円卓と転生
切実に続けたい
昔昔、あるところに生まれたとある少女の話をしよう。
その少女はどこにでもいる普通の生まれで、普通に育った。少し周りと違うところがあるとすれば、彼女は人に嫌われやすかった。
彼女が悪いわけではないのだ。
ただ、見た目と性格のアンバランスさが他人から反感を買っただけ。それでも、彼女は誰かに悪さをするような人間ではなかったし、どちらかといえば優しい部類の人間だった。優しくも歪んでしまった彼女。それは人からの反感を加速させていった。
それでも、彼女は自殺をするようなタイプではなかったと断言しよう。
そんな、どこにでもいるような少し普通じゃない普通の私はいったいどこでエンド分岐を間違えたのだろうか。
気がつくとそこは広間だった。自分を囲うように円卓があり、13人の誰かがじっと見据えている。
「ーー…むか」
少し聞こえづらくて私は聞き返した。
「新たな命を望むか」
今度は確に聞こえた。声の主は恐らく目の前の人。周りと比べて位の高そうな威厳のある雰囲気だ。
新たな命?それは一体何なのだろうか。私には皆目検討もつかなかった。
「やっぱやめよーぜ?こんなこと。こいつだってきっと望んでないって!穏やかに天国行った方が幸せだよ!」
机を強く叩きつける音と共に右斜めやや後ろに座っていた1人が立ち上がる。
天国という単語が意味するのは、私が既に死んでいるという事実。それにしては、死んだ時の記憶が一切ない。もしも悲惨な死に方だったのなら思い出したくはないのだが。
「ダメだよ?彼女の意思を覆すのはいけないこと。」
次に声を発したのはさっきの人の丁度反対側の人。辛うじてその人が長い髪だということは視認できる。
「でーもよー?やっぱ俺らのことに人間を使うのもなー…」
「ですがっ、彼女の意思は私たちの意思、です?よ!」
反論した人に、高めの声の人が反論した。
彼女、とは一体誰のことなのだろうか。とりあえず、人である私の意思ではないことは確かなはずだ。その証拠に、聞いてきたのは初めだけであとは周りの13人によって話が進んでいるからだ。
だが、迂闊に声を上げてこの正体もわからない人達の怒りを買いたくはない。
「静まれ。皆よ」
その言葉に一同全員黙り、言葉を発した人物に目をやる。
目の前の威厳溢れるこの人は、他の12人を見渡したあと、私を見た。
「……っ」
「今一度問おう。新たな命を望むか、滅びを待つか」
「えっ……と」
「貴女はこのままでいると、魂ごと滅びます。」
「えっ……」
「なので、新たな体を手に入れて新たな世界で人として暮らしますか?と聞いています」
さっきから何の話だとぼんやりとしていたが、髪の長い人が説明してくれたおかげで何とか聞きたいことは分かった。
けれど、その新しい世界に私が行くことでなんのメリットが彼らにあるのだろうか。せめて、必要最低限は聞きたい。
「お前は別に俺らのことなんて考えずに、剣と魔法の世界で満喫してればいいんじゃね?それだけでこっちも助かるし!」
私の考えを筒抜けに聞かれたように、彼は答えた。顔が見えづらいのが残念なほど、笑顔が似合いそうな声をしている。
「……それなら、私は生きたい、です」
「そうか…」
威厳のある人は一言そう答えると、みな始めるぞと声をかけた。それに応えるように13人全員が手を私に伸ばした。何が起こるのか、不安しかない胸の冷たい高鳴りが部屋中を埋めつくしているように錯覚するほどうるさくなる。
次の瞬間、その不安の高鳴りは心臓を強く握りしめる痛みによって止められた。
「うっ…!く……っ!」
その痛みは強さを増し、声を失い、体の自由を奪った。
少女の歴史は覆された。
歪んだ彼女はまどろみの中声を聞く。
あたたかく、慈愛に満ちた声。揺蕩うここには、私一人しかいないはずなのに、声が聞こえるたびに独りじゃないと思わされた。
ここにずっといられたら、どんなに幸せなことか。何も知らず、苦しみも知らず、幸福な世界。そう思うほどだった。
それは突然に終わりを告げたが。
月日は流れ、私は5歳となり人生の一つ目の節目を迎えた。
生まれた頃はか弱く小さかった私も、ついに社交場に出なきてはならない立場になってしまった。そう、両親の交流相手の把握と私の婚約者探しのために。
流石に剣と魔法の世界と神が言っただけはある。全てが中世のヨーロッパのような感じだ。国の名前はユスフィーリア国。花の名前とかにありそうな優しい名前な気がする。文字は残念ながら私が元々持っていた知識のものとは違うらしい。常識も元の世界と同じのものもあればこの世界特有のものもある。中々どうにも覚えるのに苦労しそうだ。けれど、立場は中々のようで、家は広いし使用人の人たちもたくさんいた。
「さあ、ノルンお嬢様。お出かけの準備をいたしましょうね」
「はい、わかりました」
元々教養は記憶のこともあり最低限はある。だから、プラスで歴史の授業を受けている気分だった。それもあり、新しい発見が面白くてどんどんやっていくうちに先生からはよく褒められる。
「ノルン様は大変賢くあらせますね。将来はどの令嬢も羨むような方に育ちそうです!」
「そんなことは、ございません」
子どもらしく振る舞いたくても、プレッシャーがある。先生は特に研究心も相まって、大人っぽい私にかなりの期待をかけているのだろう。大人しく、純粋に、誇りを持たなければいけない。そんな気持ちにさせてくる。とても息苦しいと思った。
今日も自室で先生と二人きりの歴史の授業だ。知識を身につけることは、魔法から身を守る基礎にもなるとこの世界では小さい頃から学ばされるらしい。
「ー…として、世界には妖精と魔力によって世界の均等は保たれているのです。ノルン様?何か分からないところはありましたか?」
「…え?あ、いえ…すみません。少しぼうっとしてしまったようです」
「そうですか。では、優秀なノルン様には特別に休息のレッスンをいたしましょう」
先生はそう言って開いてあった本を閉じた。
「えっ…でも」
「いいのですよ。ノルン様は本来の授業速度よりかなり早く吸収しています。時には必要な休息もありますよ」
そう笑顔で言われると、なんとなく断りづらかった。私は頷いて先生について行った。
これが、運命の始まりとも知らずに。
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