第32話 ルベルト&アッシュ
ルベルトさんは、帝国では散々お世話になった人だ。
しかし、あくまで帝国の人である。
そんな人に僕の存在を知られるというのは、ハクシュトアにとっては非常にまずいことである。
「あのー、どなたですか? 人違いでは?」
僕はとぼけることにした。
「とぼけるな! どう見てもライルじゃろ! 確かに髪は長いが、顔はライルじゃ! 間違いない!」
僕はあまり人の記憶に残りやすい顔はしていないけど、流石にルベルトさんほど長く顔を合わせていた人物は忘れていないようだ。
現在、僕は付け髭はしていない。
髭をつけていたら、バレなかっただろうけど、あれは誰か偉い人が来たときにつけるもので、普段から装着しているわけではない。
このように、いきなり来訪されると対応するのは難しくなるのだ。
「おいアッシュ! 来い! ライルがおったぞ!」
ルベルトさんは叫んだ。
え? アッシュもいるんだ。
アッシュは僕とほぼ同期の魔法兵だ。
彼は低級貴族出身で、かなりの苦労人で、僕と意外と気が合った。
あんまり友達がいなかった僕の、数少ない友達の一人である。
魔法の使用数は僕に次いで多かったんだけど、それでも僕より6年くらい早く魔法を使い果たして、その後は、ルベルトさんの下で働いていたはずだ。普通は魔法を使い果たしても、僕みたいに追放されたりはしない。
だから今日一緒に来ているのか。
アッシュが急いで走ってくる。
懐かしい顔を見て、思わず話したくなったけど我慢しなければ。
「マジだ。ライルじゃん。噂は本当だったのか」
「どう見てもライルじゃろ? でも違うと言っておるのじゃ」
「おいおい、それは通らねえだろう」
アッシュは呆れたような表情で僕を見る。
二人がどんなつもりでここに来たのだろうか。
犯罪者である僕を連れ戻しに来たのか。
それとも、僕を無罪だと信じて探してきてくれたのか。
二人が僕を無罪だと信じてくれているというのは、都合の良い考えかも知れない。
でも、二人には僕の人格を知ってもらえているし、信じてもらえるかも……
いやでもやっぱり話せない……
「人違いです。確かに僕はライルという名ですが、あなたたちのことは知りませんし、別のライルでしょう」
継続して人違いだと主張した。
「ふーん。そうかよ……じゃあ、ここにいる奴らに、俺の知っているライルの伝説を話すかぁ。あん時は女と三股して修羅場になって大変だったなぁ」
「それ全部アッシュの事だよね!?」
「……お前、相変わらずちょれーな」
し、しまったー!!
あまりにめちゃくちゃなことを言うから、反射的につっこんでしまった!
完全に罠にかかってしまった!!
「ライル、事情を聞かせてもらうぞ」
言い逃れはできない。
僕は仕方なく二人を屋敷に通して、話をした。
無罪で捕まったこと。その後、シンシアに救われ、ハクシュトアの領主になったこと。
「「ライルが領主〜!?」」
領主になったと話をすると、派手に驚いてきた。
「はっはっは冗談じゃろ。魔法以外これといった特技のないライルを誰が領主にするんじゃ」
「馬鹿にしてますね、完全に。まあ自覚はありますけど。僕が使える魔法が実はまだ合ったんですよ。帝国も知らない魔法です」
「何じゃそれは」
「それは言えません。帝国人のルベルトさんとアッシュにはね」
そういうと二人は黙った。
僕が根っこから信頼していないと、理解はしているようだ。
「トレンス王国では最近反帝国の動きがあるという。お主は反帝国派に就くつもりじゃな?」
ルベルトさんは話題をガラッと変更してそう言った。トレンス王国内の情報は、ある程度帝国に伝わっているようだ。
「はい」
僕は頷いた。
「詳しい事情はわしらが帝国人じゃから話せんと言うのなら、わしらは亡命してお主の領民となろう」
「え?」
その言葉を聞き僕は驚いた。
ルベルトとアッシュは、どちらも帝国内では結構なポジションを確立しているはずだ。
ちなみにアッシュも驚いていた。
「え? まじで亡命すんの?」
「当然じゃ。ライルよ。お主は確実に無罪なのじゃな」
「はい。それは間違いないです。僕は無罪です」
「そして、それは皇帝にはめられたからだと」
「はい。皇帝自身の口から聞きました。それが真実です。信じてくれるんですか?」
「無論じゃ。これだけ長く生きてきた。何を信じていいか、何を信じていけないかくらいは、きちんと理解しておるつもりじゃ。国を救った英雄であるお主を冤罪で追放するような国に、忠誠を誓うことなどわしにはできん」
はっきりとした態度でそう言った。
「あー……まあ、俺はルベルトさんいないと帝国内じゃやっていけねぇーし、そもそもムカつくのは間違いないし。もう魔法は使えねぇから、やれることは少ないけど、ここに住まわせてくれるなら、お前と一緒に戦うぜ」
アッシュも同じ考えだったようだ。
僕はどうしようか迷ったけど、最終的に二人を信用することに決めた。
「じゃあ、分かりました。二人を信用して僕が習得した魔法について全て教えます」




