第三話:えくすたしーと俺
「ちょっとさあ……コレは無いよね? 人がさぁやっと本気出したのに、その出鼻を挫くとか無いよね! 挫くって言うか、骨、砕く気だったよね? 見てコレ! 鼻血が止まんないぃぃい!!!」
真っ暗闇の中、一人岩壁に向かってキレる鼻血ブー男。不審者とか言うなぁ!
人間はなあ〜、誰にも見られてないとこではフリーダムなんだよお!
っていうかホンットこの洞窟空気読めやー! 俺さあ〜、わざわざ回想までして『この洞窟にはなんかあるよね?』的な雰囲気を醸し出してたよね?
それが、まさかの壁。
壁ですよ。
財宝も鬼もゾンビも無く、壁。トラウマ植えつけるほどに期待させといて肩スカッシュもいいところ!
「はあ〜、帰るか……。」
『は? なぁ〜んにも見つけられなかったですって!? あんたの利用価値はミミズの鼻くそ以下ね!』
うう、弥生の暴言が耳に浮かぶぜ……。
ハァ。俺がため息をついたその時。
こつん
「ん?」
何か硬い物が腰に当たる。岩壁か? いやしかしなんだろう、妙にスルー出来ぬこの感じ。自然物にしては妙に直線的というか。
「何だ?」
岩壁からニュッと突き出たソレを、そっと握ってみる。
「んぎぎ」
引っ張ってみるも、びくともしない。が、
ひんやりとした棒状のソレは、吸い付くように俺の両手にすっぽりフィット。そして、あろうことか、鈍く発光。
「あぁっ……ナニコレ……!? 新種の蛍!? お兄ちゃんなんで蛍こんなに大きくて硬いんー? 違うよね、蛍じゃあないよね……うう、硬くて太っといモノがボクの手の中に入ってるぅぅ! あぁっ! 嘘ぉ……あ、あああん、だんだん熱くなってくよぉぉぉお……」
じんわりと発熱し出す謎の突起。
それどころか、全身に弱い電流が流れているような気がする。
ああ、全身を快感が……。
さすがに不気味になってきた。しかし、人間、湧き上がる好奇心からは決して逃れられないのである。未知なる物質を前に、思わず俺は手に力を込めてしまった。いや、力を込めるってゆーか、気がついたら渾身の力で引っ張ってた。もう、壁に片足かけて思いっきり。だって、気持ちいいからつい……
……何度も言うけどこれは未知へ探究であって、断じて俺は変態ではないぞ!
「ああ……ンギモチイイィィィ……あ、なんか、もうちょっと……もうちょっとで何かが解る気がしないこともないかも……」
ずぼっ
「あぼばっ!」
突然、突起が壁からすっぽりと抜けた。俺はしこたま尻で餅をついてしまった。
「痛だだだだだだだ!!! 尻割れるー!! あっ! もう割れてた! いだだだだだ!!! ……って、」
なんじゃこりゃああああぁあ!!!!!!
俺は、しっかと握り締めていた突起――であったモノを見て絶句した。
そう、突起は、突起ではなかったのだ。突起ごく一部分が、岩壁から控えめにコンニチハしていただけだったのだ。さながら、厳しい監視を掻い潜って社会の窓から世界を覗くブリーフの様に。
かくして全貌を現した謎の突起の正体、それは……
「……剣?」
そう、剣だった。シンプルながら気品の漂うフォルム。青銅色のボディ、いかにもそれっぽい宝石。言い訳しようも無いほどの剣だった。
「え? え?」
え? なにこれ、ヤマトタケルの遺産―!? よっしゃ、ノーベル賞は俺のもんじゃああああ!
だが、確認でけたのはそこまでだった。
ぱしゅんっ!!!
「うおっ!」
唐突に、剣からまばゆい光が発せられる。
えええええ。ナニこの剣、太陽拳の使い手!? うわっ! まぶしい! めっちゃまぶしい! 視界がホワイトアウト状態だよ!!
まばゆい光に洞窟は白く染まり、飛散し……
やがて、静寂の闇へと戻った。
「……おおぅ?」
おそるおそる目を開ける、
「NOOOOOOOOOOOOO!!!!」
世紀の大発見が消えてるううう!!! 跡形も無く消えてる!!! そう、剣は、跡形も無く消えていた。
「……お兄ちゃん……何で蛍消えてしまうん……?」
人生の無情を噛み締める暇も無く、次なる異変が。
ずごごごごごごごご……
え? え?
えっっと、真に僭越ながら洞窟さん、揺れてません!?
地響いちゃってません!?
なんかイライラしてます?
貧乏ゆすりとか、しちゃってません!?
落ち着け、こういう時こそ落ち着け俺。大自然の息吹を感じろ。
「あの、洞窟さん、ちょっと、頭冷やそうか……? もし、悩みとかあるなら相談乗……」
ずがごん!! がごおおおっ!!!
どうやら自然様のお怒りは俺の中途半端なお悩み相談室では静まらなかったらしい。
何故なら、俺が今立っていた地面が「ぱかっ」っと無くなってしまったのだ。
「ぎゃいやあああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!! 落ちるうううううう!!!!」
後にはぽっかり、黒い穴。