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木漏れ日①  作者: 汪海妹
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5 難攻不落な女性












   5 難攻不落な女性ひと












   












   神谷秀












   

 突然親を呼び出すわけにもいかず、お互いの両親が揃ってというような物ではなくて、岬さんが娘さんを連れてきて、星崎さんも一緒に4人で向かい合った。都内のホテルのロビーで。クラシック音楽がかかっているようなところで。

 岬さんのお嬢さんは、一言で言えば……。

 なんと言うのかな?昔、学生だった頃、俺が嫌ってるわけではない。でも、向こうが避けてくる、そういう類の女子に似ている気がした。真面目な子達。

 こう、あからさまに嫌われているというわけではないのだけれど、巧妙にとても巧妙に距離を取られている。これ以上近寄るなという距離が、他の女の子より長い子たち。

 望み薄だとは思ってたけど、ぱっと見た瞬間に、完全にこれはだめだろうと改めて思った。難攻不落という言葉が浮かんだくらいで……。


 旧知の仲の岬さんと星崎さんが談笑して、俺と娘さんは静かにそれを聞きながら出された紅茶を飲んでいる。時々ちらちら娘さんの方を盗み見るけど、見事に一度も視線が合わない。


「僕たちといつまでもここにいてもね。会話が弾まないだろうから」


 会話が弾むどころか、一言も話していませんが……。


「ちょっとお庭でも案内して差し上げたら?神谷君」


 案内も何も、ここ、初めて来たんですが……。と突っ込んでも誰も笑わない気がした。おじさん2人と3人で会ってた時よりもっと、気まずいというかなんというか……。

 やれやれと立ち上がる。

 

「麗子」


 岬さんに声をかけられると、初めて娘さんが顔を上げて俺の顔を見た。

 その口が開いて、こんな男と庭を歩くのなんてやですとでもスラスラと言い出しそうだなと思った。

 でも、彼女は椅子をそっと引いて立ち上がった。


 2人で並んで歩いて、ガラス戸をくぐって庭に出る。クラシック音楽が聴こえなくなった。


「あの……」

 

 二、三歩前を歩いている彼女に向かって声をかけた。彼女はゆっくりとこちらを向いた。


「今日はすみません。お時間とってしまって」

「……」

「あの、可哀想だとか思わないでもいいですから」


 そういうと、彼女は目を丸くした。


「俺みたいな男、麗子さんは嫌でしょ?」

「……」


 しばらく丸い目のままで黙った後に、ぷっと笑った。


「なんで笑うんですか?」

「嫌も、何も……」

「はい」

「初めて会ったばかりでよく知らない人なのにありません」


 そういうとまた、くすくすと笑い出した。

 お嬢様というのは、育ちがいい人というのは、なんか笑い方が違うなとその時思った。


「それは確かにそうですね」

「初めてです」

「え?」

「お見合いの席でいきなりそんなこと言う人」

「……」

「まだ結婚したくないから、話を合わせてくれって人はいましたけど……」

「お見合いって初めてなもので」

「でも、あなたは、父からお金を借りたいのでしょ?さぞかし、色々準備してきて、わたしがその気になるように口説かれるのかと思っていたのに」

「はぁ」

「可哀想だと思わないでもいいなんて……。そんな言葉では、あなたの目的は達せられないじゃないですか」

「それはそうなんですけど……」


 困ってしまった。


「麗子さんのお父さんを口説き落とす自信はあったんですけど、まさかその話がこんな形になってしまうとは思ってなかったので」

「じゃあ、諦めるの?」

「だめだと思っても、何もせずに諦めるのは僕のやり方ではありませんから。麗子さんに会うだけは会おうと思いました。で、だめだったらまた、お父さんをどうにかして口説き落とそうと思って」

「女の人なんて、ちょっと優しくしたらうまくいくとか、そう言うふうには思わないの?」

 

 結構、尖ったことをいう人だなと思う。目がきつい。


「僕はそういうの専門じゃないし。それに、あの岬さんの娘さんが、そんなボーッとした女の人だなんて僕には思えませんが」

「父は男で、わたしは女です」

「そう言うのは関係ないでしょ?血が流れてるんですから」


 麗子はその時、俺のことをじっと見た。値踏みするような目をしていた。


「あなた、面白い考え方するのね」

「僕が?こんなの普通だと思うけど」


 それから彼女はふっと俺から目を離した。


「わたしは面白い女ではありませんよ。持参金が高いだけで」


 なんでだろう?彼女はそれを本当になんでもない事のように言ったんです。今日は雨が降るから傘を持って行きなさいと誰かに忠告するような口調だった。

 そのことに俺はすぐに反応してしまった。


「そんなふうに言うものじゃないですよ」


 その声音が思いのほかキツくなってしまって、彼女はビクッとしてこちらを向いた。


「すみません。声を荒げるつもりはなかったんですけど……」


 麗子は少し傷ついたような顔をして俯いた。


「でも、そんなふうに言わないでください。とても悲しい気持ちになる」

「なぜ、あなたが?あなたは関係ないでしょう?」

「でも、そんなふうに考えたり、言ったりしないで欲しい。言葉にしてしまえば、それが本当になってしまう。だから、言わないでほしい」


 少しだけ睨まれた。この時。麗子は俺をじっと睨め付けた後に、口を開いた。


「たった一度、会ったばかりの人間が何をどう言おうと、あなたは別に困らないじゃない。これから会うかどうかもわからないのに」

「でも、僕が困らなくても、やっぱりそんな言い方はよくないと思う。思ったことは僕は口に出す性質たちなんで」


 麗子はため息をついた。


「あなた、変わってるわね」

「そうですか?自分ではさっぱりわからない」


 会話らしい会話をしたと言えるのかどうか。よくわからないままに待たせている2人のところへ戻った。うまくやろうとかごちゃごちゃ考えてたわけではなくて、だけど、流石に怒らせてしまったか、呆れさせてしまった気がしていた。

 ま、でも、無理して自分を作ったところでいずれボロが出る。

 色々ぐずぐず考えてもしょうがないかと思って気にしてなかった。


 次の日、岬さんから連絡があった。

 自分は会社にいた。デスクで見て、そこで出るわけにもいかないので立ち上がって廊下に出た。


「娘がまた会ってみてもいいと言ってるよ」

「へ?」

「君、娘の連絡先を聞かなかっただろう」

「あ……」


 忘れてた。まぁ、でも、連絡することはないと思ってたからだけれど。


「後で送るから君から連絡してあげてくれないか」

「はい」

「それとも、連絡先を聞かなかったのは、君の方はその気はないと言うこと?気に入らなかったのかな」

「いや、まさか」


 慌ててそういうと、岬さんは電話の向こうで軽く笑っていた。


「いや。わたしも家内もびっくりしてしまって。初めてなんだよ」

「何がですか?」

「あの子はね。何度お見合いしても、その1回目で全部見事に断ってきたんだ。うちの娘に2回会った男はいない」

「え……」

「家内なんか単純なものだから、もう決まった気ではしゃいでいる。今までがあるんだから、そんな簡単にはしゃぐのはやめなさいと言っているんだけどね」

「多分、それは、今まで会ったことのないタイプで、珍しかっただけかもしれません」


 実際、当日変わっていると言われた。


「そんなものはなんでもいい。難しいところのある子だけど、よろしく頼むよ。君から連絡をしてやって。自分から連絡なんて取れる子じゃないから」


 そう言って電話は切れた。


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