34 目覚め/猜疑心と好奇心
読者の皆様お読みいただきありがとうございます。遅れて申し訳ないです。
一応間に合ったので……もしかしたら後日差し替えるかもしれません。
激痛に目を覚ますと、知っている部屋にいた。
「…………」
ここは賢者ハウスの客室……修行の時期に寝泊まりしていたところ。
天国ではなく?
一応見回し、確認する。
窓側にはモスグリンのカーテンにベージュのシックなレース。部屋の内装もどちらかといえばシックな緑系が多く、部屋の片隅にはインテリアとして月桂樹の親類と思しき樹木が植えられていた。
修行中、ひょんなことから折った枝が同じ様だが、一応もう少し見ておくか。
ベッドはダブルサイズで、小柄な私が二度三度寝返りを打っても落ちない広さ。清潔な白いシーツに濃い緑のベッドカバー。そのうえで、空気清浄機能完備。
この世界で自分の家以上にダニやほこりを心配せず過ごせる最高の環境。
ということは、あの状態から助かったのか。
『オルクスの死人』出現だってきつかったのに、『氷霧の巨人』が出現したときはさすがに人生投了かと思っていた。トロルの様に首を飛ばされてもある一定条件を満たさなければ死なないクマムシ並にしぶとい伝説生物。
互角に相手取るのは人の身にはかなり厳しい相手であった。
だが、そうか、何とか生還できたのか私は。あんな状況から。
いやちょっと待て、ユールは?
そんな氷霧の巨人相手に一歩も引かず、白銀鎧で黄金の髪を棚引かせながら全身血濡れ状態で戦ったユール。最後に私が声をかけたせいで、あんなひどいけがを負って。それなのに騎士の誇りを最後まで貫いたユール。
一応繋がりは感じられるので、生きてはいる……けど、姿ない。
「ユール……」
見回すが、この部屋にはいないらしい。
それどころか、いつもは一緒であるカルロとジャックも不在。ユールと仲の良かったカルロは付き従っているのだろうか。ユールの状態に号泣している姿が目に浮かび、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
ジャックは……もしや、まだ瘴気に当てられたままなのか。
熱発して相当苦し気にしていたジャックを思い出し、ふと心配になった。今もまだ回復していないのかもしれない。
ジャックは気が付くと無理をしているからな……
「ジャック……」
でも気が付いたら頼んでいるか、あるいは、頼む前に全部やってくれている。
今回だって、実家から脱走する際ジャックに頼んで負担をかけたからこそきっと、あんな熱発させてしまったのだろう。前々日に襲撃者の撃退をさせた挙句、もしかしたら徹夜で看病してくれていたのかもしれないし。
本当に悪いことをし……
「ん? 呼んだかな? あれ、まぁ浮かない顔しているけど、どしたよ? 夢の中で変なもの食べた? それとももしかしてウン「ご心配頂けてうれしいけれどジャック、はしたないわ……」」
肩をすくめながら「ハイハイ、かしこまりましたごめんなさいすいませんね、オジョウ様」と生返事をするジャック。ニヤニヤとからかうように笑う姿はいつも通り、デリカシーのかけらもない子供そのもの……心配して損した。
安堵したところで、ユールについて聞いてみるか。
「ところであの、ユー「お、目覚めたか! よかった、よかった!!」」
っと、ここで賢者モードもといカル先生乱入。冷たい視線をジャックと共に送ってやると、背後にいたベラドンナ先生のハリセンが唸った。スパーンと良い音が鳴ったと同時に賢者は撃沈した。
ベラ先生、ぐっじょぶ。
扉をノックすることもなく、ドタバタ侵入してきた狼藉ものはきちんと成敗するに限る。ジャックは子供なのでまだ笑って許されるが、先生は成人男性なのだからいい加減守るべきなのである。
それに、私とユールを3日間迎えに来なかったことに、不信感を抱いていたりした。
考えてみればわかるが、勝手に私とユールが移転された際、空間属性を修めたカル先生ならば介入できたはずである。仮に無理だったとしても、カル先生のポーチを持っている以上、それを目印にワームホール形成ができないはずがなかった。
全て、さっきぼんやりとしながら気が付いたことであるが、事情があるにせよかなり腹が立っていた。
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などということを、新たにたん瘤増産中のカル先生へぶつけてみた。
「本当にすまなかった……事情は申し訳ないが、今はまだ言えない。だが言わせてくれ、お前たちが無事でよかった」
じっと賢者の後頭部を眺めながら、これはどう返したものかと思案した。
ユールに関しては、一先ず無事だとのこと。ただ、失血した分がまだ戻っていないので未だ絶対安静で寝ているとのこと。血液型の一致したカルロが輸血したので、たぶん大事ないとのこと(やっぱりカル先生の世界は近代以上の文明はあったのかもしれない)。
また、反則ポーションを使ったことによる反動は、魔力の一時的低下。
どうやらあのポーションは、魔力を肉体維持・再生へと消費させる性質を持っているそうだ。見本見せてもらったが、所謂エナジードリンクとあんまし見た目も匂いも変わらなかった。
これはカル先生の師匠賢者が引き継がせた技能の一つらしく、そのうち製造方法は教えてくれると話していた。
とりあえず、ユールの希望である騎士の道は断たれなかったようだ。本当に良かった。
血液提供者カルロは貧血を起こし、現在寝込んでいるそうだ。男性は確か女性と比べて失血には弱かったはずなので、仕方がないのだろう。こちらも回復まで少し時間がかかるとのこと。
そして肝心の『3日間』に関しては、はぐらかされた。
返事もさっきの「すまない」をただ繰り返すだけ。
正直な話、不信感が拭えない。
言葉に嘘はないようだが、これが二度目なのである。しかも私以外、ユールが死にかけた事実があまりに重過ぎた。
それなのにこう、事情ははぐらかされて……疑ってくださいと言っているようなものだろう。
それなのにこう、何度も謝られると元日本人としては空気読みたくなるわけで……正直困っていた。ふと、空気読めない筆頭ジャックならどうリアクションするだろうかと、彼のほうを見た。
そして一瞬で、固まった。
硬直から解除されると、二度見、三度見した。
ジャック……その姿はどうした?
驚いて自分を見つめる私へ一向に気が付かないジャック。それをいいことに、私はジャックから生えたとても気になる物体へと指をそぉっと近づけ……
「つ・か・ま・え・た」
「!!!?」
思い切り掴んだ。
某子供なら全員知っている『とびゆけ!! ア〇パンマン』というアニメにでてくる『ばいきんくん』の尻尾に似ていたのでつい。
[ちょ、くすぐったい! やめっ、ぐぁ、っ?!!]
動揺し、妖精言語で文句を言うジャック。
[あらあら、滑らかなのにしっとりしているのね!]
[やめろ! あ、そこ、だめ!! くすぐったい! くすぐったいから!!]
しっぽを扱くように触ってみたところ、ジャックはくすぐったいと頬を紅色に染めて体をくねらせ悶絶した。その間に次のターゲットをロックオンした私。
[こっちは、あら? 透けているのね!]
蜻蛉の翅と同じで触れないのねぇ、などと触っていたら後ろからスパンッと私もたたかれてしまった。見ると、おろおろした様子の賢者と綺麗過ぎる笑みを浮かべたベラドンナ先生。
やばい、調子に乗り過ぎた……だって小悪魔羽に尻尾って凄いレアじゃない。
ほら、きっとそこに山があるように、そこに悪魔尻尾が誘ってきたら触らなくちゃダメでしょ?
「ルルーティアさん、わかっていらっしゃいますわよね? はしたないですわよ、そう、淑女が子供といえ殿方へ触れるなんて……それも、それも、そんな破廉恥な場所を!!」
こんこんと説教をするベラドンナ先生に、結局その後カル先生の謝罪は有耶無耶になった。また、その間にジャックの新しい羽と尻尾は消えてしまっていた。
問いただすことができず、尋ねても誤魔化されたのである。
けれど、私は危機感を覚えた。
あの尻尾に羽は、明らかにカル先生の話していた『悪しき妖精』の特徴と似通っていた。それに、先生を見つめる目が何というか、すぐにでも茶化さないと戻ってこないような気がしてならなかったのである。
君の身に一体何が起きた?
ありがとうございます。




