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2・土地を知るには特産物を知る!というのは間違っちゃいないがそれだけでは観光はできても冒険はちょっと。

「頼むよほんと。ここ出た途端に瀕死とか、勘弁」


こんなハズレスキル……いや、スキルですらないらしい、ハズレ決めゼリフ「ペンは剣よりも強し」とナゾ職業「新聞記者」で異世界を生きることになった俺に、せめてこの世界の情報を授けてほしい。


できればこの女神、アリアネス以外に頼みたいところだが……目下この空間には、俺と彼女しかいない。


「えっとまずこの世界は、5つの大陸からなっていて、それぞれが五角形の頂点のように、大海に浮かんでいる。陸と陸の間は、泳いで渡れるところもあるし、荒波がやばくて飛んでいくしかないところもある」


アリアネスが中空に、指先で5つの点を打つ。すると点のひとつひとつが陸のかたちをとった。


「ふむふむ」


「で、今いるのは北西、メインクイン王国。特産物はジャガイモ」


「ふ、ふーん」


「よってジャガイモは安くておいしい」


「そ、そうだろうな」


「わたしは、うすーくスライスしたイモを揚げたものが好き」


「……ポテチだね」


「イモ一袋は銅貨1枚が相場」


「お金の話! ようやく有意義な情報!」


「一袋にはイモが7~8コ入っています」


「は、はあ」


「しかーし! うすーくスライスして揚げたイモの場合、一袋にどう考えてもイモ1個分しか入っていない。これも銅貨1枚」


「まあ、手間ひまかかっているし、生じゃ食えないからそういうもんなんじゃない?」


「おなかいっぱいになる量の入った生イモと、袋を開けた瞬間に幸福な気持ちになるけど食べるほどもっとほしくなり腹の奥底までは満たされない揚げたイモ。コーヘイはどちらを取るか。こういう、究極の選択が続くのがメインクイン王国の特徴です」


「……そろそろ、イモ以外の情報をくれないかなー」


「以上」


…………。


「えええええええええーーーーーーーー」


「これで、この地方のことはだいたいわかったでしょ。ではコーヘイ、冒険にレッツゴー!」


「イモについて(あんたの好み)だけ、だいたいわかったよ! もっとほら、この地方の種族とか、街の特徴とか、ここで起きている危機は何なのかとか……そうだよ、そもそも俺を召喚した目的は何なんだよ!」


「……はむぅ?」


「ま、まさか暇つぶしに呼んだわけじゃ……」


「コーヘイが今聞いたことって、街へ行けばすぐわかることばっかりじゃない。ほぉら、さっさと行った行った!」


「なんか焦ってない? やっぱり目的もなく召喚したんだな? さては、決めゼリフガチャを回させたかっただけだな?」


「疑り深いと損するよ☆ あ、とりあえず金貨1枚分、あんたの腰の皮袋に入っているから。銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚ね! 女神、やっさしい~」


確かに俺の腰には、薄茶色の革袋がぶら下がっている。ほとんど重さを感じないが、中をのぞくとたしかに硬貨が入っている。


「そうねえ、コーヘイの使命は……決めゼリフの力を、証明することかしらん」


アリアネスが、今思いついたといわんばかりに手を打ち、にやりと笑った。


女神にあるまじき、邪心いたずらにあふれた笑みだった。


「記念すべき第一号決めゼリフ『ペンは剣よりも強し』。この言葉を、世界に知らしめたなら、あなたはきっと……」


「きっとなに? なになになに??」


「みなまで言わせんな、このヤロー」


「ぜんぜん照れるところじゃないし全くわかりません」


「さあ行った行った、明るいうちのほうがいろいろ安全よ」



追い出されるように神殿から外に出ると、そこは森の入口で、踏み固められた一本道を抜けた先が街だという。


転生者がいきなり死なないように「極めて治安が良い森だが生涯で3日までしか滞在できない」ことから「流浪の森」と呼ばれているそうだ。


正確には「流浪を強いる森」だよな。


「異世界っていったらとりあえず、街の冒険者ギルドに登録してどんな依頼があるのか見てみるか」


森の出口はそのまま石畳の道に続き、徐々に道は広く歩きやすく舗装され、道沿いにぽつぽつ建物が現れたと思ったら、いつの間にか街にいた。


俺と同じような格好の男と、ふくらんだ袖とたっぷりしたスカートにスカーフを被った女性、そしてスモックにタイツといういで立ちで駆けまわる子どもたちが往来を行き交う。


ずいぶんとにぎやかな街だ。


「ギルド、ギルドはどこかなあ……あ、それっぽいマーク」


クロスする剣を象った看板をぶら下げた、石造りの建物の前で俺は立ち止まる。


「やはり、必要なのは剣なのでは……」


しかいまあ、ここまできたら行くしかない。


どんな依頼書があるのかどうかを確認するだけでも価値があろう。


「こんちは……」


さり気なくそろりと開けるつもりが、見た目にも古い木造りのドアは派手に軋みながら開いた。


しかし中の喧噪もまた激しく、俺に目をやったのは入口にいた数人のみだ。


入ってすぐ、右手の壁一面には、所狭しと依頼書が張り出されていた。


「おお、あふれんばかりのミッション!」


薬草採りといった「おそらく死ぬことはないでしょう系」から、賞金首の討伐、ダンジョン探索といった「A級・S級限定」と注意書きがあるものまで、盛りだくさんだ。


ちなみに一見して最も多いのは、ジャガイモの収穫手伝い(経験値不問)である。


不思議なことに賞金首にかけられている手配犯の写真は、額に角が生えていたり鼻が犬だったり肌の一部が鱗に覆われていたりと、いわゆる亜人たちばかりだ。


もしかしてこの世界で人間ヒトは少数派なのか?


読んでくださってありがとうございます。

お気に召した方、ポテチ好きな方、ブクマと評価をどうぞよろしくお願いします!

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