6 ヘーゲル戦2
「もう、仕方ないなあ。お兄ちゃんのために……」
ぶち殺してあげるッ!!
逆手に構えられた包丁が蒼光を帯びる。そして振るわれたアスカロンに向けて差し出す!
ガギィイッ!!
火花を散らすアスカロンと包丁。
ハルはヘーゲルの全身全霊の一撃を安々と受け止めてみせた。どう見ても力の比率がおかしい。ガチムチマッチョなおっさんの大剣を細い少女の包丁が受け止めるなんて、あり得ない話だ。
いや、ホント何なんだよあいつ。
「その光……まさか刀身全体を高次元へと昇華させてるのかッ!」
つばぜり合いの中、ヘーゲルは驚きに目を見張る。
え……まじかよ!?
高次元って言うと神の領域とも言われてる概念だぞ。高次元に対しこの次元に存在するものはすべて干渉不可。高次元のものを壊せるのは高次元のものだけだ。
よっていくらアスカロンとはいえこの次元に留まる武器では太刀打ちができない。
「なっ……アスカロンが裂かれていく……!! 一族2000年の歴史が……矜持が!!」
ズッ! とアスカロンの刀身に包丁の刃が通る。熱したフォークがバターを通るようにすんなりとアスカロンは包丁によってそのまま両断された。だがそこで終わることはない。
まただ。また騎士たちを一瞬にして葬ったあの見えない太刀筋が幾重にも折り重なってアスカロンを切り刻む!
もはや原型を留めていない。アスカロンは紙細工のように粉切れとなりヘーゲルが掴むのはただの柄のみとなった。
なんか、かわいそうになってきたな。
「ああ……! ああああっ!! 俺のアスカロンが!!」
「次はあなたがこうなる番だよぉ? お兄ちゃんにつきまとう害虫は駆除しなくちゃ」
ギン! と、その切っ先をヘーゲルへと向けるハル。そして素早く包丁を引くと、
「ゴフッ!」
閃光のごとく肉薄しヘーゲルの腹部を貫いた。
えげつない。刺した後グリグリとねじっているのがなおさらエグい。
「ふふふ。どうしたのぉ? ストーカーさん? もう終わりぃ!?」
「く……この命尽きようと、我が魂は尽きぬ。 俺だけではない。貴様らも地獄へと連れて行ってやろう」
血塗れの口で再び何かの詠唱を開始する。
まずい。まさかこの詠唱は――ッ!!
「ハル! 早くとどめを刺せ!!」
「ふふ。もう遅い。詠唱は完了した」
しまった。流石は竜殺しの高速詠唱なだけある。
まさか自身の肉体を生贄に魔力を大幅に増大させる魔法、禁忌術式までこの短時間で完成させるのだから。
「う、ぐ、グオオオオオオ!!」
みるみるうちにヘーゲルの身体が肥大化し、黄土色へと変化していく。
禁忌術式は強力な魔力をその身に宿す代わりに、理性を失い、人間の姿を失う。もはや魔族と何ら変わらない存在になるということだ。
「あわわわ……どうしよぉ。お兄ちゃんこの人アルティメットストーカーさんになっちゃったよぉ」
なんだよアルティメットストーカーって!
というかこの状況はかなりまずいんじゃないか?
禁忌術式によって狂化した者はその生命が尽きるまで破壊をやめない。加えてあのヘーゲルだ。ソウラン王国全体が崩壊してもおかしくないぞ!