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4 異世界の洗礼/覚悟

 皆様、ブクマと評価ありがとうございます! 思わず驚いて二度見しました笑

 さてグロ・シリアス入ります((--;;)) ご注意を!




 賢者から知恵を得る(振りをする)上で、安全マージンを得るため3日、いや1週間は欲しかった。だから、家から脱走して1週間程度街に潜伏しようと一応計画していた。

 ただ、行き方までは計画段階で思いつかなかったのである。

 今まで馬車で楽をしていた弊害がここに来て出た感じだろう。後悔してもしきれない。方向音痴だから迷子はまずいのに。


 今更だけど、もう少し様子見してから実行すればよかった。


 それに、よく考えれば素性を隠して人を雇うとか、迷子防止の方法はあったのである……いや、どの道無理だった。

 私個人の現在保有している宝石・貴金属類の価値をざっと思い浮かべたが、どの程度の金額へ換金できるかは不明。信頼の置ける冒険者の労働力・時間をどの程度で購入可能か不明。

 そもそも貨幣価値が不明。


 何この圧倒的情報不足。

 記憶を思い出す前後で結局、私は無知だったか。



「アハハ、どうしましょうか……」



 この脱走も必要に駆られてとはいえ、無謀だったか。なぜかそう思った瞬間目が潤み、涙がこぼれ落ちた。

 一応これでも考えたつもりだったのに、なんでうまくいかないかな。


 今思い返しても脱走は絶対条件で、他の選択肢はない。

 水質に関しては急務だし、それを変えるために知識チート使えば悪魔憑き扱い受けるかもだし、生活魔法の『飲水』は代用できないくらい不味いし。


 いや、こうやってウダウダする余裕はない。

 それよりこれからどう行動すればいいか考えねば。こういう時令嬢知識は何の役にも立たない。


 もう何度目かになるかわからないため息を吐いた。


 何という初歩的なミスを私はしてしまったのだろう。

 全部考えればわかることだった筈。前世ならばこんな初歩的な間違いはしなかったと思う。


 いや、考えるのは後だ。今はそれより歩き回ろう。そのうち偶然街道へ出られるかもしれないし(ヤケクソ)



 涙を勢い良く拭い、そして今後の方針を考え……ッ?!



「……っ!? ……!! ……っ〜〜!!?…………」



 痛い。いたい。


 すごく痛い。死ぬほど痛い。転んだ、絶対青痣になった(涙目)


 でも流血はしないで済んだ模様。裾の長い地味なスカートがクッションとしての役割を果たしてくれたみたいだ。


 だけど、その結果は惨憺たるものだった。

 引っ掛けたスカートが破れ、穴が開き、土や葉、それからよく見れば虫もついている。この糸は蜘蛛の巣だろうか。



「!!」



 トゲの生えた毛虫をその辺の枝で払い落とし、なるべく離れようと後退る。

 そして、足元を見て固まった。


 波打つグロテスクな物体。少し離れているが、近い。


 脳裏に虫や変形菌という言葉が浮かぶが、記憶のそれとは違う。全く、これっぽっちも一致しない。


 毒々しい虫が暴れ、その度撒き散らす紫の液体。

 物体はそれを浴びると、ジュッと音を立てて焼けた。あの虫の体液は毒だろうか。


 脂汗でべっとり流れ、全身の毛が立った。


 液体を浴びる側から復活し、変形しようと蠢めく謎の物体。色は物体のまま、毒々い虫の形へ一部だけが変わっていく。虫型になったソレは羽を震わせようとし、ボロボロと端から糸が落ちる。

 よく見れば、足の本数と向きがおかしい。


 あれではまるで、ミミッk……!? 


 毒々しい虫が菌糸に沈んだ取り込まれた。グチャグチャとまるで咀嚼するように蠢く物体。


 菌糸は虫へと変形した。

 まだ不恰好だが、形だけ(・・)はちゃんと虫を再現していた。そしてやはり、正しく飛べないみたいだ。


 ふと、その空虚な複眼が私の方へと向く。


 虫の端が不自然に蠢き、先程の虫へ足が複数付与された。長さも形もバラバラで、ムカデよりグロテスク。

 その不揃いな足で不恰好に這い出した菌糸塊。


 それは動く。こちらへと動く。

 突き出た足が糸に戻るのも構わず。地上の枝葉にぶつかるのを物ともせず。

 カサカサ音を立てて、ゆったりした速度で寄って来た。


 逃げないといけない、なのに足が竦む。今逃げれば逃げ切れるのに怖い。無理。動かない。動け。


 ヤダナニアレ。

 コワイコワイコワイ。ヤバイヤバイヤバイ。


 唖然と近寄ってくるのを見ていた。頭の制御下を離れた体は、どうしようもなく唖然と動くのを拒絶した。


 そしてもう目の前。


 やだ、逃げられない。

 私、死ぬのか。こんなところで死ぬのか。あっけなく一瞬で。


 私の麓で崩れる糸の塊を前に一瞬刺殺された瞬間が流れ、腹の底からカッと一気に血が巡る。


 今、動け!


 持ったままだった枝を咄嗟に払う。ナイスヒット。

 まるで映画の一幕みたいに1秒が長い。現実味がない瞬間だった。


 宙を舞う。


 虫の原型を完全に無くし、不定形へ崩れた菌糸は飛んで行った。そして倒木へ激突。

 パシャッと音を立てて糸が散らばる。直後、液体状に倒木を囲い出した。


 一斉に虫が飛び立つ。

 糸は黙々と、倒木自体を侵食し始めた。


 タゲが外れた。逃げろ!


 震える足を必死に動かし、息が切れるまで走った。ひた走った。






 あんな、あんな悍しい生物知らない。そんなもの地球に存在しなかった。


 怖い。こわい。コワイ。全身が震える。

 未知の恐怖と大自然へ背筋がぞっと冷え込んだ。



『ここは異世界、地球ではない』



 今更ながらそんな言葉が頭を流れ、呼吸が浅くなりかけた。だが無理矢理な深呼吸とやせ我慢でやり過ごす。

 そうでもしなければ、今すぐ気絶しそうだ。


 嗚呼無様だな。こんなはずじゃなかったのに。


 今思えば、私は恵まれていた。公爵家はまだ安全な方だったのである。


 地球基準で考えたら確かに不衛生極まりない。けれど、この世界基準では金と手間をかけ作り出された、守られた環境だった。直接的な生命危機は少なく、どころか衣食住足りて礼節だってあった。


 それに文句タラタラだった私。

 さぞ我儘で、迷惑な令嬢だっただろう。


 それなのに私の両親は、金・コネ・権力等持てる全てを使って環境を整えようとしてくれていた。貴族として何の責務も果たしていない、力ない私のために。


 嗚呼、公爵邸が恋しい。

 あれだけ臭いと嫌がっていたのに今は、あの安全が懐かしかった。


 ギリリと唇を噛み締めて涙をこらえる。


 私はきっと、大人しくしていればよかった。

 情報不足な上世間知らずなのに動くべきではなかった。日本の記憶に惑わされず淡々と貴族令嬢としての日々を過ごしていれば、多少不満はあれ断罪の瞬間までは平穏に暮らせていたかもしれない。


 森にでさえしなければきっと、こんな目には合わなかった。


 閉じていた目を瞬きすると、涙がこぼれ落ちた。

 そして思った。何でこの記憶が蘇ったのだろう。


 次々感情が溢れた……疲れた、お腹減った、寒い、と。


 もう何もかも嫌だ、放棄したい。

 いっそのこと存在ごと消えたい、怖いのも痛いのも嫌だ。


 6歳児の私は一瞬そう思いかけ、なぜかぞっと怖気が走った。

 そして、自問自答する。



 ならば、前世の『私』は消えていいの? 同じ私なのに、と。



 人としての尊厳をなくてもいいのか?

 文化的な最低限度の生活を送る目標をなかったことにするか?


 そうすれば確かに普通の6歳児として、今だけ(・・・)平穏を享受できるだろう。



「……それは、嫌ですわね」



 知ってしまえば、無知だった頃には戻れない。

 そして死んでしまった私は私へは戻れない。


 そうだ、思い出してみろ。


 あの危うく汚らしい状態を。

 いつ疫病が流行してもおかしく無い現状を。


 日傘やヒール靴、攻撃的な香水の需要がある理由を今一度、良く考えてみろ。この異常で非文明的で、悲劇的な人類の現状を。


 こんなんでいいのか?

 文字通り汚い現状を甘んじるのか?


 そうだ、今日歩いてきた街道沿いの森をよく思い出してみろ。


 ご遺体も糞も何もかも雑多に放置され、蛆が蠢き、肉蝿が黒く群がっていた。

 埋葬もされず、一体いつから打ち捨てられていたのか。顔の部分は黒い芋虫が湧き、這い出ていた。羽虫が一斉に跳び立ち、不愉快な悪臭が漂っていた。


 そのあんまりな衝撃絵図に、慌てて逃げたのは言うまでもない。


 森であんな状態。

 ならば人口密集地帯は? スラムは?


 もしかしたら、もっとひどいかも。ううん、きっと比べようもない程ひどいだろう。

 現代日本なら放送禁止に成る程のグロテスクな惨状が、容易に予想できる。できてしまう。


 そんな中に、我儘令嬢な私を愛してくれた両親を残す?

 私を信じ、『浄化』を覚えてくれた3人を置いていく?


 諦めるってことは、そういうことだ。


 きっとその方がいいのだろう。ただの6歳児だったならば幸福だっただろう。公爵家全体は優しく庇護してくれる。部屋の中はまだ快適な方だ。運さえ良ければ生き残るだろう。

 両親は、現状唯一の後継者たる私だけは死守するかもしれない。



「けれど、それに甘んじてはいけませんわよね」



 震える自分を叱咤する。しっかりしろ、と。


 私は諦めてはいけない。

 私は人間なのだから。文明的で清潔な暮らしを目指し、営む力があるのだから。


 諦めるな。諦めたらそこで試合終了だと彼の御仁もおっしゃっていたでは無いか!


 きっとこの記憶は意味がある。

 無くても有ると考えろ。自力で意味を見出せ。


 そうだ、考えてみれば違和感に気付く。


 今ってこの世界が出来てから何年目?

 あの惨状、不衛生な街はいつからできたもの? 何故疫病が流行っているのに宗教頼り?


 科学科の発展も、まして衛生の発展も無い現状。


 記憶によれば、この地の開拓自体は2億年前。

 はっきりした記録はないが、子どもの絵本に出てくる神話ではそうなっていた。多少のずれはあるだろうけど大体合っているだろう。


 そして、合併や戦争を繰り返した現国王は12代目。

 日本からすれば比較的若い国だが、国王の寿命を50歳として計算すれば創業約600年。江戸時代よりも長いのである。


 そんな中で科学の発展が起きなかったのはおかしい。

 周辺諸国とはずっと冷戦状態で、大規模戦争はここ200年起こっていない。


 魔法があるから?

 それにしたって不自然だ。


 人類は2足歩行。

 道具作りをした。火を起こした。雑食になった。そのうち武器を、衣類を、家を。そして農業を。


 そうだ、農業は科学の象徴だ。


 あれほどはっきりと自然を使って自然界へ抗う行為はない。何故なら、本来なら生えない・育たない環境へ都合の良い植物を食物生産目的で植え育てるのだから。

 大体からして試行錯誤は科学の元であり、だから人類は進化している時点で無意識に科学しているのである。


 ならば、一体どうして中世(・・)で発展が止まっているのか。


 不自然すぎる、気持ち悪いほど不可思議である。

 地球との違いは魔法があること、魔獣がいること。それ以外にも何かあるのだろうか。調べねばこれは。帰ってからやりたいことリストに追加。危険だけど、知る価値はありそう。


 そしてそんな状態に対し、科学を知るのは、その発展の先を知るのは私のみ。地球人だった記憶のある私だけが知り得ること。


 私しかできないのに誰がやるの? 私でしょ!


 何も変えられないと怖気づいた自分へ、再び叱咤した。しっかりしろと。

 私ならばできる。やれる。


 だって、そのための知識があり、手段を今取りに行っているのだから。


 今できることは頑張ってアリバイを作ることのみ。なんなら、この摩訶不思議な異世界の森の中で1週間サバイバルする覚悟もついた。

 怖いし、飲食物が固焼きクッキーと不味い水しかないけれど。



「成せば為る、ですわ」



 そうして気を取り直した私は、歩き出した。


 いいお年玉になったかな、なったといいなぁ

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[一言] お年玉になったなったから続き下さい。
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