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11/17

11・お別れしたものたちはお空じゃなくて、異世界で楽しくやっているんだ、たぶん。

はじめそれは、星、と見えた。


夜が、そらだけでは飽き足りず、大地までをも己の領分として星を降らせたごとき輝きだった。


幾分近づくと、それは、雪、と見えた。


繊細な粒子が冷やかにきらめいて、きのうまでの緑の大地に、白いヴェールを被せたようだった。


さらに近づくと、それは、


うろこだった。


大きなものは俺の握りこぶし程度、小さなものでもナツメの肉球くらいと異物感たっぷりで、


遠目に感じた澄んだ輝きとは打って変わって、不用意に触れては指先をざっくり切り落としてしまいそうな、刃のごとき鋭さを放っている。


ここは、アルプルイチマンジャクの山頂。


その大地は一面、鱗に覆われて。鱗は、朝の光を浴びて。禍々しく、照り輝いている。


「ここは、山頂だろ……それなのに、大量の鱗が広がっている……」


俺のつぶやきを受けて、ナツメが神妙な顔をする。


「コーヘイ、お前も気づいたか」


「ああ。この状況から考えられるのは……」


ナツメが息をのむ。


「昨夜、ここにツキジシジョウが転移した」


「にゃむーーーーー?」


「トヨスの登場により、役割を終えたツキジ。しかし本当は、異世界に転移していた……すなわち、さまざまな海の魚が集められ、アルプルイチマンジャクにて一同に会したのだ。何千、何万という魚がな。そしてこの場で捌かれ、鱗を取り払われ、鮮度の極みのまま、食う者の口福に寄与してくれた。今我々は、その宴の後に立っている。この大量の鱗は、彼らの生きた証。ナツメ、俺と一緒に魚たちに感謝をささげよう」


「……コーヘイ。冗談はそのくらいにしろ」


「はいはい、ジョークですよジョーク。いやちょっと、鱗に圧倒され気味の心を落ち着けようと思ってさあ」


「何千、何万の魚だと? どうしてそのことを私に教えてくれなかったのだ? 私はイモも好きだが、なんてったって大好物は魚だぞ?」


ナツメの猫耳がぷるぷるしている。瞬間、愛らしさを覚えるが逆立った毛に気づくと、背中に冷たいものが走る。


この子、めっちゃ怒っている。


「ツキジシジョウ? それが魚のいる場所なのだな? いますぐに、私をそこへ連れて行け。さもなくば、ツキジシジョウをここへ召喚しろ」


「いや、俺、召喚の神じゃないし……」


「じゃあなんだ、さっきの話はウソなのか? 私の腹の虫は、もう手がつけられないぞ? 魚を寄こせと暴れているぞ?? 脂ののった身や、まあるい目玉に食らいつかないと、収拾がつかないぞ……???」


ナツメのかたちのよい唇の奥に、


牙が見えた。


俺は頭を抱える。


当然分かっていましたよ。


ここ、アルプルイチマンジャクは輸送ドラゴンの消失現場ロストポイント。その大地が一面、鱗にまみれているということは、


鱗は、ドラゴンのものである!


ではなぜ鱗のみで、ドラゴン本体の姿は見えないのか。


1、見つけていないだけで、どこかにいる。

2、空中で爆発し、鱗だけがあられのごとく舞い散った。

3、ドラゴンは脱皮した。


という推測についてナツメと検証したかったのだが。


俺のジョークを真に受けたヤツの頭と胃袋は、ツキジシジョウの魚に囚われている。


「コーヘイ……ツキジシジョウ……さもなくば……死……」


地の底から響く呪いの詠唱のごとく、ナツメは喉の奥をごろごろ鳴らしながら俺を恫喝する。


「わーー待って待って。とにかく腹を満たそう、な。俺ちゃんと、街で『冒険者御用達!ふかしイモパック』ってやつを買ってきたんだよ、ナツメの分も」


「イモ……?この期に及んで、イモ……?それも冒険者用の、非常食の、腹がふくれることに八割がたの労力を注ぎ味わいは二の次三の次、食事を馬鹿にしているとしか思えない、ふかしイモパックだと……?」


なだめるつもりが、食欲の火に油を注いでしまった。


「魚を寄こせ……魚だ……サーモニア、ブリリ、ヒイラメ、マルグロ、サンショウウオ……!!」


これはもう、手が付けられない。どっかの川にもぐって何でもいいから魚とってこようと、上着の裾に手を掛けた、そのときだった。


「おじょうさん、塩焼きどうだい」


鼻孔から胃袋までをわくわくと刺激する、香ばしいにおいをつれて、


髭を生やした小柄な女性が、串焼きにした白身魚の切り身をたいまつのように掲げて、こちらへ差し出す。


「おお、奥さん。ご親切に」


ナツメは満面の笑みで串に手を伸ばす。


「え、このひと、知り合い?」


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