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ハッピー⁈ジェラシー⁈

作者: 一宮 凪

「その手帳、どこで買ったの?いいですね。」

「本屋さんです。」

「へー、どこの?」

「中央通りのレンタル屋さんがある……」


とある日の何気ないオフィスでの会話。隣同士の席に座る20代の男女。


アラフォーの私からしたら、どーでもいい若者同士の世間話。くだらないなぁ。お前らまだ学生気分が抜けてないのか?


向かいに座る2人のやりとりを見た、私の隣に座るアラフォー男子が、イタズラを思いついた子どものような表情で、私の肘をつついてくる。


「なぁ。見て。前の2人、絶対デキてるよな?」

出た。ここにも平和な学生がいたのを忘れてた。

でも、曲がりなりにもこの人は私の上司。機嫌を損ねない程度に悪ノリに乗っかっておく。

「あ、ホントですね。なんだかいい雰囲気。あまり意識させないで下さいよ。恥ずかしくって、こちらが顔を上げられなくなるじゃないですか。」

さりげなく交わして話を変えるつもりだったのに、期待値に届かない私のリアクションだったせいか、

「イヤイヤ。ここはちゃんと見といてよ。今度の飲み会で真実を追求しようよ。」


面倒なことになったなぁ。まぁ、いいか。飲み会になったら気分も事実もちょっと盛って、上司の意に沿うまで乗っていこう。



私がもし、君を好きじゃなかったら、この気持ちだけで済んだのに。

何なら、飲み会当日、上司以上に悪ノリして、意地悪なくらい盛り上げて、からかって、いじって、楽しんで終われたのに。


上司以上に面倒な、自分のこの気持ち。


ホント、仲良いよなぁ。前にも聞いたけど、本当に彼女とは何もないんだろうか。

本人に自覚がないからダメなんだけど、正直、疑われても仕方ない事してるよ。

それでも噂が立つのが嫌なんて虫がよすぎる。


見てる人は、見てるんだから……


君の言葉だけを信じたいけど、何もないと言われても、やっぱり2人の様子を目の前にしてしまうと、マイナスな妄想が膨らむ。

嫌なシーン、自分がマイナスに感じるシーンは見ないに限りますよ。と、どこかの恋愛アドバイザーが書いた本の中にあるセリフを思い出し、私は倉庫整理の作業へ向かった。


私の嫉妬心は、多分、他の人より厄介で、苦しくて、重い。ちょっとの嫉妬なら可愛いけど、嫉妬し過ぎると丸焦げになっちゃうよ。と言われたら、私は炭になる寸前の魚だと思う。


自分でもコントロールしようがない。

嫉妬心で人1人殺せるんじゃないかと思うほど。

夜の屋上に出て、1人夜景を眺めて、気持ちを落ち着かせる。北方向には、隣町の大きな工場夜景が見える。

春になったら、彼は隣町の部署へ異動してしまう。


ぼんやり夜景を見つめながら、嫉妬する自分が、自分でも実は一番嫌いなところで、できれば死ぬまで誰にも見せたくない一面なんだ。と思い知る。

自他共に認める男っぽいところが多い私。


私が男だったら、今の自分みたいな嫉妬心の強い女なんて大嫌いだ。一番面倒なタイプ。遊びでも付き合いたくない。

ちょっとでも嫉妬をみせようなら、一気に面倒になって、恋愛ハンター精神が削がれる。


そんな、テンション下がるような相手には関わりたくもない。


恋愛なんて楽しいのが一番。少しでもいいと思ったら、私はすぐ何でも取りに行く。嫌なこと、辛いことが少しでもあったら、アッサリ諦める。

しんどさを乗り越えて、誰かと何かを積み上げる、信頼関係をつくりあげるってどういうこと?

今までの私の人生にはないこと。


意味がわからない。

やったことがないから。


そんな、今までの手段が一切通用しないのが今、片思いしてる人。

過去に好きになったタイプとは真逆すぎて、どう落としていいのかわからない。


スピード勝負、直感第一の私が、よくこんなに、コツコツと、淡々と攻めているのが信じられないくらい。


自分の嫌なところとこんなに向き合う経験も初めてだ。初めて自分を知った気がした。


嫉妬心と焦りから、私は次のデートで告白することに決めた。


彼が誰を選ぶかは知らない。でも、私の気持ちを知らないまま、他の人と付き合うことを選んでしまうのは嫌。

私は、私で勝負しないと。


デートの最後で、書いてきた手紙を渡した。友達に添削してもらい、3回は書き直した。


まだ私の気持ちと、彼の気持ちに温度差があるから、重すぎないように。でも真意は伝わるように。


照れ隠しで、彼の好きなフィギュアと一緒に、君にとって、オマケは手紙だよね。ってサラリと渡した。

渡す前に約束をした。

「これを読んでも、職場での態度は変えないでほしいこと。」

「月曜日は、気まずいからといって絶対に休むことなく、ちゃんと出勤すること。」


君は何かを察したような笑顔をした。



そこで、人生初の出来事が起きた。


「この手紙、今読んでもいいですか。」

「え??まぁ、これを家で読んで、月曜日会うのは緊張しちゃうだろうから、今読んで、すぐに顔を見るのはいいかも。」


好きな人に、目の前で、渡したばかりの手紙を読まれた。

手紙って普通、家で読むものじゃないの?


ある意味、服を脱ぐより、恥ずかしかった。

心の中を見られてる気がした。


嘘がつけない、隠せない。この気持ちしかないから。

服を脱いだって、本音を隠してても喜んでくれる男はたくさんいる。

本心を見せなくても、喜んでくれる男はたくさんいた。

でも、男の人が私が一生懸命書いた手紙をどんな表情で読むのかわかってよかった。とっても真剣な顔だった。3回も書き直してよかったなぁ。って思った。



意を決した告白から一ヶ月後。彼のいない職場の飲み会に初めて参加した。

そこで知った、本当のこと。

彼女は、新卒で今の職場に入ったにも関わらず、遠慮なく自分の我を通すことが多く、裏ではかなりの厄介者扱いされていたということ。そんな彼女が唯一、心を開いていたであろう相手が彼で、それに気づいた周りが、からからいのノリで、彼と彼女をくっつけようと噂していたこと。

何なら彼も半分くらいからからいの的になりかけてたこと。

彼は全て知っていて、事を荒立てず、何もないことの証拠として堂々と彼女と接してたということ。


真実が見えていなかった私の完全な負けだった。彼の方が何倍もオトナで、目先に捉われた私の方がずっとコドモだった。


「この前、職場の飲み会行ったよ。」

「どうだった?みんな、相変わらずっぽいなぁ。想像つくわぁ笑。」

「あなたの気持ちが、今になってやっとわかった。」

「何?どういうこと?」

「なんでもない。あなたなりに大変だったのね。ってこと」

「???」

「気にしないで。あなたのこと、前より好きになっただけだから。」

「……どういうこと?」

「だーい好き」

「またそういうこと言って……慣れない笑。急に言われても恥ずかしいわ笑。」


あの日の焦りと嫉妬心があったから、私は今、幸せになれた。


嫉妬心が私を幸せにするきっかけになってくれた。


こんな嫉妬心だったら、悪くないね。


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