8 魔力/転生による自我危機脱却(仮)
かなり複雑かつシリアスなので、苦手な人は後書きへ概要書いておきますので参照頂ければ。
あれから3日後、すっかり体もよくなったので早速修行を開始することになった……となればよかったのだけど。ちょっと予想外なことが起きてしまっていたりした(困惑)
「……魔力を感知せよ、と言われましてもねぇ…………」
賢者モードの賢者取得条件は、最低限SS級の魔術を使えるようになること。おすすめは空間属性と言っていた。
そう、魔術である。魔法とは違うことが重要だ。
さて、魔法と魔術の違いは簡単である。魔法はこの世界に元からある技術で、魔術は賢者モードが前世から持ってきた技術とのこと。
賢者モードの前世は地球ではなく、別の異世界。そこにはこの世界同様魔力・魔粒子が存在し、魔法科学技術、略して『魔術』が発展していたとのことだ。
その『魔術』とは、現存する魔法言語と計算式を解明、自力で魔法を生み出す技術のことである。ただ、その過程で魔法とは完全に別物になってしまっただけの話しだ。
その結果、魔法で不要だった魔力感知という技術を改めて学ぶことになった。
そして現在絶賛魔力感知訓練中、既に開始3日目。
全くわかる気がしなかった。
魔力って何だろう。
正直かなり焦っている。実家の貴族教育と衛生改革実行の為、賢者免許取得短期コース(1ヶ月)希望なのに、このままでは間に合わないからである。
予想外だった。こんな分かりにくいものなのか魔力って。
某小説サイト掲載異世界転生ものでは、「地球にはない異物なので、割と直ぐ分かる」という意見が大多数だった。だが、残念ながら現実は違った。
実際には、地球でファンタジー物質扱いだった魔力・魔粒子の感知は元地球人にとって、随分ハードルの高いことだったのである。
「グヌヌゥ…………わかりませんわ!!」
顔を赤くして、手と手の間へ力を込めるイメージをする(某かめは○波)だが、無情にも何も起こらなかった。厨二病患った人みたいで恥ずかしくなり、思わず赤面する。
くっそぉ……わからん。
魔力なんて本当にあるの? と疑いたくなる程わからん。
ゲラゲラ声が聞こえたので横を見れば、また賢者モードがこちらを指差して爆笑していた。どうやらさっきのポーズがツボだった模様。もう一度やってみろと野次を飛ばしてきた。
ムッと顔をそらすとますます笑い転げる。腹筋が痛いとまたもや爆笑。筋肉痛でベッドの住民になってしまえ、ちくしょう。
「魔力……魔力……」
頑張ってそれらしいものを体内で探すが、見つからない。無いものはやはりないのだろう。
瞑想したり、ヨガのポーズ取ったり、丹田意識してみたり。後はアニメや漫画の痛いポーズや気合で試してみた。だけど、どれも効果がなかった。流血は流石に賢者が止められた。
もう打つ手はほとんど無い……さっきのか○はめ波で魔力感知案は最後だった。
どうしようも無い。
目の前の光景がなんだか歪んで見えた。
笑い止まない賢者への怒りと悲しい気持ち。でもルルちゃんは大人だから泣かないもん、と幼い考えが浮かんだ。けれど、歪みが徐々にひどくなっていく。目頭も熱い。
暫く、無作法なのを承知でベッドの端っこに体育座りした。こんなことで泣かないったらないんだから。でも悔しい、悔しいよぅ。今まで頑張ればルルちゃんなんでもできたのに……ルル6さいなのに。
お父様とお母様に褒められた記憶をふと思い出した瞬間、堪えていた苦しいものがお腹の底からグンと思いがこみ上げてきた。おまけに鼻がツーンとした。
この段になって、慌てたように賢者が笑い止んでこちらに来た。
「いやぁ、悪いな。前世が懐かしくてな……えっと」
焦っているも、反省の色が一切無い賢者。
幼い私は我慢できず、プイッとした。
ルルちゃん、悔しく無いもん。泣かないもん(グスグス)
目頭が限界なくらい熱い。
感情の箍が外れそう。もう抑えられない、限界。
するりと顔面筋の制御が外れ、クシャリと顔が歪むのがわかった。
目が熱くなり、思いっきり瞬きし、頬へツーッと流れ落ちた。
その粒が、ピチャリと音を立ててベッドシーツへ沁みを作った。それを皮切りに、次々雨粒が落ちてくる。
頭がぼんやりし、ついに大人の理性の箍が完全に外れた。堪えていた反動か、燻っていた子供の激情が爆発した。
そして、悲しいという感情が土石流の如く理性の全てを押し流した。
グス、ヒック、ふえぇえええええん
なんでできないの、やっぱり悔しいよぅ!
でもわかんないモンはわかんないよぉ、ルルわかんない!!
うわぁあああ、うぇええええん
ビエェエエエエエエン
・
・
・
ヒック、エック、ゴホ、ゲホッ……グス、ヒック
[泣かないでルルねえちゃん、どうすればいいかわからないよぅ……なんかオラも悲しく……ウッ、グス、ヒック]
茶色がぼんやりとにじみ、慰めようとして泣き出した幼い声が聞こえた。いつからそこにいたのか。
申し訳ないが今暫く泣き止まないだろう。30代精神の制御下から外れた6歳児の感情爆発の威力は大きかったのである。
[!? …………!!]
茶色へ寄り添うように薄桃色がぼんやり見えた(実は、幼女を泣かせた成人男性へ軽蔑の視線を送っていた紋白蝶)
[あららぁ……これは成敗しないとだよね?]
「あ、いや……ってちょ、髪引っ張るな、やめろ!?」
悪戯な声が聞こえ、何か盛大に壊れた音や悲鳴、爆竹っぽい音が響いた。その音に反応し関心を示した私は、ようやく泣き止んだ。
嗚呼だけど、もう起きれいられないこれ。
なんだかとても疲れて眠い。しんどい。泣くのって凄いエネルギーを使うのだと今更ながら気付いた。
そして、睡魔に抵抗できなかった私は椅子に座ったまま眠ってしまった。
目を覚ますと、もう夜中。
ベッドの上で、服はネグリジェに変わっていた。浄化を誰かかけてくれたのか、体も清潔になっていた。
ああやってしまった……
昼間の出来事を思い出し、思わず1人悶えた。感情の制御が効かないとはいえ、あれはひどかった。
覆水盆に返らず。気にしていても仕方が無い。
少し成長を待つか、感情制御トレーニングするしかないのだろう。
それより今は、気付いたことについて考えてみないと。今ここで決着をつけなければ、今後ずっと気にしてしまうことになる。
後悔よりも先のこと考えようと自分に言い聞かせ、徐々に冷静さを取り戻した。
今回考えるのは『転生』について。
ずっと気になっていた。
記憶によると私は『古市紅』本人である。それなのに、30代と思えないほど不安定な思考と言動。
この原因が一体何であるか。
今回少しだけわかった気がしたのである。
転生小説では「魂が別の肉体へ入っていた様だ」と理屈なしで終わりにしていた。仮にこれが現実で起これば、拒絶反応の有無、肉体の主導権、肉体との繋がり等、様々な危険性が実際には起こり得るだろう。何せ、異物なのだから。
とはいえ、これは前提として『魂』という摩訶不思議で曖昧なものが本当に存在することを仮定した場合である。
敢えて魂は一旦置いておき、空想科学の方向で少し考えてみた。
そうして色々考えてみて、一応納得した。
ずっと疑問に思っていた。私は誰なのか。記憶が戻る前後で同じ私なのか、違う私なのか。
その答えは案外簡単だった。
内心の幼い言動に加え、計画性無く、極端な視野狭窄な性質。それらは全て、家出前後の段階で観察できただろう。そして、先ほど感情の暴露。
大人ならば堪えられるストレスへ、子供の脳が耐えられなかった事が原因だろう。子供時代泣き易いのは、ストレスの負荷を逃がすためだと発達心理学にあった。
かと思えば『記憶』の30代古市紅の様に大人のような思考をしていた。現在考えていることも、ギフテットの例外を除いて、とても普通の6歳児にはできることと思えない。
そも、6歳時点はまだ論理的思考をし始めた段階であり、やっと外界を概念化して理解できる時期なのである。
以上をまとめると、
1. 最初私は『ルルーティア6歳』を『30代古市紅』で塗りつぶしたと思っていた
2. 30代主導にしては幼い言動が目立ち、感情制御が未熟だと気付いた
こうなった。
だから、どちらの私も私だったことがわかった。
何だかこの時点で頭がこんがらがりそうだが、そうなのだから仕方が無い。
どう言えばいいだろう……まるで、転生直前の私を完全に複製したものを一旦0歳未満まで巻き戻したといった具合か。少し違うが、それに一番近い気がした。
だから、『古市紅』である私のまま、今の『ルルーティア』の私に生まれたということである。
そして、脳が十分発達して初めて、夢だと思っていた記憶が全て私なのだと認識できた。
記憶を夢の様に見る度「あ、私だ」と思えるのは、姿形から生い立ちまで違えども私と私は同一だからだと考えられるということだ。
このことから、幾つか注意しないといけないことがわかった。
例えばだが、突然大人並の思考力がついたという勘違いは即行捨てるべきだろう。全ては肉体の成熟と共に蘇った『記憶』による経験則が、そう私に思わせていたのだから。
ルルーティア6歳は、早熟でハイスペックだが30代ではないのだ。嬉しくも悲しいことに。
つまり、今も昔も齢6歳であることに変わりなく、感情・肉体の制御は6歳児並だということである。
少しだけすっきりした。今日は枕を高くして眠れるかもしれない。
「いいえ、魔力感知がまだできておりませんわ」
そうだ、魔力……これに関してもさっきの話と通ずるものがあると、今なら思えた。
なんてことはない。記憶を思い出した一番の弊害で、『魔力・魔粒子の存在が信じられない』ということが今引っかかっているのである。
地球では魔法・魔術・魔導などと呼ばれるものは全部ファンタジー扱いだった。だから、『信じられない』ことが普通なのである。
それをそう簡単に一般人がわかるはずがなかった。むしろ「はいわかりました。これですか? これですね!」 などと小説主人公並みにできるのは、密教系の修行僧やそれに追随する何かハードな精神修行を積んだ特殊な場合くらいなのかもしれない。
生憎私は、少しだけ科学ヲタクな箱入り元主婦。
科学的根拠もなく「考えるな、感じろ」は、土台無理な話だったのである。
「本当、どうしましょう……」
先ずは色々条件を考え、試行錯誤してみるか。明日は早速自身の血液を見てみよう。以前は反対されたがこの際少量ならいいだろうとゴリ押しするか。
顕微鏡は……水滴で凸レンズ作ればなんとかなるか? いや、眼鏡をそれなら借りればいいか。
翌朝すっきりした頭で起きて、早速試行錯誤してみた。だが結局、この件に関する成果は出ず2日経過(弟子5日目)。
よし、今日こそやるぞ! と気合をいれる。
ぐぬぬぅ、やはり難しい。
そこにある、あるはずだ! なのに、何故か見られない。電子顕微鏡じゃないなら帰れということか。今の文明では無理だな、そら。なら別の方法……
*〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜*
今日で修行開始1週目が終わる。
あれから色々めげず試したのだが、どれもだめだった。
魔術を使うのを観察したり、魔法発動の際何か自身に現象が起きないか観察したり。いい線いっていたと思ったのだが、魔法結果のみが体外へ物理現象等として現れることがわかった。
私の知りたかったことではないが、一応の研究成果。この屋敷内だけだが、条件変えても誰がやっても同じ結果だったので、間違いないだろう。
もう一つ行ったのは文献調査。
賢者絡みの大陸史や賢者の遺した賢者に対する考察等を学び、解釈した。一応地球人の記録ないかも探ってみたが、まさかの0人……もしや、魔法が発動できず早世したのかも。
あるいは単に、異端扱いで殺されたか……気をつけよう。
「結局何も見つかりませんでしたわね、どうしましょう……」
「せめて何か魔力のヒント的なものが……ああそうだ、魔力を視覚的に捉えてみるか。これはまだ試していないよな? ちょっと遠出する必要があるが、かなり有効な筈だ。どうする?」
賢者モード改めカル先生(本人希望の呼び方)は、自信満々な笑みを浮かべて頷いた。
「カル先生、そもそも魔力って視覚的に見られますの? 確か魔法・魔術の発動は体内で起こり、外へ出なかったですわよね?」
「うんまぁ人間はそうだろうね……でもこの世界には別種族も結構いるからさ」
ウィンクして任せろとドヤ顔を浮かべるカル先生に不安を抱きつつ、頷いてみた。すると、満足そうに早速行くかと準備に行こうと扉を開いた……ところで止まった。
3人の妖精がそこに、いたのである。ムスッとした表情で。
散々今週引っ掻き回されたカル先生は、青くなって後退った。
彼らへは既に命名も行い、無事仮契約は結んだ。名前に関して、私にしては頑張った結構な自信作である。先生には笑われたが……
[ねえどこか行くのぉ? オラも一緒行きたい!]
[私も臣下として是非、旅のお供をさせていただければと]
茶色の翅を必死に羽ばたかせてこちらへ飛んでくる男の娘妖精改め『竹中カーロ』。紋白蝶の紅薔薇の君こと『斎藤ユール』と手をつないで現れた。
仲良きことは、美しきかな。
そう思って和んでいたら、私の背中にビタンと暖かいものが張り付いた。直後、ブーンと音を立てながらあっという間に右肩に飛び乗った。
[僕同伴は当然として、2人は大丈夫かな?]
耳元で呟いた『黒田ジャック』。
「カル先生、お尋ねしますがこの3名を同伴させても大丈夫なところなのでしょうか?」
すると一瞬悩むカル先生。結構真剣な顔をしている。ということは、これって危険なのだろうか。
「……………………まぁなんとかなるか。いいぞ」
返答までの沈黙が気になるところだが、いいというなら連れて行くか。でないと、今日の分のおやつもこの子らの腹に納まってしまう。
「じゃあ荷物も持ったし、行くか」
亜空間バッグを下げ、変装を終え(今日は痩身茄子顔の髭禿中年)、私へ手を差し出した賢者。
「では、参りましょう」
概要(3行で)
元地球人は魔力感知難しい→修行出来ない(号泣)
感情制御に疑問を感じる→転生前後で同存在と気付く
魔力とは→賢者とデート(次回)




