4 ヤンデレ少女の実力
「いでえ、いでーよぉおおおお!! 俺の腕! 俺の腕がああああああ!!」
引き裂かれた断面を凝視し発狂するジェームズ。俺も含め周りの者は唖然とすることしかできなかった。
「あの、ジェームズさんが……! 何者だ貴様!」
俺を取り押さえる騎士たちが声を揃えてそう喚いた。だがこの少女はゴミでも見るかのような目で見つめ返すだけ。
「あなた達、何でお兄ちゃんにそんなにベタベタくっついてるの……? 私なんて最近は抱きしめてすらもらえないのに!!」
ドッ!! と、怒りが吹き出す!
禍々しい。邪神と張り合えるほどの気迫だ。
やばい、なんか俺まで巻き沿いを食らいそうなんだけど。
「くっ、怯むな。かかれ!」
俺を抑えてた騎士たちが勇ましく女へと向かっていく。一応言っておこう、こいつらはソウラン王国騎士団第一精鋭部隊『エグゼス』。
竜殺しのヘーゲル、豪腕のジェームズを団長、副団長に持ち他の部隊とは一線を画した訓練を受けている。もちろんそれに付随した実力を持ち合わせた精鋭のエリート集団なのだ。
が。
「死んでよ?」
俺は目を見張った。
見えない太刀筋が騎士たちの身体を鎧ごと切り裂く。あんな刀身でどうすればそんな芸当を可能み出来るのか
しかもあの騎士たちの鎧は、ここから北に3千キロメートル。標高1万kmを超えるマイレズの山に生息している龍種、『ドラゴニクス・インス』の素材を使ってるものと聞く。上級魔族ですら歯がたたない鉄壁の鎧を切り崩すとはバケモノか。
「あはは……これでお兄ちゃんと私を邪魔する奴はいなくなったぁ♪ ねえお兄ちゃん。ハル偉い?」
「いやまぁ……助かったよ」
というかハルっていうのかこいつ。行いから見るにもっと禍々しい名かと思っていたが案外普通だな。
「ふふ。お兄ちゃんに褒められちゃった。嬉しいなぁ」
「貴様。よくも俺の部下を……!」
ヘーゲルの顔が憤怒の紅を帯びていた。
竜殺しの血が騒いでるのか、純粋な怒りからか。とにかくヤバイということはわかる。
「殺す、貴様もその女も!!」
ヘーゲルが取り出したのは身の丈もある巨大な大剣。そう、あれは最強の騎士にのみ与えられる古よりの宝剣。名を――――アスカロン。
凝った装飾はなく、シンプルにどうすれば効率よく殺せるかを追求した殺めの剣だ。10年前に勃発したグレイ紛争では一振りで約千体の魔族の首を切り落としたと噂されている。
……つまりだ。もはや戦略兵器であって個人に使うものではないと思われるんですが――ッ!!
「お兄ちゃん。明日の晩御飯何がいい? ハンバーグ? それともコロッケ? あ、お兄ちゃんグラタン好きだったよねえ。ようし今日はお兄ちゃんが褒めてくれたから大好物を振る舞うね」
「って、なに悠長に晩御飯のメニュー考えてんだ! このままだったら俺らが晩御飯用のひき肉にされちまうんだよ!!」
「え? そうなの~? でもお兄ちゃんと一緒にひき肉になるって、それはつまり……」
ハルはポッと頬を染めて。
「永遠の一体化……? ふえ……そんなの恥ずかしいよぉ!」
何こいつは一人で気持ち悪い妄想膨らましやがってんですかぁ!
とにかくヤバイ。このままだとここら一体が更地に帰るぞ。もはや逃げるしか手はないだろ、常識的に考えて。