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6 高齢者と妖精、時々激痛



 目を覚まし、いつもの様に起き上がって伸びをしようとして固まった。



「!? っ!!」



 全身を襲う激痛。声にならない叫び後を上げながらベッドへ撃沈した。


 痛い、物凄く痛い(涙目)

 痛過ぎて息ができなかった。


 原因は『筋肉痛』の3文字が脳内に浮かんだ。前日えぐい魔物と遭遇して無茶したからか。


 暫くじっとして、痛みがようやく少し落ち着いてきた。


 尋常じゃ無い痛みのせいで完全に目が覚めた。

 余りの痛みに筋肉痛以外の要素を疑ってしまう。怪我をしたと仮定するならどの程度だろう、日常生活動作に支障が無い程度であればいいが。治療するにせよ衛生状態の不安、特に破傷風や緑膿菌感染等が怖かった。


 痛みに加え、最後の記憶が森で第一村人(仮)遭遇で途切れていることが、余計に不安を煽った。

 ここがどこで、何が目的で私をベッドに寝かせているのか。


 それらを知らないといけない。そのためにもまずはどこまで体を動かして平気か知る必要がある。そうやって理由をつけて、痛みを嫌がる自分自身を無理矢理動かそうと試みた。


 そこでふと、身体に違和感を感じた。

 身じろいでも動きにくいのである。これってもしや、何かが巻きついて拘束しているか?


 サッと血の気が引くのを感じ、慌てて腕を動かしてみっ……涙

 軋むように痛む。目茶痛い。でも我慢だ。


 そうして何とか視界域に入ってきたのは腕全体に巻かれた包帯と、視界を遮っている何か。包帯だろうか

 顔へ触れてみるとやっぱりザラついた布系の感触なので包帯(仮)としておく。どうやら顔全体にも巻かれている様だ。


 胴体にも巻かれているのを見ると、全身ミイラ状態なのだろう。一体どんな怪我をしていたのか。

 何らかの薬草が塗られているのか、爽やかだが青臭い香りと緑色っぽい染みが所々あった。



「お目覚めですわねぇ」

「よきかな、よきかな」



 ベッド傍にはいつの間にか人がいた。

 1人は『豆婆ちゃん』と表現できるほど可愛らしいお婆さん。


 緑がかった灰色の髪をお団子にし、上品な金色の髪留めをしていた。笑い皺のある肌は歳の割に瑞々しく、目元はいい歳の重ね方をした事が分かる穏やかな表情を浮かべていた。

 フリル付きのエプロンドレスを着用しており、エプロン部分がオフホワイト、ドレス生地は多分若葉色だろうか。貴族令嬢としての記憶が高級品だと、感覚的に判断していた。


 もう1人は好々爺。それ以外表現するのは難しい。


 灰銀の髪を一つにまとめ、片側で垂らしていた。優しげな皺の寄った目元からは、孫を見る爺様みたいな穏やかな雰囲気がある。白い髭は仙人みたいに白く、けれど邪魔になら無い長さに切り揃えられていた。

 灰色のシャツの上に青緑のローブを羽織っており、手元には立派な杖があった。前世の小説『指輪(を巡る)物語』に出てきた灰色の魔法使いとは容姿こそ違うが、どことなく似ていた。


 あまりに現実離れした容姿の2人に、これは夢かと一瞬思った。だが、身体の痛みに現実だと知らされる。


 思わず2人は人間? と失礼なことを考えて足元を見た。そして、後悔した。見なきゃよかった。

 だって影無いよ、2人とも。


 そんな風に私がビビっているとは知ら無い2人は、嬉しげにこちらを見た後呼び鈴を鳴らした。



[はい、ただ今参ります! 少々お待ちを]



 忙しない口調で返事があり、その直後、短い悲鳴と転倒音が聞こえた。


 ・・・・・


 一瞬シーンとした後、高齢者姿の人外2人はため息まじりに笑みを浮かべた。何となく怖い笑みを。

 そんな2人へ布団の下でピルピルしていると、バタンと開く扉。

 慌てて入ってきたのは、羽の生えた少女だった。


 豆婆さん妖怪? と同じ色・デザインのエプロンドレスを着ているが、ヘッドドレスが曲がり、エプロンのリボンが縦結びになっていた。転んだ後焦ったせいなのか、スカートも捲れ上がっていた。



[あ、あわわ……し、失礼しましたぁ! ホント、遅れて申し訳ないでス!! って、痛いイタイ!!? 反省しておりますんで許したって!?]



 少女の背後から音もなく現れた黒縁眼鏡の女性。

 思わず『メイド長』言いたくなる姿。すらっとした体で紺色のエプロンドレスをきっちり着こなし、青紫の髪を結って解れのない団子にしていた。

 羽の生えた少女を片手でアイアンクローし、顳顬(こめかみ)に青筋を立てていた。



「またですがペチュニア。減給処分です。それといい加減言葉遣い[うわぁあああああん……ベラ姉様のバカぁ、意地悪ぅううう]……ちょっ、あ……」



 あの羽の少女はペチュニア、今入ってきたのはベラなのか。そのペチュニア? は号泣しながら走って出て行った。木霊するようにベラ(暫定)へ抗議の声を上げながら。


 あっという間の出来事で、唖然としていた。



「当家の使用人見習いが、失礼いたしました。変わりまして本日、私、ベラドンナが担当させていただきます。それでは、本日のモーニングティーをご用意させていただきます」



 見事な礼をしたベラドンナさんは、さっと慣れた手つきで茶器を用意し始めた。

 ベッド上に寝台卓を設置し、茶器を置いていく。高齢者2人のテーブルも同様に見え無い手を使って。よく見なければ、茶器が超自然的に準備されてゆくようにも見える、ホラー。


 尚、ベラドンナさんの介助で起き上がった時激痛が一瞬走ったがなんとか顔に出さず耐えた。こんな所で令嬢スキルが生きるとは(←直後、顔に包帯巻いていたので表情隠す必要無いことに気付いた)


 淹れたての茶の香りがふわりと香る。甘いがすっきりした特有の香りだ。多分マリアンがここにいれば、チラニア地方で栽培されている茶葉の解説が入ったことだろう。

 今の私では、時期や摘み方までは分からない。帰宅できたらマリアンに聞いてみるか。



「お待たせいたしました」



 痛い体を無理矢理動かし、お茶を飲んだ。なんとなくそうしなければいけない気がしたからである。

 瞬間、スッと全身の痛みが多少だが緩和された。


 薬湯か魔草茶だろうか。それにしては美味しい、帰宅前にどこの茶葉か聞いてみてもいいかも。


 淹れ方自体はマリアンが上だが水質が違った。驚いたことに変な酸味も雑菌臭もない。

 我が家である公爵家よりも設備への管理が行き届いているのか。そうなると、経済的にも技術的にもこちらの方が上。

 ここがどこなのか、ますます緊張が走った。


 一旦落ち着いてお茶を飲んだ後、それではお召し物と包帯をお持ちしますと去っていったベラドンナさん。彼女の後を高齢者人外2人組も出て行った。


 そういえばあの2人一体結局何者だったのだろう。影もなく、よく見れば体は透けていた。だから人外ではあると思うが、お茶を飲めるので幽霊ではない。

 そも、何故ミイラ状態の私の起床を待った上でお茶をしていたのか。謎ばかりを残していった。


 暫く悩んでいると、今度はベッドの足元から声がした。



[ルルーティア・ベルン・グレンデル・フォン・イスカリオテ、公爵令嬢、ついでにお茶は爽やかで甘い系が好きで、臭いに敏感。じじいから許可が出たし、会いに来てやったよ。そんな僕には感謝感激歓迎しかないよね]



 個人情報を話し出した少し尊大な声。小さな羽虫? いや、違う。

 よく目を凝らせば、羽虫は羽虫ではなかった。


 それは羽の生えた悪戯っぽい声の少年。

 宙を飛び、徐々に近寄って来るのが見えた。



「小人? 妖精? 誰かわかりませんが、レディの名を名乗られる前に呼ぶのは紳士の行いはありませんわ。私は紳士を歓迎いたしますの」



 本当は、「個人情報垂れ流さないでよ」と伝えたかったのだが、普通の言い回しがわからない。記憶にあるのは、茶会の常套句と貴族の嫌味な言い回しだけ。やはり、この王国の国語を一度しっかり学んだほうがよさそうだ。

 それより今は、目の前の羽虫改め妖精? へ対峙せねば。


 妖精(暫定)は、私の返答へ微妙な表情を浮かべた。



[名乗るまで名前呼ぶなって……じゃあなんて呼べばいいのさ。それに、そのルールは人間のしかも貴族の限定だった筈だよね? 確かねぇ、何百年か前に自分の名前使って僕らへ火遊びしたバカが禁じたんだったよ]



 肩をすくめながら反論する少年。

 なるほど年齢どおりではないパターンか。やっと、魔法以外で心躍るファンタジーがそこにいた。


 それより今、さらっととんでもないこと言わなかったか?

 混乱鎮まらぬ私へ少年はクスクス笑うと、口を開いた。



[内容は悪いけど秘密なんだ]

 


 肩をすくめる少年。



[けど一応忠告しておくよ。君らは見えないからって僕らに気付かないけど、僕らってどこにでもいるんだ。だから、油断したら噛まれるよ?]



 ……見えないくらい存在感ないけど油断したら噛まれるって、なんかダニみたいだな。

 そうだ、家帰ったらダニ避けマット擬きも作って普及させよう。あれならハーブ類あれば簡単に作れるし。



[というか、君はやっぱり僕が見えるの? 見えるみたいだねぇ、不思議]



 ケラケラと笑いながら、今も目がちゃんとあっていると呟く妖精。嬉しそうに笑いながら宙返りし、私の顔の近くを翔んでいる。近寄る度、ブーンと音が聞こえる。

 何となくさっきダニを連想したせいで、虫と間違えそうだなどと失礼なことを思った。



[ねえ、髪の毛引っ張っていい? はげないし、いいよね? ね?]



 悪戯小僧のように小憎たらしい笑みを浮かべた少年妖精。発言も悪戯小僧っぽくデリカシーがない。

 容姿自体は整っているのに、その言動がすべてを台無しにしていた。


 鑑賞する分には綺麗なのだが、口を開けばわんぱく少年なのか。

 改めて観察してみる。こうじっと見るのは失礼とは思うが、相手も私の目を観察しているのでお相子だろう。


 透き通った黒紫の糸蜻蛉の様な翅を震わせたホバリング。よく見れば短い黒髪が逆立っており、静電気が起こっていた。

 超常的な存在もやっぱり存在している以上物理法則は有効なのか。ならばざっと、飛行する上で重力加速度と空中抵抗はかかるはず。そうなれば、この翅で見た目レモン1個くらいの重量を飛ばすって難しい。それに、このフォルムで推進力この一箇所は不自然。


 少し考えてみると、もしかして魔法? と思い至った。

 ならば今世では不可能だった人類の憧れの『空を自由に飛ぶ』は、実現可能だろうか。想像して、ちょっとだけ心躍った。



[ねえねえ、僕に名前つけてよ!]



 笑顔で頬を紅色に染めて、どう考えても地雷案件を発言してくる少年。いくら私でも、その笑顔には騙されない。

 というか、今の今まで名前なかったんかい。心中そっと突っ込んだ。


 しばらくボーっと無視していたら、諦めて別のことを要求し出した。



[見えるでしょ? 僕は人間に初めて見られたの!!]



 名前は今の所諦めるから、なんか声かけて!! と催促する少年。

 どう考えても面倒臭いしものすごく体がしんどいので、今は無理だと顔を背けた。だが、少年に回り込まれた。



[君が縛られているのは僕が見つけて助けたからのだから感謝しろよ[……あぁ、抜け駆けずるいぞ!] [オラも! オラも!] ……っち、しょうがないなぁ]



 なんか、少年に続いて2人集まってきた。


 1人は凛々しい中性的な女の子。逸材。


 勝気な眉と凛々しい目元。長い睫毛の下はサファイアの潤んだ目。豊かなブロンドウェーブの髪。おまけに体格も良い様子。紅薔薇の似合う『憧れのあの人』の、幼少期の姿と重なった。

 そんな凛々しさとは裏腹に、翅は薄桃グランデーション入りの蝶々翅。紋白蝶みたいにフワフワ飛んでいた。


 もう1人は可愛らしい中性的な男の子。

 女装したら男の娘になるかも? でも口調からしても嫌がるかもしれない。


 赤茶色の髪がふわふわしており、目尻が下がった垂れ目に泣き黒子が1つ。今はなんとなく眠そうな見た目だが、将来妖艶になる可能性が高いだろう。

 そんな少年の翅は甲虫系。茶色でブーンと音を立てて飛んでいた。人によっては苦手だろうか。


 そういえば、皆さん臭くないけど何でだろう。そうだ、臭くないんだここ!


 重要なことに気が付いた瞬間ぼんやりした頭が冴え、ハッと思わず起き上がっていた。

 途端、背中に激痛が走って意識を失った。

 急展開。


※ごめんなさい、タイトル入力間違えたので訂正しました。

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