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12 修行/帰路



「それで、説明してもらえますの?」



 息も絶え絶え、ドロドロのまま眠って翌日。満面の笑みを浮かべて私は賢者へそう尋ねた。

 賢者はため息をつき、「悪かった」とつぶやきながらこう続けた。



「あれは、『次代賢者』の育成期間中における支援の一環の為に行ったンだ。

 ほら、弟子の教育で家を空けないといけなくなっただろ? それで、この領地を経営するための人材を貸してもらうために、ああやって挨拶に行ったンだよ(それ以外にもあるンだけどな……)」



 なるほど、大体私の修行の為か(最後の方は聞き取れなかった)


 いくらワームホールもとい『縮地』で公爵領から辺境伯領までの距離を詰められたとしても、ゼロにはできない。そして、巨大魔獣の多く危険なヴァイレンホッフ辺境伯領には、常に力ある存在を置いておく必要があるのである。

 ヴァイレンホッフ辺境伯には不思議なことに私兵団設立許可が出ておらず、辺境伯自身が間引きするか、冒険者を雇うかしか方法がない。


 そこで現辺境伯は、領地内の一箇所を特別保護地区として結界を張り、その土地を妖精に貸し出した。代わりに領地の守護をお願いして。

 賢者の権限としてはギリギリだったが、賢者の現状を憂いたティファ王妃様が許可を出したとのことである。


 その上で、賢者が私を育成するため領地を離れることなったため、さらなる人材を先ほど求めたのであった。



「それで……ですが、それをなぜ妖精郷へまで「ここからは僕が引き継いでいいかい?」」



 声がしたので振り向くと、そこにはオベロン陛下がいた。慌てて席を降りて跪こうとしたら、手で制された。



「あ、楽にしておいていいから。」



 その言葉で姿勢を元に戻す。それを満足気に頷いたオベロン陛下は、腕の中で眠るティファ妃陛下をそっとソファに寝かせた。

 彼女の頭を少し撫で、我々の目線に気付いてゴホンと咳払いをした。そして悪戯そうな笑みを浮かべた。



「……さて、じゃあ簡単に言うけど君のためかな、ルルーティア嬢。賢者の称号を得る条件の一つをクリアさせるためだよ。そうだよね、賢者モード?」


「え……」



 驚いてバッと賢者へと振り返ると、目を逸らした賢者はリストを胸ポケットから取り出した。それを、私へ渡すなり顔を真っ赤にして悶えた。


 怪訝な表情を浮かべてリストを受け取ると、タイトルは『賢者育成プラン』という手記になっていた。日付の年号を見ると今から10-20年前程度。賢者は推定30代なので、厨二病真っ盛りの時期だろう。



「『俺様の考えた最強の賢者になるんなら、カス共に最低限やってほしいことを以下に挙げた。この程度の覚悟もないなら』……えっとこれは一体?」

「読み上げなくていいから!」



 口を塞いで涙腺崩壊気味にジタバタ笑いを我慢するオベロン陛下と、抗議の声を上げる賢者モード。


 賢者の称号を得るためには賢者の元修行する必要があるが、修行内容を決定するのは当然賢者の役割である。そして、賢者修行の内容は賢者認定後、いつ・どんな内容にしても良いが、決定後変更は不可能になるらしい。


 賢者モードは厨二病時代に賢者の称号を取得したのだろう。

 そして、その当時に思いついた『ぼくのかんがえたさいきょうのけんじゃ』を実現させるべく、自分が担当する賢者候補に対する必須項目を作成したのだった。


 結果的に、かなり無茶無謀な内容となっていた。


1. 担当妖精3人に気に入られる

2. 妖精王と妖精王妃に気に入られる

3. 妖精の良き隣人であること

4. 当代賢者の技術最低1つは履修する

5. 妖精界との外交方法を学ぶ



 ここまでは良い。問題は次から。


6. 妖精郷へ一度は赴いて『妖精樹』を前に謁見する

7. 修行中ドラゴンと対峙する

8. 生命危機から自力で生還する

9. 時代へ喧嘩を売る/その計画立案

10. 先代賢者教育の引き継ぎ



 後半にちょこちょこ頭の可笑しい内容を盛り込んできた賢者(やっぱり厨二病)。とりあえず6、7、8はすでに済みのサインが出ていた。尚、8に関しては森の中で対峙した菌糸系の魔物の時らしい。



「ところでこれ、どうやって達成しますの? 最悪魔女裁判に架けられてしまいますわよ!?」



 時代に喧嘩を売るって……ジト目で賢者を見上げると、あさっての方向へ向いた。顔は真っ赤なままだった。



「ああそれはね「答えないでくれお願いだから!」 わかったよ、自分でちゃんと説明するんだよ」



 答えようとした妖精王へストップをかけ、賢者は口をつぐんだ。だが、私の視線に耐えられなかったらしく、ため息をついて下を向きながらつぶやいた。



「……もう少しだけ待ってくれ、まだ清算できていないんだよ…………」



 その表情に、ただならぬ何かを察した私はさっと引き上げることにした。しかるべき時にきっと話してくれることだろう。


 その日は結局、何をすればいいのかわからなかった。他項目は大体チェックが入っていたので(妖精王陛下と妖精王妃陛下に気に入られた!) 自分なりに考えて頑張ってみようと思った。

 とりあえず、目下衛生事業を頑張ろう。






 あれから再び数日。家出してからきっちり1ヶ月。

 イスカリオテ公爵家へ帰ることになった。


 名残惜しいがこればかりは仕方がない。


 残りの日数でできるだけ魔術のトレーニングを行い、初歩的な『拡張』までできるようになった。

 これで、発動中の魔術を微調整したり、保存中の魔術を調整したり、属性を組み合わせたりすることが可能となった。魔術修行は順調である。


 また、礼儀作法もベラドンナ先生から10代前半までは通用するというお墨付きをもらった。今後は公爵家の講師に頼むことになる。


 一方で、私は今一番行き詰まっていることは歴史。

 前世で社会科の科目が苦手だった私。それが今世で無謀にも同時の3つ分の歴史を学ぶことになり、混乱の境地にいた。



 一つは賢者教育の一環として行った歴史の授業。


 賢者側から見た世界史であり、政治や権力、宗教に囚われない見解を学んでいっている。ただし、多くの賢者や賢者候補者が国の中核にいた例が少なかったせいなのか、大雑把な部分も多い。

 また、妖精を含む他生物との共生、極稀に現れる特殊能力者と迫害の歴史、賢者制度成立までの歴史等が、詳しかった。こちらはまだざっとしか学んでいないので、これから3人の妖精たちと共に学ぶことになる。



 二つは『オストライ=ニルヴァニラ王国』の貴族としての歴史の授業。


 こちらはイスカリオテ公爵家の忠義を誓っている王家が定めた歴史。貴族ならば何かしらの形で全員学んでいる歴史である。

 建国話であるオストライ国とニルヴァニラ国の2国間同盟の話から始まり、主に隣接する国の悪口大会を経て『旧■■■■■国』がイスカリオテ領として保護・合併吸収されるまでの歴史だ。



 三つは『イスカリオテ公爵家』の次期当主としての歴史の授業。


 こちらは5歳から公爵家でお母様直々に習っていたことなので、まだ序盤もいいところだった。ただ、オストライ=ニルヴァニラ国の歴史にある『旧■■■■■国』合併の話は嘘だということだけは既に分かっている。


 人名と年号覚えるだけでも精一杯なのに、何故微妙に違う歴史になっているのか。物語にしても辻褄が合わないし、悲劇が多すぎて気が滅入る。登場人物が多すぎてどうにもならない。

 特に、埋葬されたのに突然30年後生還、逆に実は50年前に死んでいましたとか多すぎて、頭抱えた……やっぱり王家は碌でもないと。


 ただ、この世界で生きていく上では絶対必要なので何としてでも覚えないといけない。幸いまだ6歳で頭は柔らかい。暗記力はあるだろう。

 それに、どうも小説でぼかされていた悪役令嬢の没理由に何か物騒な裏事情が絡んでいるらしいことが判明してきた。まだ詳しくはわかっていないが、おそらく『イスカリオテ公爵』とお母様の血筋に関係があるらしい。


 それがどう、ヒロインや第三王子の婚姻へ繋がるのか……果たして無事、私は逃げ切れるか。


 色々不穏だが悩んでも仕方が無い。とことんやってダメなら、財宝抱えてトンズラする覚悟でやろう。



 いよいよ一旦お別れとなるカル先生を見上げる。



「心配するな、1ヶ月後には合流するから」



 ワームホールで公爵家領地関所まで送ってくれたカル先生。

 不安そうな顔をしていたせいか、慰めるようにポンポンと頭を撫でられた。そして私へ鞄を渡してきた。



「餞別……ではないが、課題? とにかくそれで勉強しておけ。ただ、あまり公爵様には見られないようにしろよ、それは我々の商売道具だから」


「わかりました」



 そう言って鞄を担ぐ。

 私の横でベラドンナ先生に挨拶していた私の妖精3人も、挨拶がすんだ様子。戻ってきて、髪の中の定位置へと着いた。


 そうしてもう一度礼をすると、先生はワームホールでいなくなった。私は待機していたイスカリオテ公爵家私兵に連れられて、馬車の元へ行った。



この後出来次第、続き投稿します。

急いで書いたやつなので誤字脱字あったらごめんなさい(--;)

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