おっさんスライム竜に出会う 16
そこは暗かった。暗くて昏い。寒く寂しい場所のように思えた。絶対の暗黒であるに関わらず周囲には小さな光が幾億と瞬いている。その光だけが暖かく思え、手を伸ばせば届きそうなのにそれは手に入らない。
永い時の中、それは一つだった。独りだった。
やがてそれは、自分は青い光に包まれるように抱かれるように堕ちて行った。
砕けて巻き上がり、そして……
「受かるかな? ここの制服可愛いから楽しみ。お兄ちゃん似合うって言ってくれるかな?」学校の門扉で冬のセーラー服の少女が、はにかみ笑う。
「いや、チョロいよ、ぎんいろちゃん」
何処かの部屋の一室で目の前の銀髪の少女があわあわと慌てている。
「……」誰かの名前を呼びながらダイニングで泣き、酒をあおる女性が顕れる。
自分を見上げる傷付いた猫が悲しげに鳴いた。
様々な光景が閃き瞬き同時に巻き起こり、いとも容易く脳のキャパシティをオーバーする。
これは…… もしかして夢ではなく記憶。
なのだろうか。良く…… 解らない。
情報の奔流。サイケデリックに飲み込まれる。圧倒される。
べろり。顔 (?)を舐められた。
あ、スガルガだ。あのドラゴンまた俺を味見しやがったな! けどありがたい。自分の中の確かなモノを見つけ出しそれを手懸かりに一気に意識を引き戻す。
『味見らめぇー!!』
『起きたか。中々起きんから心配したぞ』
『 スガルガ!今日は何日だ!あれから何日たった?』
『んんっ? モモよこの暗い、日の射さぬ穴蔵で年月の経過など解らぬよ』
『そりゃ、そうだけど……』そこはちょっと、ほら、ねぇ? じ◯ん……
いや、本当に三日経ってたら目も当てられない事態にはなんだけどな。
起きたらスガルガが死んでた!!とかにならなくて本当に良かった。
『本当に心配したぞえ?』
もう一度舐められた。
『ちょっ、らめぇぇぇぇぇ!』
くすぐったいぃぃぃ!!
『一口、一口だけじゃから良いではないか』
『スガルガの一口って全部じゃねぇかっ!? 一舐めですらねぇ!?』
て、ん、ど、ん!! まったくドラゴンのクセにJKみたいな絡みしやがって。
『あはは。で身体の具合はどうじゃな?』
『え、あ、うん。大丈夫。かな?』
ステータスオープンとか使えたら状態を把握出来そうなんだけど、なんかよく解らん収納はあるのにこの片手落ちはなんですかねぇ? ステータスオープン、鑑定、収納は異世界三種の神器だろう!?
俺Tueeeee!! も合わせて四天王!!。
こんなのオレが求める異世界ではない!! 異世界のやり直しを要求するッッ!!
と、ネタとして変なアバンギャルドなポーズ脳内でキメて満足したので現実に戻る。アルファベット的にG。もっとも現代人からすると現状の方がよっぽど幻想だけど。
『魔力が上がったか?』
『そうなのかな? 実際に検証してみないと解らないな』
とりあえず、けろけろフォーム (骨無し)で試した所、体感で維持できる時間が伸びた気がする。時計欲しいな。
「んじゃあ、もう一個食べるかえ?」
スガルガが鼻先でもう一個の魔石を押しやってくる。
「え、いや、えーっと」
ちょっ、またあのキモチワルイ体験しなきゃ駄目なの!? 全力で拒否したい。ないわー。でも……。
スガルガを観る。
「…………行ったらぁ!?」
一分後、白目痙攣するスライムの姿があった。
ま、スライムに目ぇ、無いんですけどね!!
びくんびくん!! 再度オレは夢の世界に旅立った。どりぃいいぃぃぃむ!!。




