1 ヤンデレ転生
次元の狭間、それはどの世界と繋がっていていながら、どの世界にも属さない場所だ。
白く淀んだ景色が延々と続く退屈な世界で私はただ佇み続けている。次元を掌握し、全ての世界をつなぐ架け橋。ある世界では私のことを次元神と呼ぶ。
「あれま、ここに客人なんて珍しいね」
そんな私の前に一人の少女がいる。ここに来たということはファンタジーな世界では封印されて送り込まれた、SFな世界では次元転送装置から転送されたなどだが、その装いからするにどちらの世界にも属さない平凡な世界の住人のようだ。
すると答えは一つに限られる。
「転生……か」
転生。
それは執念や後悔を抱いて死んだ者が死の世界へと向かわずここに来ることだ。
私はその執念を評価し別の世界へと送り出す、望むのならその世界を征服するだけの力もおまけして。
「あれ……ここどこ? お兄ちゃんは?」
「やあ少女。ここは次元の狭間。よく来たな」
「あっ。もしかして天国かなあ? どうしよぉ……本当に一人だけで来ちゃったよ……」
「私は次元神。ここに来たということは貴様、生をやり直したいんだろ? その望み叶えてやるぞ」
「お兄ちゃん……ああ、お兄ちゃん。ハル、寂しいよぉ」
「って、話をきかんかい!!」
ここまで無視されたのは初めてだ。というかこいつさっきから兄兄兄と壊れた蓄音機みたいに連呼しているが大丈夫か? なんか手に包丁持ってるし。
「あ、おばさん誰? 天国の……神様?」
「おばさん言うな。こう見えてまだたったの5摩訶不思議歳だ。まあ神というのは間違いではない」
「本当!? なら私を生き返らせてくれる!?」
いきなり明るくなった。情緒不安定すぎるだろこの小娘。
「ああできるぞ。しかし別の世界で、だがな」
「はぁ!? そんなんじゃ意味無いじゃん……お兄ちゃんがいない世界なんてゴミほどの価値もないよ。滅んだほうがマシだよ」
と思ったら、今度はキレ気味の様子。まったく平凡な世界かと思っていたがこんな狂人を持っていたとは、なかなか面白いじゃないか。
「仕方ないだろ、それがルールなんだから」
「許さない、私とお兄ちゃんの絆を引き離そうなんてのは。そんなことするなら神様でも殺してみせる」
「そうかっかするなって。世界は無数にあるんだ。どこかでお兄ちゃん似の奴がいるかもしれんぞ……っと、コールだ。今日は忙しいな全く」
どこかの世界でこの次元の狭間に干渉する輩がいる。
その世界とつなぐべく魔境ワールドコネクターに投影してみれば、そこには一人の召喚士が映し出されていた。
「ほお、最強のサーヴァントの召還をリクエストか。了解了解」
その召喚士は遠い昔にここに封印された魔獣を精霊として呼びだそうとしていた。
一瞬にして一国を漆黒の炎に包み込み、世界を震撼させた災龍、バハムート。 あんなもの私にとってはペット同然だが、たかが召喚士、しかもいかにもなりたての者に扱いきれるシロモノではないと思うのだが。
「まあいい。どの道面白くなりそうだ。来な、バハムート。及びがかかったぞ」
「あ、お兄ちゃんだ!!」
いきなり変なことを言い出す女だ。いま干渉してきている世界は魔法が普及しているファンタジーな世界、お前がいた平凡な世界とは違う。
「おい邪魔だ。異世界へと通じるゲートの前に立つな」
「ここを通ればお兄ちゃんに会えるのね……待ってて、お兄ちゃん」
バハムートを送り出すゲートに何故か女が立つ。こいつ通る気まんまんだぞ、おい。
『我を呼ぶか。久しいな次元神』
「あ、やっぱいいよ。戻りなハバムート」
『な……我を召喚しようとする者がいる。我はそれに』
「ああ、大丈夫大丈夫かわりにあの子が行くから」
えぇ……と何か言い淀むバハムートだが無理くりにもとの場所へと押し戻した。そんな寂しげな顔をするな。災龍の名が泣くぞ。
お前が行くよりもあの女に力を与えて送り出す方が面白そうなのだ。お前だってまたほんのちょっぴり待てば必ず出番が来るさ。知らんけど。
「そんなに行きたきゃ言っていいぞ。いわゆるチートな力もおまけしといた」
「お兄ちゃん……ああ、お兄ちゃん」
「って、聞いてねえし。まあいいやさっさといきな。二度とくるんじゃないぞ」
そうしてその小娘は異界のゲートをくぐって消えていった。
しかし想像するだけで笑えてくる。
最強の精霊を呼んだつもりが、性格に難ありの女がでてくるのだから。
「少しばかり興味がでてきた。しばらくこの世界を追ってみるか。退屈しのぎにはなるだろう」