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転生魔王は乙女ゲーであろうと自分の力で切り開く  作者: NPA ニャーニャ
1章 魔王の学園入学
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1-1 魔王と入学試験

 勇者達が魔物と戦闘する音が城の最上階の魔王の間であるここまで聞こえてきて次第にその音は大きくなっている。。私が魔を統べる者としての務めを果たすべき時が近づいてくる。こうなることは覚悟していた。


 私に仕えてくれた非戦闘員の者達は別の大陸へ全員避難させているから憂うことはない。あとは私も命を散らした者達のために全力を尽くすだけだ。恐れることは何もない。


 今、この広い空間には私と執事服を着た魔族の青年しかいない。もはや、残されている戦力は無かった。


「セバスよ、今までご苦労であった」


「ミスリアお嬢様にお仕えできたこと、このセバスも誇りに思います。そういえば、私がお嬢様に仕えた時は兄や弟といった男にも負けない魔力の持ち主であり、男勝りな性格でしたね」


「そうだな。思い出せば20年前か。あの頃の私はヤンチャしてた。兄達と一緒に剣術を競ったり、魔法で競ったりととにかく鍛錬しながら遊んでいたな。そして、しまいには魔王選定の場で私が兄達を降参させて魔王の座を手に入れてしまうとは私も思っていなかった」


「お兄様方も悔しがっていましたよ。しかし、彼らはミスリアお嬢様にも手を抜くことはなく全力を出して挑んでいました」


「そうだな……」


 私の気分は少し暗くなる。私の兄達は全員戦場で死んてしまった。勇者が率いる軍勢と勇敢に戦い消滅していった。いつものように問題なく防衛戦は勝てるはずだった。ただ、勇者という存在が増えたことによって戦線では負け続け、兄や弟達を1人また1人と失うことになってしまった。


 魔族は死んでも何も残らない。ただ、消滅するだけだ。残っていたとしても兄達と過ごした日々の記憶といった形無きモノか生前に残した形見しかない。兄や弟達のことを思い返すと、それは懐かしく、同時に失った時の悲しみや勇者への怒りがこみ上げてくる。私はグッと拳を握りこんだ。


 ……ハッ、いかんいかん、冷静さを欠くのは注意力が散漫になるし、魔王たるもの気丈に振るわなければ。ここは話題を変えよう。


「ところでセバスよ、本当にいいのだな。最後まで私に仕えるつもりなのか」


「ミスリアお嬢様のいない世界に私の生きる望みはありません。そして、私はお嬢様の専属の執事でもあります。私が消えるその時までミスリアお嬢様の執事でいましょう」


「フッ、ありがとう、セバス。来るぞ!」


 扉が破壊され、聖剣を構える男が先頭で突入してくる。勇者だ。その後ろから戦士らしき獣人の女、金属鎧のドワーフの男、魔道士らしきエルフ男と神官のエルフ女もくる。皆歴戦の強者の雰囲気を漂わせている。私は気持ちが昂ぶり、口角が上がるのが分かる。こんな時に笑ってしまうとは、狂っているのかもしれない。


「よく来た、勇者! ここまで来たのだ、難しい言葉はいらんな。存分に死合おうではないか!」


 戦場に堅苦しい言葉や個人の感情は不要。今、ここにあるのは生きるか死ぬかの互いの命を賭けた暴力のみ。私は腰に提げていた両手剣を鞘から抜き右手だけで持つ。セバスも自分が得意とする魔法を用意する。勇者は片手剣サイズの聖剣を右手に持ち、左手には盾を構え味方を鼓舞するかのように叫んだ。


「皆、これが最後の戦いだ! いくぞ!」


「「おう!(はい!)」」


 勇者達は私を討伐するための戦い、私達はこれ以上奪われないための戦いが始まった。


 戦いは激しく、時間がどのくらい経ったのか分からない。気づけば周囲の壁は所々壊れ、この場には私と勇者しか立っていなかった。戦況は五分五分……いや、私は魔力が底を尽き、立つだけでも精一杯な程に血を流してしまい力が上手く入らない。しかも左腕を斬り落とされてからは防戦一方となっていた。対して、勇者は何度も戦闘中に大きく傷ついているが仲間の支援によってまだまだ余力を残している。


 私が勇者の(はらわた)を引きずり出そうとも仲間がカバーに入り、その間に神官が回復させていた。そして、勇者は傷が癒えると再び私に向かってくる。そんな組織だった戦闘によって私達は苦戦を強いられ長期戦となり体力をだいぶ消耗させられた。ただ、面倒だった勇者の仲間は全員殺した。しかし、セバスが途中で私を勇者の攻撃から庇った際に消えてしまっている。


「まだまだ余裕そうだな……勇者」


「俺は死んだ仲間達の思いや平和を願う民達の願いを背負っている。お前なんかに負けてたまるか!」


「お前だけではない。私とて消えていった者達の思いを背負っている。お前……なんか……に」


 視界が霞み、足から力が抜けてフラついてしまった。私はなんとか踏み留まったが、勇者が大きな隙を見逃してくれるはずもなく私の左胸に痛みが走った。目の前には親の仇を見るかのような憎悪の籠もった目の勇者がいて、私の左胸には深々と聖剣が刺さっていた。私は全身から力が抜け、剣を地面に落としてしまう。


「これが私の……最後か」


 剣が左胸から引き抜かれると私は地面に力なく倒れ、重い瞼を閉じた。体から痛み等の感覚が次第に無くなり、そのまま意識を手放した。ここに魔王ミスリアは消滅した。


 ーーーー


 目が覚めると見知らぬ天井があった。そして、優しそうな表情を浮かべる人間の男女の顔が目の前にある。一体、何が起きた?


「あなた、エリスが起きたわ」


「目とかイリーナに似て、将来美人になるな」


「もう、あなたったら」


 な、なぜ私の目の前に人間が! 咄嗟に手を伸ばそうとするが小さな可愛らしい小さな手が視界で動くだけだった。……ま、まさか私は人間の赤子に転生したとでもいうのか! そ、そんなことがあり得るのか。私は現状を理解できず混乱している。


 私は話そうとするが口が上手く動かず「だぁう」や「あぅえ」といったなんの意味もない言葉しか発せない。目の前の人間は私の様子を見て喜んでいた。


「エリスかわいいわね〜」


「何かを伝えようとしているぞ、お腹でも空いたのだろうか」


 お腹なんか空いているか! くそ、これでは自分の言いたいことを伝えられない。……そうだ、念話だ! 念話なら言葉にしなくとも自分の考えを直接伝えられるではないか!


 私は早速、マナを通して話しかけようとするが、マナが扱えない。というか、いつも身近に感じていたマナを全く感じることができない。こ、これではどうすることもできないではないか。……仕方ない、今の現状を受け入れよう。体は人間の赤子となり、魔法が使えないとなったからには再び前の体と同じ力を取り戻すまでは鍛えなければならない。そう、弱さは罪だ。私は弱い自分を認めたくない。


 そんなことを考えているとくぅ〜と可愛らしい音が腹から出た。お腹が空いた……。言葉が使えない今、私は泣いた。母親はごめんね〜と準備を始める。恥ずかしいが、これしか手段がないのだ。


 このあと、オシメを変えてもらったりとかあって、私は考えるのを辞めた。無心になれば何も怖くない。そう、恥ずかしくもない。私は赤子なのだから。そう赤子なのだ。



 私が産まれてから15年が経った。時の流れとは長いようで短い。私は今、母親譲りの綺麗な黒髪を鏡の前で梳かしている。今日は入学試験の日ということもあり、いつも以上に気合が入る。


 伯爵令嬢として育てられた私は、歴史や算術等を家庭教師から教えてもらい、母親から礼儀作法を教えてもらった。そのこともあり、母親としては王宮で侍女見習いとして社会勉強させつつ、コネを作らせたかったらしいが、私は父親に頼んで学園に通う機会を作ってもらった。学園に行くと体を鍛えることができるらしい。


 父親が学園に行かせたいと言った時の母親の殺気のような威圧は凄かったが、私の頼みでもあることを伝えると母親も折れて仕方ない、とのことだ。どうやら、子爵家の父親が伯爵家に婿入りしてきたらしく父親は母親に頭が上がらないようだ。


 学園とはこの国にある王立魔法騎士学園のことで、同じ年齢の者達と学べる場所だ。魔族にはそんな場所が無く家族内で完結していたため学園のような場所は初めての経験であり楽しみであったりする。しかし、学園も全員を受け入れることができないようで、入学試験を受かった者達のみが入学できるそうだ。私は前世の2割弱位の力しか取り戻していないがどこまで通用するだろうか。


 王都には両親がついてきて入学試験の2日前の昼に到着し宿に泊まっていたが、貴族用の宿ということもあって良い環境で過ごすことができた。


「エリス、入学試験に落ちても侍女見習いとして王宮で学べるから安心しなさい」


「大丈夫です、お母様。落ちるつもりはありませんから」


 母親はニコニコとしているが、私を何度も王宮の方に勧めてくる。なぜ、王宮に勧めてくるのかというと、あわよくば皇太子に私が見初められて王女になって欲しいのだ。それで、権力を〜、とかの考えは母親にない。そもそも王女という立場は全ての女性の憧れらしいが、私には興味がない。私は強さが欲しい。そう誰にも負けない強さが。


「エリスなら受かるさ。全力を尽くしてこい」


「行ってきます、お父様」


 私は学園に向けて走り出した。忘れ物もないし問題ない、たとえ忘れ物があっても『転移』で家まで戻れるから心配はない。『転移』は前世でもよく使っていた便利な魔法であり2年前に使えるようになった。


 学園に着くと入学試験を受けに来たであろう同じ年齢の者が長い列を作って並んでいて、逐次試験会場へと案内されていた。


 試験の会場に着いてしばらく待つと、試験会場にいた者全員に聞こえるように試験官らしい男性が概要を説明する。試験の内容は知識を調べる筆記試験、魔法か武術の選択をできる実技試験の2つがあるとのことだ。実技試験は選択できるとはいえ、片方で気に入らない結果だったならば、両方受けても良いらしい。両方受けると高い方の点数を採用するという救済措置もあるようだ。私は、ほぼ独学で鍛えてきた魔法の方が父親から教えられた剣術よりも自信があるため、魔法を選択する予定だ。父親にはすまないが、今の私の体力が不足しているから仕方ないことなのだ。


「試験開始!」の試験官の声で全員が問題を解き始める。筆記試験が始まると、はじめに私は落ちついて問題を見た。どうやら簡単な問題しかないようだ。それにしても、前世の私が死んでから200年ぐらいも経っているが、いろいろな争いが起きていたようだ。魔族の住む魔族領域との戦争を終えた後は、今度は人種同士の戦争とはよっぽど争うことが好きなのだろう。


 私は30分で全てを解き終えると残りの40分は気を高めていた。魔法の実技試験があるなら体の準備をしておくと良い結果を出しやすい。


 筆記試験が終わってから30分くらいの休憩になった。周りでは難しかったや解き終えていないとかの悲痛な声が聞こえてくるが、そんなに難しい問題でもあったのだろうか。実技試験では予定通り魔法を選択した。魔法の実技試験会場に向かうと魔法の試験官は女性らしく、少し離れた場所に木で作られた丸い的が置かれていた。


「受験生の皆さんに説明します。あの10メートル程先にある的に向かって得意な属性魔法を全力で当ててください。マジックシールドが付与されているので壊れないと思いますが、何かありましたら、各列にいる近くの点検官に言ってください」


 マジックシールドが付与されている? ……確かに普通の下級魔法程度なら数発は防げそうな弱いマジックシールドだが張られているみたいだ。弱すぎて気がつかなかった。


 全部で5つの的があり、5人同時に試験が行われ始めた。そんな試験を私は外から見ている。そして、驚かされた。


「フレイムランス!」


 フレイムランスの形をしたフレイムボールが放たれて的に当たった。魔法名と実物の魔法が違うという一般的技術は評価できるが、私が魔法を見ただけでもマナ密度は足りないし、全然威力が足りないのが分かる。あれでは魔法が使えない魔物にはいくらか効くかもしれないけれど、実戦では使い物にはならない。もちろん、あの程度の魔法なら的に傷がつくわけもない。


「ほう、この年で中級魔法のフレイムランスが使えるとは凄いな」


「当然です。サシタ・カマセーの手にかかればこのくらい余裕です」


 あの点検官は何を言っているんだ? あれはフレイムランスじゃないし、そもそもフレイムシリーズの魔法は全て下級魔法に分類される。それを中級魔法と言うとかどこのバカだろうか。というか、どの列の人の魔法を見てもマナ密度が足りないし、あの程度のマジックシールドに何も被害が無いとか弱すぎる。もしかして、特殊な魔法があの場で発動していたりするのだろうか。


 私の番が近づくにつれて、私の前にいる女子の呼吸が浅くなり落ち着きがなくなっていく。だいぶ緊張しているのだろう。これでは実力を発揮できないだろうし、少しアドバイスしても良いだろう。


「あなた大丈夫?」


「ひゃ、ひゃい! だ、だだだだだ大丈夫です。はい……」


「肩から力を抜いていつもどおりに魔法を使いなさい」


「あ、ありがとうございます……」


「シーナ・ハスプーク。4列目に向かってください」


「は、はい!」


 あの女子はシーナと言うのか。私はシーナの魔法を特に期待もせずに眺めていると、他の人に比べマナ密度があった。これなら実戦でも使える。少し鍛えれば良い魔法使いになれるだろう。


「フレイムボール!」


 シーナの放った魔法は的に当たると霧散はしたが、マジックシールドに確実にダメージを与えていた。まぁ、この受験生の中では良い魔法を見せてもらった。


「エリス・アルフード様。2列目にお願いします」


「分かりました」


 私は的の前に立った。魔力減衰なんかの魔法がこの場に仕掛けられて、安全を図っているのと思っていたが、何もなかった。つまり、あれが彼らの実力だということで間違いない。


「一応、聞いておきますが的を壊しても問題ないですか」


「大丈夫ですよ。でも、マジックシールドが張られていますし壊れることなんて余程のことが起きないとありませんよ」


「では、遠慮なく。ふれいむぼーる」


 私はアトミックファイヤーをフレイムボールサイズまで圧縮した魔法を放つ。アトミックシリーズは中級魔法で、今の私でも周囲に迷惑をかけず()()()使える魔法で威力がある。


 魔法が的に当たると霧散せずにその後ろにあった砂山まで突き抜けてから数秒後に消えた。魔法が通過した的は消えさり、魔法が当たった砂山も赤くなっていた。それなりの力で魔法を使ったとはいえ、全力を出したら危険だな。普段使うならもう少し力を抑えても良いかもしれない。


 今の結果を理解できていないのか点検官は呆然としていた。周りの点検官や受験生も私の列の砂山の方を見ていた。


「これでいいですか?」


「あ……あぁ。合格だな、これは」


 どうやら合格できるラインのようだ。さて、試験も終わったことだ。さっさと家に帰るとしよう。宿の方に戻ると、両親は宿に置いていた荷物を積み終えて私を待っていた。二人には試験の出来を聞かれたが、実技試験では合格らしいことを伝えると父親は喜んでいた。母親はため息をついて残念そうだが、受かったら周りに負けないように頑張りなさいと言ってくれた。


 試験から2週間が経つと、学園から大きな包みと手紙が届いた。手紙には、合格であるということと1ヶ月後に入学式があることが書かれていた。包みには学園の制服が綺麗にたたまれていた。学園の制服の上衣は紅くスカートは黒、どちらにも金色のラインが装飾で施されている。なかなか高貴さを感じさせるデザインだが、スカートの丈が膝よりも上というのはどうなのだろうか。前世でもこんな短いスカートを履いたことがないから抵抗がある。


 さて、入学までの時間もあることだ。前世の力を取り戻すためにもしっかりと鍛錬をしなければならない。さらに気合をいれて鍛錬に励もう。

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