすが、皮と肉が離れない。

まるでヤンキー大学生と黒髪清楚美少女高校生の関係性ぐらい密接だ。


困ったものだ。

引きはがそうとすると想像を絶する痛みが走るのだ。


でもなんかモヤモヤする。

ヤンキー大学生に負けていると思うと無性に腹が立ってくる。

クソッ。

あんなチャラチャラした人間に負けてたまるか。

教室の隅で猥談を楽しむ人間の方が圧倒的に純粋で純情なことを証明しなければ!


ここは一思いに行かなければ。


全男子高校生の想いも乗せて。

いや、少数派の高校生だな。


ビリっと一思いに歯を食いしばって行ってやった。

同時に皮をちぎったかのような激痛が息子を伝って全身へ流れ込んだ。


下手すればあの交通事故よりも痛い。

タイヤに巻き込められる方がましに思える。

それほどの激痛だ。



まぁ、つまり・・・・・・・・・・俺は泣いてしまったわけだ。


ギャンギャンの大泣きだ。

部屋中に自分の声が反響して、耳まで痛くなった。


それに伴って駆けつけてくれた両親の服は所々はだけていた。



・・・・・・・・・・・ごめんよ

情事を邪魔するつもりはなかったんだ。

ただなんか変な嫉妬をしちゃってさ、うん。

ごめんよ。



その日俺は泣かないことと息子を将来泣かせないことをこの痛みに誓ったのだった。



―――



パーカーからタートルネックへ進化を遂げた次の日。


今日も母さんと共に買い物に出かけていた。

前向きの抱っこ紐で宙に浮いた状態。通常運転だ。


俺は密かにこれをコックピット状態と呼んでいる。


風景をいつものように頭に埋め込んだ帰り道、俺は目の前から何かが近づくのを感じた。

距離が縮まっていくとそれが一人の少女だということが分かった。


母さんの腰ぐらいまでの身長。

黒髪にクリクリとした茶色い瞳。

揺れるワンピースとボブカット。


天真爛漫とはこのことだろう。

彼女は手を振りながら駆けてきた。


「ミドリさん、こんにちは!」

「あら、アナちゃんこんにちは。挨拶がきちんとできて偉いわね」


ほう。アナと言うのか。

立ち止まった二人の会話に聞き耳を立てる。


家の方向から来たということはご近所さんなのだろう。


「ミドリさん・・・・・?」

「ああ、この子は颯ちゃんよ。アナちゃんとは初めましてだったよね」


ジッと戸惑いを見せる彼女と視線がぶつかる。

コテンと首を傾げる姿がとても可愛らしい。


「ソウちゃん?」

「そうよ、颯ちゃん。撫でてあげる?」

「うんっ!」

「優しくなでてあげてね」


よしよしとまるで子犬のように薄っすら生えた頭髪を撫でられていると、彼女の後ろから走ってくる人がいた。


「ミドリごめんね、うちの子変なことをしていなかったかしら」

「全然。今ちょうど颯右介を撫でてもらっていたのよ」

「もうアナちゃんったら、一人で先に行ったらダメでしょ?」


察するにアナちゃんのお母さんだろう。


ホッとした様子で彼女の頭を撫でた。

同時に肘に掛けていたカゴが揺れる。


どうやら彼女たちも買い物に出かける最中だったみたいだ。

ちょうど行き違いだったのだろう。


ここから先は一本道だから彼女たちはお隣さんなのだろう。

・・・・・・・・あれ?

ということはアナちゃんと俺は・・・・・・・幼馴染、になるのか。



最っ高に燃えるじゃないか!

こんな王道パターンが今世に顕現するなんて・・・・・・・

勝った!勝ったぞ!

脱童貞への道のりがモーゼの如く勝手に切り開かれた!

転生に感謝だ!



等と妄想しているといつの間にか俺は家に着いていた。


母さんと共に玄関を潜ると父さんがリビング待っていた。


「あら、どうしたの?」

「これを見てほしくてね」


 父さんは笑みを浮かべながら机に置かれた立方体の箱を指す。

 角ばった立方体には丸いガラスが埋め込まれていた。


「これは写真機と言うらしくてね。新しく開発された魔道具なんだ」

「へぇー、そうなのね」

「うん、試作品を王都から送ってもらってね。このボタンを押すと目の前の光景が紙になって映し出されるんだって」

「っそれはすごいわね」

「だよね。それで一回試したんだけど正常に動くみたいだから次は翠と颯右介を撮りたいんだけどいいかな?」

「はいはい、いいわよ。ほら、颯ちゃんおいで」


俺はなすがままに母さんに抱き寄せられた。

カメラぐらいで何を驚いているのだろうか。

もしかしてここは田舎過ぎてそんなものもないのかな。


「これでいいの?」

「うんばっちり」


レンズを構えた父さんは掛け声を言ってボタンを押した。

パシャリと音がすると機械の下から紙がウィーンと飛び出した。


「っん・・・・・」

「何これっ!すごいじゃない!私と颯ちゃんが写ってるわぁ」


母さんの持つ紙切れを覗き込むと俺と母さんの二人が微笑んでいた。

至って普通のカメラに見える。

ただ見たことないぐらいゴテゴテしていて、使いにくそうな形だ。


「そうだね。でも試作品だけあって結構魔力を吸うね。もっと改良して、消費魔力を減らしてもらわないとね」


は?

魔力?

何を言っているのだろう。


真面目な顔をしてカメラを見る父さんから視線を外して母さんを見るが、彼女も真剣なまなざしをそれに向けていた。


俺がおかしいのか?・・・・・・・・もしかして俺がツッコミを入れるべきなのか?


キョトンとした表情をする俺を見て母さんが柔和な瞳で俺に語り掛けた。


「あ、そうか颯ちゃんにはまだ教えてなかったね。魔力っていうのはこういうものよ」


そう言って手の平を開くと、半透明な点が手の上に浮いていた。

それは次第に大きくなり、野球ボールほどの大きさで止まった。


「これが「魔力」よ。皆の体にこの「魔力」があって魔法を使えたり、パパの魔道具を使うのに必要なものよ」


・・・・・・・・・何を言っているんだ?魔法?混乱してきた。


「颯ちゃん見ててね」

「・・・・・・翠、気を付けてね」

「わかっているわよ。家を燃やしたりしないから」


そう言うと手の平のシャボン玉が一瞬にして燃え盛る火の玉に変わった。

メラメラと陽炎のように端が揺れていた。

まるで・・・・・・・そうまるで、ゲームの世界での魔法だ。


ゲームとか小説とか映画とかで見るあの「魔法」だ。



そのあとのことはよく覚えていない。


ただ呆然と一日が過ぎていった。

ボーっと何も考えることができずに、過ぎた。

まるでタイムラプスの映像かのように。

気づけば太陽は沈み、俺は横たわりながら輝く月を窓越しに見つめていた。



魔法か。


つまりここは地球ではないのか。

異世界と言うやつなのか。

魔法と言うものが実在する世界なのか。


ゴクリと乾いた唾を飲み込んだ。


悪くないかもしれない。

夢見た世界が目の前にある。

・・・・・・・・悪くない


ここでなら頑張れるかもしれない。


決めた。

かもじゃなくて頑張る。

俺も母さんみたいに魔法が使えるようになりたい。

俺にもできるはずだ。


そして前世の失敗をここで成功に変えよう。

俺ならできるはずだ。



沸々と湧き上がる興奮と緊張を胸に目を瞑った。



「面白そう!」




「続きが気になる!」




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