第二話:洞窟と俺。
ピチョーーーーーーーーーーーーーーン
細いライトの明かりを頼りに、途中、岩壁にぶつかったりコウモリの攻撃を受けたりしながらも、なんとかかんとか不気味に深い洞窟をよろよろと進む健気な俺。
なんだかだいぶん奥まで来てしまった。
「うう……さっきは、ああ言った、けれども」
洞窟、チョーこえぇぇぇぇ
洞窟、マジパねぇーこえぇーーーーーーー!!
「ホント、こんな所に洞窟とか、しかも思ったより深いとか……自然の人格疑うわー。自然空気読めやー……うう……暗いぃ……」
不気味に続く洞窟に、先ほどの俺の威勢はしおしおのパーに萎びていた。
ほのかに香るは苔の匂い。さっき踏み砕いてしまった謎の物体がガイコツとかじゃありませんように!
っていうか洞窟長えー!
もう三十分くらい歩いたよね!?
もうちょこっとだけ続くのじゃとか言っといてたっぷり三十巻続いた某漫画なみに長い。もうここらで終わっとかね!? マジ、終わっとかない!? 何処まで続くのこの洞窟!?
自然の奥深さの前に俺涙目!
「大体ねえ〜、こんな裏山の洞窟の、奥まで入ったって何があるってワケでも無いでしょうにぃ。そらぁ、何だかむぉうれつにイワク有り気ではありますがぁ……うん?」
不意に蘇った遠い記憶が、脳内ゲリラ上映会を開始。そう、あれは確かいじーちゃんと初めて裏山に行ったとき……
――こりゃ! コウよ、その洞窟に近づいてはいかん!
――ふぇー、なんで? じぃちゃん
――ふ。コレだから何で何で病のガキんちょは……この洞窟にはな、鬼が封じられておるのじゃよ。
――おにぃ―?
――そうじゃ、この洞窟には、ある言い伝えがあってな……。コホン――その昔、天から邪なる鬼来たりて、世に災いをもたらしたり。かの鬼が腕の一振りで、空は裂け大地よりは大水噴出し、鹿が空を舞ったそうな。
――ひいー! 鹿が空を!?
――いかにも。じゃがな、鬼降りたすぐのち、宙より聖なる光降りて、この邪鬼を打ち倒さん。人々、大いに喜び三日三晩踊り狂いたり。……そうして、鬼には超強力な鎮めの鎖が施され、この神社が建立されたのじゃよ。コウよ、決してあの洞窟に入ってはならんぞ、……入ったら最後、今でも復活のチャンスを虎視眈々と狙っている鬼に、まるっと頭から食われてしまうぞよ。
――ひいいいいん! まるっとこわいいぃぃー! ……まるっと?
――そうじゃ! まるっとじゃー! そして腹の中でツルッと溶けるのじゃー!
――うわぁぁぁああん! ツルッとこわいぃぃぃいっーー!
――ふぉーふぉー……。ええ声で泣きよるわぃ。
「……鬼……ね。……フッ」
幼かった。と、俺はホロ苦い思い出を噛み締める。
あの腐れドS爺の真っ赤な嘘を、まるっと丸ごと信じてしまうなんてあまりに無垢だった! 腐れジジイの恐怖話、特にツルッとのくんだりは、その後暫く俺を夜中トイレに行けない体にした。毎夜俺は苦しみ、そして洞窟の奥に眠るであろう鬼に思いを馳せた。
布団の中で泣きながらおもらした屈辱を、俺は忘れない。今まで忘れてたけど、これからはぜってー忘れない。あの頃、天使のように無垢だった俺をゴミ箱にスローイン!
「鬼とか居るわけないじゃなーーーーい! この科学の時代に!!! はっはっは。」
ピチョーーーーーーーーーン
「ひぎあっ! ごめんなさいごめんなさい!!」
って、水滴かよ!
おどかしやがって〜! このこのぉ〜! こんのコノコノコノコノ!
カコーン
「ぎゃっ」
って、な〜んだ木の枝かよ! 木の枝だよね!? なんか、ムンクの顔みたいな模様があるけど。
カサカサカサ……
何の音!? 何の音か判らない! まさか、ゴのつく六本足の原生生物!?
大丈夫大丈夫まだ大丈夫、大丈夫? うん大丈夫だ大丈夫大丈夫ないお化けなんてないさないさお化けなんてないさないさお化けなんて。こ、怖い時、怖いときはえぇーと手に……人人人人人。ゴクン!
イケる? うん余裕! コウ行きます!
「うおおおお! 俺はもう坊やじゃないんだぁああああ!!! 鬼がナンボのもんじゃぁああああああい!」
俺は猛烈発進した。
べしーーんっ
「ぐなっぷろ!」
行き止まりだった。