箱庭の旅人
『君』が僕を誘う度に僕はつくづく実感する。
『君』がいる場所は苦しいことも楽しいこともない。呼吸を忘れてただただ流れに身を委ねるもよし、何者にも追われることもなく悠久の間惰眠を貪ることもよし。
一見すれば退屈な場所なのかもしれない。だが今の僕にとっては、『君』のいる場所はまさに天国そのものだ。
対して僕のいる場所は『独房』のようなものだ。窮屈な箱庭の中に閉じ込められ、蛆虫のようにわいて出てくる愚者と『まやかしの幸せ』を求めて日々争い合う。そんなことをした所で何も生まれないというのに。
僕はそんな日常に絶望し、今日もまた鈍色の空の元で自分が生まれた理由を熟慮する。
しかし、『君』が手を差し伸べてくれても、いつもあと一歩の所で僕は強い力に引き戻される。なぜ『君』は僕を連れて行ってくれないのだ。もううんざりだ。こんな窮屈な箱庭でみっともなく足掻いてまで生きながらえることには価値があるのか。
教えてくれ。『君』なら分かるんじゃないか。僕はどうするべきなのだ。
そうしてまた僕は『独房』に閉ざされる。いや、違うのかもしれない。
まだ何もなし得ていないから『君』のいる所にいけないのかもしれない。そう。僕が1番の愚者だったようだね。
ならば足掻こう。この醜くも欲望にまみれた美しい箱庭で。