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13/17

13・そこに山があるから登り、登ったから降りるんです。

男の背丈は俺の腰をすこし越す程度。だが服を着ていてもそのたくましさが分かる、頑強な体つきには威圧感がある。


「お客さんじゃないよ。この人ら、せっかくの天の恵みに、財布の紐をとかないんだから」


「お、おまえっ。その切り身で商売したらだめだろう」


「何言ってんだ。天が我らに与えしもので稼いでいるだけじゃないか」


「ばっかやろう、生きたまま降ってくるんならともかく、そいつはバラバラ遺体の欠片だぞ?」


「そういうあんただって、その袋にどっさり入っているのはドラゴンの鱗だろう? 空中で燃え散った残骸じゃないか」


「……これは別だ、こんなレアな素材、またとないんだから! 81枚の『真実の鱗』、そしてたった一枚のあご下の『逆鱗』……こいつを手に入れる絶好のチャンスじゃないか」


「へっ。鱗は良くて身はダメなんて、都合のいい理屈だこと。で、ガルケスよ。見つかったのかい、逆鱗は」


「ふん。そんな簡単に見つかりゃ苦労しないさ。『真実の鱗』だって、俺が見つけた4枚が村じゅうの収穫の全部だ」


「そんなこったろうと思ったよ。きっと唯一の逆鱗は、目ざといエルフが魔法で選り分けてとっとと回収したんだろうよ」


「エルフのやつが手にしたところで、逆鱗をうまく使えるわけないんだがなあ。あいつらのことだ、装飾品か何かと勘ちがいしているんだろうなあ」


「ちょっとあんたら、ここに来る間にエルフ見なかったかい?」


夫婦喧嘩の声量で仲睦まじい会話を繰り広げていたドワーフの奥さんことアンネさんが、突然俺に話を振る。


「見た見た! 存在が超絶技巧のエルフ!!」


「……の、幻をな」


おとなしくイモを食っているものと思ったナツメがすかさず口を挟み、鋭い一瞥を俺に寄こす。


その視線から逃れようと、そっと顔を背ける。


いつの間にか陽は高く上がり、鱗に反射する光に目がくらむ。


目を細めて見つめると、そこかしこに鱗を矯めつ眇めつしているドワーフたちの姿がある。


エルフらしき者は、いない。


だましの森で、俺を導いたエルフ。あれは森が見せた幻なのだろう。


だけど、心のどこかで。それを信じられずにいる。


「アンネさん。このあたりには、ドワーフの村とエルフの村があるんですか」


「ああ。エルフの御人は森の深くを好んでいるがね。あたしらの住む場所は、川の近くと決まっている」


「なんで? 魚とれるから?」


魚という俺の言葉に、ナツメの耳がぴくりと跳ねた。


「いんや。鍛冶をやるにゃ、水がいるから」


アンネさんはそっけない。そうだ、ドワーフ族は鍛冶が得意というのは定説だ。


「猫耳のおじょうさん。あんたたちの種族の居住区も、この近くにあるよな」


アンネさんの夫、ガルケスがナツメに水を向ける。


「ああ。親戚が住んでいる。……だが、あの場所の者は誰も来ていないようだ」


ナツメは片手でひさしをつくり、辺りを見渡す。


「で、どうするんだシンブンキシャ」


俺に向きなおったナツメが問う。


「……街へ、戻ろう」


沈黙。


「にゃにぃいいいいいいいいいいい!?」


沈黙を破る、鳴き声。


「せっかく登ってきたんだぞ? 命を懸けて、だましの森を抜けてきたんだぞ??」


「ドラゴンロストの現場に、ドラゴンはいない。鱗と、ちょうどよく焼けた切り身だけが降ってきた。まずはそれを記事にしなくちゃ」


「キジをこねこねするために、わざわざ山を下るのか?? 恩知らず!!」


「戻ったら、ハモウナギフレーバーだっけ? 揚げイモなんでもごちそうするから」


ハモウナギ、に耳をぴくりとさせ、


「よし、行くぞコーヘイ。もたもたするな」


ナツメはさっさと歩きだした。


「うわ、まって待って! もう少し、いろいろ話聞いてから~~」


◇◇◇


ドラゴン消失 上空で爆発か

一面の鱗、「焼けた身が降ってきた」


11日、アルプルイチマンジャク付近で輸送ドラゴンが消息を絶った。現地での取材から、ドラゴンは上空で爆発した可能性が高いことが分かった。アルプルイチマンジャク山頂にはドラゴンの鱗が一面に広がり、爆発したドラゴンの破片と思われる焼けた切り身が降ってきたとの証言もある。


ドラゴン消失の報から一夜明けた12日、異世界タイムズの記者はアルプルイチマンジャク山中のポショレ・ドワーフ居住地区に入った。

川に沿って約30世帯が暮らす集落には、握りこぶし程度の大きさの鱗が地表を覆うように広がっていた。

住民のアンネさん(自称23)によると「11日昼過ぎに爆発音があり外に出ると、鱗と、香ばしく焼けた切り身が空から降ってきた」と言う。

遺体は付近では発見されておらず、ドラゴンは何らかの原因で上空で爆発して消失、鱗と切り身はその残骸とみられる。鱗はポショレ・ドワーフ居住地区及び隣接するヨハンネ草原一帯で確認。切り身はアンネさんほか、ドワーフ婦人会が既に回収した。


アンネさんの夫のガルケスさん(108)は「鱗は間違いなくドラゴンのものだ。ドラゴンが持つ『真実の鱗』の数枚が現場から見つかった」と話す。

ドラゴンの鱗には81枚の「真実の鱗」と1枚の「逆鱗」があり、いずれも魔素を含み金属加工に利用できる。ガルケスさんは「鱗に含まれる魔素を操れるのはドワーフ族に限られる。物珍しさで持っていくのは控えてほしい」と訴える。

特にまだ発見されていない逆鱗については不可解な部分が大きく、見つけた場合は鑑定能力のあるドワーフへの届け出が望ましいとガルケスさん。現場はメインクイン王国城下町から北に7ポルトの山岳地帯。


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