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エーテルの精霊使い  作者: 久遠由純
修行開始
4/9

2

 コウモリの翼を持った蛇は、エリドゥラ学園を引き返してアンリヘイム学園まで戻って行った。

 アンリヘイム学園は対抗試合の行われる闘技場を挟んで、ちょうどエリドゥラ学園の対面に位置している。その昔、神話時代にエル・ダーナ神とエムリス神が対峙した時のように。

 アンリヘイム学園もエリドゥラ学園と同様に、広い敷地に城のような校舎と凝った建築の寮があった。校舎は何本も尖った屋根を持ち、その一つの屋根付近に開いた窓に、飛ぶ蛇は降りて行った。


 中では生徒と思しき4人が集まって何やら話していたようだ。

 屋根裏部屋は小さく、テーブルと人数分の椅子しかない。秘密の話やらをするのにはおあつらえの場所である。4人は皆キョウヤ達とそっくりなつば広のとんがり帽子とマントと手袋を着けていたが、深い緋色だった。それがアンリヘイムの象徴する色なのだ。

 蛇が室内に入って来ると、一人の男子生徒が立ち上がり手を差し伸べる。彼はエムリス側の『異獣使い(エネミーマスター)』だ。

 彼の腕に体を巻きつけ止まる蛇。蛇は1mほどあり、巻きつくのに余った尻尾がだらりと垂れていた。

「お帰り、フィーリン。どうだった?」

 男子生徒は自分の蛇と額同士をくっつけ、小さく口式(こうしき)を唱える。

 しばらくそうしてから額を離し、フィーリンと呼んだ蛇を管の中に戻した。

「何か分かったか?」

 椅子に座ってその様子を見ていた男子生徒が声を発した。

 態度からして4人のリーダーらしい。帽子からのぞく髪は金髪で、薄目の眉と少々つり上がった目がキツめの印象だが、整った顔立ちだ。

 彼がリドリール=ガシュワイだった。

 ライバル視しているキュリアと同じ『召喚師(サマナー)』であり、生徒会長でもある。そして一ヶ月後の対抗試合のアンリヘイム学園代表メンバーの一人だ。

 他の3人も試合に参加するメンバーである。

「ダメでした。結界があったようで、フィーリンは何も見ていません」

「向こうもそれだけ用心しているということか」

 異獣使いの報告にさして残念がるわけでもないリドリールが言うと、向かいに座っている女子生徒が口をはさんだ。彼女は『練気術師クラディインバスターレ』で、法陣と口式で人の気を操り怪我を治したり、逆に死に至らしめることもできる。

「でも、あたしが掴んだ情報では、キョウヤ=イシュバラというのはかなりの落ちこぼれみたいだけど?」

 それを聞いたリドリールは、彼女を馬鹿にしたような目で見る。

「対抗試合にわざわざ落ちこぼれを選ぶ馬鹿がどこにいる? 向こうがわざと負けたがっているとでも言うのか? 学園の、ひいては神術の名誉がかかっている試合に、そんなことをする意味などないだろう!」

「それは……、まあそうだけど」

 リドリールの厳しい物言いに、女生徒はたちまちしゅんとなってしまった。

 でも、と異獣使いの生徒も言う。

「向こうは3試合連続で勝ってるから油断してるのかも。一人くらいダメな奴がいても大丈夫だと思ってるかもしれませんよ」

「そうか。つまりお前は、オレ達があいつらの相手にもならない無力な式使いだと、そう言うんだな?」

「い、いえ、僕がじゃなくて、向こうがそう思っているんじゃないかなーと……」

「お前も馬鹿か。向こうにはキュリアがいるんだぞ? この対抗試合を軽視してる訳がないし、教師どもだってそこまで馬鹿みたく楽観視してる人間がいるとも思えん」

 じろりとリドリールに睨まれて、異獣使いの生徒も椅子に縮こまってしまった。

「『落ちこぼれ』などというのはこちらを油断させるための罠に違いない。キョウヤには何かしら特別な能力があると思った方がいいかもしれんな。お前達も気を抜かないで、試合まで特訓を怠るなよ! 今年こそは絶対に我がアンリヘイム学園が勝利を収め、聖杯を手に入れるのだ!」

「聖杯が手に入れば、今後永久的にエムリス側がエル・ダーナ側より優位に立てるってことだな」

 最後のメンバーの男子生徒がニヤリと笑った。

 彼は『操門師(ゲートキーパー)』だ。符と口式で、別の場所に通じる門を開閉できる。高レベルになれば異界への門も例外ではない。

「試合に勝つことが一番いい。今はそれに集中しろ!」

 リドリールの言葉に、全員が表情を引き締めてうなずいた。



「そもそも、お前ら『精霊使い(エレメンタラー)』はどうやって契約する精霊を選ぶ?」

 キョウヤの職を理解しようと、ディディオが尋ねた。

「えっと……自分のインスピレーションが一番ですね。それから力量や精霊との相性なんかをみて決めます」

「あなたはどの精霊とも相性が悪かったの?」

 と聞いたのはグネヴィエラだ。

「悪いわけじゃないと思うんですけど……、一番付等具(フラグ)が簡単なはずの玩具の精霊でもダメでした」

 ディディオもグネヴィエラもお互いに複雑な表情を見合わせる。

「玩具の精霊ってのは子供にしか契約できないって精霊じゃなかったっけ? 確かにお前見た目はガキだけどよー、もうちょっと使えそうな精霊にしろよ。もっとこう、強そうなモンはねぇのか? どういう物になら精霊っているんだ?」

 もどかしそうなジェスチャーをするディディオ。

 キョウヤも自分の不甲斐なさに申し訳なく思いながら、日頃の勉強で学んだ知識を先輩に披露する。

「基本何にでも精霊は宿っているというのが、『精霊使い』の概念です。水や炎、大地といった生命エネルギーが精霊の形を取ることもありますし、使い込んだ道具や、誰かがとても大事にしていた人形なんかには人の強い想いがこもってますよね。そういうのが精霊になることもあります。だから世の中にある何にでも、精霊はいるんです」

「はあ~、そういうモンか」

「確か、四大精霊というのがいたと思うが」

 キュリアが言うと、キョウヤははい、とすぐに説明を始めた。

地の精霊(アルセイデス)水の精霊(ネレイデス)火の精霊(サラマンデス)風の精霊(シルフェイデス)のことですね」

 ちなみに、キョウヤのクラスの教師ジャルジュ先生は火の精霊の次にランクの高い『光の精霊使い』である。

「世界の全ては地水火風の四大元素でできています。四大元素の精霊が一番力が強い精霊なんです。精霊使いでも最高レベルの式使いにしか契約できません。他の精霊はみんなその四大元素のどれかに属していて、それぞれランクがあります。上のランクの精霊は下のランクの精霊に影響を与えることができます」

「影響?」

「はい。ええと、例えば、僕の友達のケミーは鉄の精霊使いなんですけど、彼は鉄の釘を鉄球に形を変えたりできます。基本的には他の精霊使いでは鉄球を元の釘に戻すことはできないんですが、鉄の精霊は同じ属性の黄玉の精霊よりランクが低いので、黄玉の精霊使いは鉄球を釘に戻したり、もっと違う形に変えたりということが可能なんです」

「なるほど。それじゃ、鉄や黄玉の精霊の最高ランクの精霊使いは……」

 キュリアの理解してきた表情を見て、キョウヤはうなずく。

「ええ、鉄と黄玉の一番上は、四大元素の地の精霊です。だから地の精霊使いはそれに属する鉄や黄玉の精霊使いが行使した術を何であれ無効にしたり、書き換えたりすることができるんですよ」

「そういうことか、なるほど。しっかし、それぞれの精霊の属性を覚えるだけでも大変そうだな」

 分かりやすい説明だったので、ディディオも容易に理解できた。

「ですが、四大精霊より上の存在があるんです」

「え?」

 三人が興味を惹かれてキョウヤを見る。

「それは『エーテルの精霊使い』です」

「エーテル?」

 聞き慣れない単語に、キュリアは聞き返した。

「エーテルとは、世界を構成する霊的な要素です。この宇宙にあるものは全て、霊的な意味ではエーテルでできてるんですよ。四大元素ももちろんそうです。ゆえにエーテルの精霊と契約できれば、世界の全てのものだけでなく宇宙の力をも操ることができるんです!」

「宇宙の力なんて……何だか途方もない話ね」

 話の大きさにびっくりして、グネヴィエラは目を見開いた。

「そりゃあ確かにすげぇが、初めて聞いたな、そんな精霊の話は」

 ディディオが信じられないとばかりに眉をひそめると、キョウヤは説明に慣れてきたのか饒舌になってきた。

「エーテルの精霊のことは今はほとんど伝わっていないみたいで、僕も父さんの集めていた本を読んで知りました。その本によれば、精霊というのは、エーテルの要素が強く顕れたものなんだそうです」

「そっか、精霊がいるってことはエーテルが多くを占めている。全ての要素は四大元素に関わらず『エーテルの属性』になる訳か。だからエーテルの精霊使いは全精霊を支配下に置けると」

「そうです!」

 自分の説明でディディオが理解してくれたことが嬉しくて、キョウヤは思わず大きめな声で言ってしまった。

「うーーん、『精霊使い』っていうのは、特殊な学問なんだな」

 キュリアが難しそうな顔で率直な感想を述べる。

「確かに、他の職の式使いから見たらそうかもしれませんね」

 言ってからキョウヤは、でもまあ、と決まり悪そうな笑みを見せた。

「エーテルの精霊と契約する儀式の口式や手順、術の口式とかは分かってないので……、実際に『エーテルの精霊使い』がいたのかどうかも不明なんですけどね」

「なんだ、そうなのか。それなのにそんなこと知ってるなんて、お前よっぽど勉強してるんだな~」

 ディディオはキョウヤの知識に感心するが、キュリアはあからさまに表には出していないものの、内心では若干考え込んでいた。

 『神術』は知識だけあってもダメだということだ。口式を使えなければ意味がない。

「精霊の仕組みは解ったが、とにかくキョウヤが何らかの精霊と契約できないことには何の力もないということは間違いないようだな」

「う、そうです……」

 キョウヤはがっくりと肩を落とし、下を向いてしまう。

「もう一度片っ端から契約してみるしかないだろ!」

 ディディオの提案は乱暴にも見えたが、結局キョウヤに残された手段はそれしかなかった。


 それから一週間、キョウヤはジャルジュ先生やキュリア達に手伝ってもらいながら、学園にある精霊使いの書物に載っている全ての、あらゆる精霊との契約儀式を試してみたが―――、一つとして成功しなかったのだった……。


「どういうことだよ!?」

 苛立たしげにディディオが頭を掻きながら言った。

 当のキョウヤは、法円の中で色々な付等具をその周りに散らばせて立ち尽くしている。

 キョウヤだって努力した。皆の期待に応えたいと、今までで一番努力した。どういうことなのか知りたいと思っているのはキョウヤだって同じだ。だが何も言えず、誰よりも傷ついた表情をして足元を見つめるしかできなかった。

 さすがにジャルジュ先生も唸っったまま何も言えなくなっているようだ。

「こんなことってあるんですか、先生?」

 グネヴィエラの質問に、ジャルジュ先生は言いにくそうに答えた。

「ああ……、これはもう、本人が精霊使いに向いてないということ以外、考えられない」

「けどよー、今更職を変えるとするだろ、そりゃ卒業までなら何とかなるだろうさ。だけど試合までにこいつが使い物になるとは限らないぜ」

「ま、待ってください!」

 ディディオの決めつけたような物言いに、キョウヤが反発した。

 いつものキョウヤとは違うあまりに強い口調だったので、皆は驚いてキョウヤに振り返る。

「僕は精霊使いを変える気はありません! 変えるしかないんだったら、僕は学園を辞めます!!」

「ええ!?」

「おい、キョウヤ!?」

 キョウヤは皆の顔も見ず、儀式の部屋を飛び出して行ってしまった。


 どこに行くかなんて分かるはずもないまま、キョウヤはがむしゃらに走った。

 ただ精霊使い以外の式使いになる気はないというだけの気持ちで。

 だけど、ジャルジュ先生の言う通りだ。

 こんなに何度もはっきり結果として出ていれば、いくらキョウヤだって充分すぎるほど分かる。


 向いてないんだ。


 不意にその事実が胸に突き刺さり、キョウヤは立ち止まった。

 そこは校舎の裏手の、夕日がよく見える場所だった。薬草や花を育てている花壇があり、小奇麗に整備されている。この時間はもう普通の生徒は下校しており、人気はなかった。

 キョウヤは校舎の壁に背を付けて座り込む。


 キョウヤの父は、『紙』の精霊使いだった。

 それ故か書物が好きで、ある日エーテルの精霊使いについて書いてある書物を手に入れて以来、世界中を旅しながらエーテルの精霊使いについての本を探していた。

 キョウヤも物心付いた時から父と旅をしており、エーテルの精霊使いの話を聞かされて育ったのだ。

 他の精霊使い達は父の話をただの伝説だと言って本気にしなかったが、父は諦めなかった。

 キョウヤはそんな父が好きだったし、旅も苦じゃなかった。いつか父がエーテルの精霊使いになるのだと信じて。

 だけど旅の途中、異獣に出くわしその夢はあっさりと潰える。

 異獣は凶暴で強かった。父の神術では倒すことができなかったのだ。自分では敵わないと悟った父は、術で紙の鳥を作り、幼いキョウヤを乗せて逃がした。キョウヤは父が後を追って来てくれると信じていたが、逃げ着いたた先でいくら待っても父は来てくれなかった。その後、父の死を知らない大人達に知らされたのだった。


 だからキョウヤは父の夢を引き継ぎたくて、エリドゥラ学園の門を叩き、自分も精霊使いになる道を選んだのだ。

 精霊使いになれないのなら、学園にいる意味もない。


 ぼんやりと沈みゆく夕日を眺めながら、明日からどうしよう、などと考えていると。

 キョウヤの目の前に淡く光る小さなものが寄って来た。

 よく見ると少女のような愛らしい姿をしている。

 精霊だ。

「キミは……桃雪花の精霊だね」

 そういえば、花壇に植えられている草花の中に桃雪花がある。

 キョウヤが話しかけると、精霊はそれに応えるかのようにふわふわとキョウヤの顔の前を飛ぶ。何かを訴えるかのように、手に乗ったり弧を描いたり。

「もしかして、慰めてくれてるの? ……ありがとう。そっか、桃雪花の花言葉は『優しさ』だ。精霊のキミも優しいんだね」

 キョウヤがにっこりすると精霊も光を明滅させて、うなずいているようだった。

「キョウヤ」

 キュリアの声が聞こえた。

 すると、桃雪花の精霊はすうっと姿を消してしまった。

 キョウヤは少し残念な思いを抱きながら、こわばった表情でキュリアを見上げる。

 怒られるのだろうか。

 でも怒られたところでこれ以上キョウヤに出来ることはない。出て行けと言われるならそれでもいい。

 悲しい気持ちと投げやりな気持ちが一緒くたになって、身構えた。

 が、キュリアの口から出た言葉はキョウヤの予想とは全く違うものだった。

「今のは、精霊だったんじゃないのか?」

「? はい、そうですけど……」

 キュリアは怒っている様子ではなく、キョウヤは少し気が抜けてしまった。

 それ以上に、なぜかキュリアは驚いているようで、どうしてそんなことを聞くのかキョウヤには解らない。

「桃雪花の精霊です。ほら、あそこの花壇に花がたくさん咲いてるでしょ?」 

 キュリアはキョウヤの指差した花壇を見、改めてキョウヤの周辺を見たりしている。

 何なんだろう? 何かおかしなことでもしただろうか?

 首を傾げるキョウヤ。

「儀式もなしで精霊と話を?」

「話ってほどじゃないです。それに、今の精霊は僕が喚んだんじゃなくて、精霊から現れたんです。精霊使いなら誰でも、よくあることですよ」

「今までにも何度か向こうから現れたことがあったりしたのか?」

「ええ、そうですね……。そういえば、僕が落ち込んでたり寂しかったりすると、現れてくれてたような気がします」

 どういう意図の質問なのか理解できないまま、キョウヤは答える。

 キュリアはキョウヤの答えを聞き、一人大きくうなずいて彼の隣に腰を下ろした。

「キョウヤ、キミはこれがどういうことなのか全く解っていないのか? いくら高レベルの精霊使いでも、儀式や口式もなしに精霊が現れるなんてことはないはずだ」

「え?」

 一瞬何を言われたのか理解できなくて、キョウヤは目を見開いてキュリアを見てしまった。

「まさか。そんなことないですよ。契約してる精霊なら儀式なんてしなくても、姿を見せることくらいできるはず……」

 キュリアは首を振る。

「でもキミは桃雪花の精霊と契約してないだろう? それでも花の精霊は姿を見せた。これはどういうことか」


 どういうこと?

 どういうことと言われても。儀式せずとも精霊と話すなんて、精霊使いなら普通のことだと思っていた。何かの精霊が自分の前に姿を現しても疑問に思ったことなんかなかった。


 キョウヤも驚きのあまり思考が追いつかない。

「キミはきっと、誰よりも精霊達に好かれてるんだ。つまり、精霊使いとしての才能は充分あるということじゃないか?」

「で、でも、それじゃあなんで契約できないんです!?」

「それは俺も専門家じゃないから分からない。けど、キミは何か普通の精霊使いとは違う能力があるのかもしれない。まずは儀式なしでも精霊を喚び出し、話すところから始めてみたらどうだ?」

「そんな、そんなこと」

 できるのか?

 キョウヤは混乱して、ちゃんと考えられない。そんなキョウヤを置いて、キュリアは一人話を進める。

「本当はキミとも一緒に特訓してメンバー間の連携を磨きたかったんだが、まさかキミがここまでとは思っていなかったからね。予想外に一週間キミに付き合ってきたが、俺達も本格的に試合に向けての特訓をしなければならない。明日からはジャルジュ先生か学園長がキミを見てくださるそうだ。夕食は毎日キミと一緒に取るようにするから、その時特訓の様子を報告してくれ」

 立ち上がりながらキュリアはそう告げた。

「え? でも、僕……」

 キョウヤはうろたえて何と答えればいいのか、言葉が出てこない。

 あんなふうにディディオに反発して出て来てしまったのに、まだ対抗試合メンバーだというのだろうか? 学園も辞めさせられる勢いだったのに。

「キミは『精霊使い』だ。職変えしなくていい。それに、試合のメンバーから外すつもりもない。特訓をしたくないならそれでもいいが、キミが何も習得できていなくても試合には出てもらうよ」

 にこりと微笑んだキュリアの顔が思いのほか優しかったので、キョウヤはぽかんとしてしまった。

「あ、それからディディオも怒ってないし、グネヴィエラも今言ったことに異議はないそうだ。それじゃ、また明日な、キョウヤ」

 キュリアはまだ頭の中を整理しているキョウヤを残し、颯爽と戻って行くのだった―――。


 それから試合当日に向けて、キョウヤ達4人はそれぞれの技を磨くため特訓を再開した。


 キュリアやグネヴィエラ、ディディオは新たな口式を使えるようになったり、連携攻撃の練習などもしていたみたいだった。

 けれどもそれに加われないキョウヤはといえば、結局特定の精霊とは契約できなかったものの、強く念じれば何がしかの精霊が姿を見せてくれる、ということができるようになったくらいだ。

 精霊が姿を現しても契約しているわけではないので、結局その力を行使することはできない。 

 つまり試合において役立たずなのは変わっていないということだ。

 上級生3人はキョウヤの特訓結果に『仕方ない』とは言いつつも、失望を完全に隠すことはできなかった。

 だけどキョウヤ以外の彼らは、トヨカの予言を信じているらしい。

 トヨカがキョウヤを外すと言わない限り、キョウヤが試合に出るのは確実のようだった。


 そして不安を抱えたまま、試合当日となった―――。



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