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16・骨せんべい味にしたのは、カルシウムも摂ろうねっていうやさしさなんです。

(コーヘイとナツメがギルドをでたあと、おばちゃんの独白モノローグ


はいはい、あたしの水晶に見えていたとおりにね、軍服たちがやって来たわけさ。


冒険者たちを押しのけて、まったく不作法ったらありゃしない。


「このギルドに、『輸送ドラゴンの探査』依頼書が張り出してあるというのは本当か!」


あいさつもなしに、大声を張り上げるのは、なんなのかねえ。


軍服は街でのマナーがなってないよ。


「あ、これです!! 軍曹殿!」


まったく簡単に見つかるんだから、大声出さないでほしいよねぇ。


おほほ、軍曹殿、依頼書を引きちぎって握りつぶし、青筋立てて。


こりゃあいい、まるでお芝居じゃないか。


「どこのどいつだ、こんな出鱈目を張り出したのは!」


どこのドイツだって! ここはメインクイン王国だよねぇ。


「お前か! お前か!!」


手当たり次第どついているけれど、ここにいるのはみんな、昼間っから飲んだくれているしがないB級C級冒険者さ。


「俺たちは冒険者だぜ、軍人さん。依頼を出すんじゃなくて、受ける側だ」


おや、まともなこと言うヤツがいたねぇ。まだまだ酒が足りてないみたいだ。


「そうだそうだ。その依頼書だって、誰が貼ったかなんて知るわけないさ」


「だいたいアルプルイチマンジャクなんて、俺たちゃ容易に入れねえし。亜人の案内がいるんだろ?」


「そうそう、軍お抱えのSランクパーティーだって、あきらめていたぜ」


「ああ、あの白マント野郎な。いけすかねえやつだったなあ、おい」


好き勝手言い始めた酔っぱらいを睨み付け、


「騒がしい! 黙れ黙れ!!」


軍曹殿、怒り心頭でご自分が最も騒がしいことは棚に上げてらっしゃるねぇ。


「兎に角だ! あの依頼書は全くのニセモノ、虚言妄言である!! 消失ドラゴンの探索をしようなどという気を起こしたものは、厳罰に処する!!!」


酔っぱらいたちが、ぽかんと軍曹殿を見る。


「え……なんで?」


「怪しい依頼書なんて山ほどあるけどよ……別に、受けるも受けないも、冒険者の勝手だろう?」


ぼそぼそと言い交わす声。


「輸送ドラゴンが消失するなどということは、断じて起こり得ない! 今後、斯様に悪質な流言を広めた者も厳罰の対象となる!! わかったか!!!」


軍曹殿の剣幕に、押し黙る酔っぱらいたち。


はいはい、もう、酔っぱらいたちのぐでんぐでんの頭でもわかるよねぇ。


ドラゴン消失ロストは事実であり。


それは軍にとって、極めて都合の悪い事実である、と。


あたしは水晶を一撫でし、コーヘイとやらの姿を映す。


ふんふん、どうやら無事に噴水広場でシンブンを張り出したみたいじゃないか。


はいはい、あっという間に人だかりだねぇ。


おや、シンブンを見て、さっそくアルプルイチマンジャクへ向かおうとするパーティーがいるよ。亜人の案内役ガイド募集の看板をだしている。


軍曹さん、怒るだろうねぇ。


うふふふふふふふう……楽しくなってきたよ。


へっへっへぅうううう……ホーホケキョ!


◇◇◇


「うわ、ひでっえぇぇぇ」


翌朝。


タダで寝起きできて水浴び自由という、宿屋の馬小屋から這いだし、噴水広場へ向かった俺は思わず声を上げた。


俺の書いた記事はすべて真っ黒な墨で塗りつぶされ、その上に赤字で「流言にて善良なるメインクイン王国城下町市民を扇動せし者、厳罰に処する」とおどろおどろしい警告が記されていた。


「なにこれ……俺、厳罰に処されちゃうの?」


意味が分からない。


だいたい、流言じゃねえし。この目で見た、事実だし。


新聞は、おばちゃんの複製魔法コピーで作ったもう一部をナツメが持っている。


街の中心部である噴水広場には迂闊に来られないという亜人たちにも見てもらうために、その居住区にナツメが張り出したはずだ。


「しっかしナツメ、遅いなあ。あいつにどやされるのが怖くて、俺は腹ぺこのまま急いで来たっていうのに」


噴水広場は十字に交差する四つの大通りの中心で、ぐるりと円形に区切られた周囲には所せましと屋台がひしめいている。花屋、お菓子屋、パン屋、串焼きや食べやすい大きさに切った果物の店もある。


もっとも、最も多いのは言うまでもなく、イモ屋である。


そこから流れてくる、揚げたイモの、糖と脂の、腹の虫を惹きつけてやまないにおいといったら……。


「広場で朝9時に待ち合わせって言ったのはあいつだぞ、まったく」


ここの噴水はどんな仕組みになっているのか、噴き出した水がデジタル時計のように数字を象り、時刻を知らせているのだった。


「しかもナツメときたら……『いぎたないコーヘイのために9時集合にしてやるがな、わたしは7時にはここにきてイモ粥の朝ごはんだ。それからランニングとトレーニング。9時というのは揚げイモを食すおやつの時間だからな』なーんて威張っていたくせに……」


噴水時計は9時20分を示し、朝陽を浴びてきらめている。


そのすぐ傍で、無残に風に吹かれる俺たちの新聞。


血塗られたような、紅い警告の文字。


胸騒ぎがする。


「……探しに行くか」


俺は革袋から銅貨を出し、朝ごはんのふかしイモと、ナツメ寄せの揚げイモ(骨せんべい風味)を買い、歩き出した。


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