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2 バハムート≠ヤンデレ妹

3 呼んだ? お兄ちゃん


 月がきれいだ。

 俺は頭上に浮かぶ二つの月を眺めながら街道を駆け抜けていく。

 今日は魔力マナの流れも穏やかであり、魔族が生み出される様子もない。月に一度の安らかな夜というわけだ。

 だというのにそんな魔族を恐れて家から出ないのはもったいないことだ。俺は静まり返った街を眺めながらそう思った。

 ここ、ソウラン王国周辺は魔力濃度が不安定かつ周辺には強力な魔族が多く存在するA級危険地区と指定されている。そのため夜になると魔力の調和が乱れ魔族が活性化するのだが、今日に限っては魔力が変調をきたさない双月の日(ダブルムーン)なのだ。

 まあ俺にとっては人はいないほうがいろいろ好都合なわけだが。


「まて!! この盗賊が!!」

「ちっ! もう追いついてきやがったか!」


 そう、逃げるには持ってこいの好都合というわけだ。

 俺の後方30メートル。そこには仰々しい甲冑を纏った騎士達が追いかけてきていた。

 全く、野郎に追いかけられても嬉しくないっつのに。


「貴様! その魔制盤を返せ! それはお前に扱いきれるものではない!」

「勝手に決め付けんな! 俺様の可能性は無限大なんだよッ」


 あいつらが追い、俺が追われる理由。

 それもこれも全てはこの石盤が深く関わってきている。

 王国の中心にそびえる王城の地下深くにこれは眠っていた。俺は立入禁止区画の先でそれを見つけたわけだが、それがバレて、こうして追われているのが現状。

 もちろん『おっ、なんかいいのあんじゃん。ラッキー』みたいな感覚で盗み出したわけじゃないぞ。ちゃんとこれが何なのか、その意義も意味も知っている。


 気が遠くなるほどの昔、この世界に一匹の漆黒の龍が降り立った。龍はその黒炎で数々の大国を飲み込み滅ぼしていった。そして何百年もの戦いを経てその龍は魔制盤と呼ばれる強力な封印石に閉じ込められたというわけだ。そしてその魔制盤というのが今俺が手に持ってるこの石盤。

 え、なんのために持ちだしたかって? そりゃ決まってるだろ。封印を解いてこの世界を支配するためだ。一度魔制石および魔制盤に封印された魔獣は次にそこから封印を解かれた時、その解いた者に絶対従属の契約が結ばれるのだ。

 だがこの魔制盤に収められた災龍は人の手に負えるものではないと、封印は守られ続けたままだったのだ。


 そう考えれば国がここまで躍起になって追うのもわかる気がする。俺はすでにこの国でのお尋ね者だ。

 俺だけではない。盗みを手伝った仲間たちも。あいつらちゃんと逃げ切ったんだろうな。


「!!」


 俺が角を曲がるとその先にはすでに三人の騎士が待ち構えていた。

 その一人は騎士団長、ヘーゲル。この王都では名前を知らないものはいないほどの有名人だ。竜殺しの一族であり、その力量から人間を相手取ったら髪の毛一つ残せないと豪語するほどだ。無論、それが過大表現ではないことは彼のあげた功績から証明されている。


「貴様。何が目的だ。魔族のものではないようだが」


 ヘーゲルが神妙な面持ちで訪ねてきた。

 だから俺はこう答えてやる。


「俺の名はアレン・ロクス。いずれこの世を征服する男だ。覚えておけ」

「ロクス……か。フッ、落ちこぼれの血筋は所詮落ちこぼれか。しかし本当に落ちたものだな。かつては王直属の召喚士だった家柄もこんなならず者を生み出すとは」

「へっ! 国の犬に成り下がるよりも自由に羽ばたく鳥になれってね」

「言いたいことはそれだけか? なら悔いなく死ね」


 気がつけばヘーゲル率いる騎士たちが俺を取り囲んでいる。これは少しばかりまずいかも。


「ま、まぁ待てよ」


 まだ時間を稼がなくては。俺は適当に話題を作り出す。


「あんたらもこの国に不満があるんじゃねえか?」

「そんなものはない」


 即答。しかし言葉には陰りが見えた。嘘をついてる証拠だ。


「本当か? 王国の近辺ばかり守りを固めている王に忠誠が誓えてんのか? そのせいで少し離れた外部居住区は幾度と無く魔族の侵入を許し、民は殺されていっているというのに」

「騎士として王に仕えるのは当然。そもそも外部居住区に住む者などはなから人間とは認めていない」


 さも当然のようにヘーゲルは言い放った。素で言ってんならまじでムカつくなこいつ。


 正義のもとで動く騎士団が身分格差による差別を認めるって言うならやはりこの国は――いや、こんな世界自体が腐ってる。やはり俺がこの世界を征服してこの支配体制も魔族の進行も全部まとめてぶっ壊してやらないと。

 そのために欲した力が今ここにあるのだから。


「そうかよ……! ならやっぱりこれしかねえよなぁ!」


 俺の掴む石盤が薄緑の光をまとい始めた。

 時間稼ぎしたかいあって召喚準備は完了。あとはその名を呼ぶだけだ。


「血の盟約に基づき、我アレン・ロクスが命じる」

「なっ! この短時間で召喚準備を完了しただと!? 腐っても召喚士を継いでるだけはあるということか! やれ! 止めるんだ」


 騎士たちが一斉に襲いかかってきた。

 が、俺を中心として地面には紅の魔法陣が刻まれその吹き出した魔力の流れだけで騎士たちを吹き飛ばす。


「漆黒の翼、怒れる双眸、全ての鎖を解き放て!! 災龍、バハムートオオオオオオオオオオオ」


 強烈な光が周囲を包み込む。世界が白塗りされたように視界から全てが消え去った。

 そしてその光が晴れていくと俺の前には何かの存在が。

 やったぞ! 成功した! 俺はバハムートの召喚に――――


「オオオオオオッ――――……おッ?」

「呼んだ、お兄ちゃん?」


 ――――って誰だこいつはアアア!?


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