第37話 勝利
帝国軍を敗走させた後、僕はほかの場所に援軍にいった。
劣勢になりながらも、何とか時間を稼いでおり、援軍は間に合った。
まだまだ最上級魔法は残っている。
帝国軍は、優勢で調子づいており、トレンス王国の援軍が来る事など想定していなかったようで、最上級魔法を受けた時は、物凄く慌てていた。
結果、帝国軍では上手く兵の統率が取れず、王国軍はあっさりと撃退することに成功した。
急いで、三カ所目に向かったが、帝国軍は城を陥落させる直前で撤退を開始した。
ほか二箇所があっさりと撃退されたという情報は帝国本国から、戦略を決めている総指揮官にも当然伝わっており、急いで撤退を指示したようだ。
そんなあっさりと撃退されたという情報を聞いて、むやみに戦を続けるのは明らかに愚策である。間違いではないだろう。
これで対帝国戦は勝利を収めることが出来た。
〇
ルトヴィア帝国、帝都。
「全軍の半分以上を失い、我が軍は敗退いたしました……」
ルドヴィア城の皇帝の間で、皇帝アーネスト・シュータッド3世は敗戦の方を受けていた。
「馬鹿な! なぜトレンス王国ごときに!」
皇帝は激高した。
トレンス王国で反帝国派が勝利し、独立を宣言したときは面倒だとは思ったが、負けるなどという事になるとは全く思っていなかった。
悪い知らせはさらに続いた。
トレンス王国が大勝利を収めたことにより、トレンス王国以外の帝国に反抗している国々が士気を高め始め、徐々に各地で戦況が悪化してきている。
まさに帝国は、ライルが現れる前の緊急事態に直面していた。
「なぜこんなことに……トレンス王国ごときが、なぜ我が帝国軍を退けることが出来たのだ!!」
「それが……敵に鬼のように強い部隊がありまして……最上級魔法を何発も使ってきて一気に劣勢に……」
「最上級魔法など何発も使えるようなものではないだろう……どういうことだ」
「それが……戦場から戻ってきた魔法使い数名が、妙なことを言っているようで……戦場でライルを見たと……」
「何?」
「少し髪を伸ばしていたけど、顔は恐らくライルだったと」
「下らぬことを申すな。ライルなわけがなかろう。奴は魔法を使えないゴミだ。きちんと検査して、魔法を使いきっていたのは確認済みだ」
「それはそうですが……ですが、ほかにも気になる点がありまして……ルベルトとアッシュがトレンス王国に亡命して、指揮を執っているようなのですが……彼らが亡命した理由が全く見当がつきませんでしたが、ライルがいるというのなら分かります」
「ルベルトとアッシュ……元魔法使いの連中か……」
皇帝は考えた。
魔法の残り数を考えると、ライルなはずはない。
しかし、それでももしかしたら、という思いが心の片隅に残っていた。
もしライルに何か奇跡が起きて、魔法が復活でもしたら。
あの時、帝国を救った力と今度は敵対することになる。
ライルの魔法の恐ろしさは、皇帝は良く知っていた。
恐れをかき消すように、皇帝は叫ぶ。
「下らん下らん!! ライルな訳があるまい!! とにかくトレンス王国を今すぐ滅ぼせ! 帝国の恐ろしさを思い知らせてやるのだ!!」
「し、しかし……今は兵が足りず……帝国内を守るのが先決で……」
「ぐ……」
皇帝も現状が理解できていないわけではない。
無謀な攻撃は逆に状況を悪化させるだけだという事は分かっていた。
「……敵が魔法を使うというのなら、こちらも増やすしかない」
「……第二のライルを見つけるのですか?」
「そうじゃ。とにかく魔法検査紙を使って、魔法使いを発掘せよ!!」
皇帝はそう命令を飛ばした。
〇
帝国を撃退した後、そのままの勢いで帝国へと侵攻を開始すると、シンシアが宣言した。
今回は勝利したとは言え、かなりの激闘ではあった。
僕たちが防衛したローランドー砦は、あまり被害はなかったが、ほかの砦の戦闘では自軍にも結構な被害が発生しており、生きている兵も疲弊していた。
回復魔法で肉体的な怪我は治せるのだが、精神的な疲労を治したり、死んだ人を生き返らせたりすることはできない。
今、攻めるのはどうなんだろう? と僕は思ったけど、シンシアは先を見通してこの判断をしたみたいだった。
「恐らく帝国は、今回の敗戦を受けまた第二のライルを生み出そうとする。帝国の人口は非常に多い。時間が経てば本当に魔法に長けた人材を発見するかもしれない。それだけは避けなければならない」
第二の僕……
あり得ない話ではない。
スラム街での魔法使い発掘は、一度僕という大成功例が出ており、追いつめられたら敢行しそうだ。
見つかるかは運もあるけど……でも、帝国が全力を挙げて探せば、いつか発見する可能性が高い。
確かにそう考えると、多少疲れがあってもこのまま行くべきではある。
確かに連戦で精神的に疲れている兵もいるが、逆に勝利が続いて、士気が高まっている兵もいる。
全部がマイナスに働くというわけではないだろう。
それから、シンシアは急いで出陣の用意をするように命を出した。
今回のように攻める戦では、シンシア本人も出陣をする。
「それでは出陣する!!」
高らかに号令をした。
最後の戦が始まろうとしていた。




