盗・賊・襲・撃
「ヒッヒッヒ!金目の物を置いてけ!さもなくば、命はねえぞ!」
盗賊を絵にかいたような、そのまんまの奴らが、俺達を取り囲んでこちらに刃を向ける。いや、盗賊というより山賊か、何かもっさいし。髭面で、首に毛皮の襟巻き付けてるとか、まさにそうじゃん。何でこんなことになったんだっけ…。
数十分前_
俺達は、楓の村を出発してしばらくして山を降り、平坦な道を進んでいた。そこはいわゆる1つの街道と言うやつで、そこそこ人通りもあった。久しぶりに人のいる道を通ったことで、俺達には油断があった。あろうことか、分かれ道で右と左を間違えたのだ。右へ行けば、そこそこ大きな町に着くところを、左に進んでしまったがために、完全なる山道に逆戻りしてしまったのである。
おかしいとは思ったんだ。進めば進むほど、上り坂になっていくんだもの。そこで引き返せばよかったものを、若さと勢いに任せて、突き進んだのもこれまたよくなかった。反省せねば…。
「おい、おい!聞いてんのかてめえ!金目の物を置いてけってのが、聞こえねえのか!」
「うるさいなぁ。キーキーわめくなよ、サルどもが。」
「何だと!てめえ、ぶっ殺されてえのか!」
山賊どもがいきり立つ。あ~あ、うっとうしい。殺生はあんまりしたくないんだよなぁ。
「今なら見逃してやるから、とっとと帰ってくれよ。こっちは、さっさと通りたいんだ。」
「グヌヌ…。野郎共!かかれェ!」
俺達を取り囲んでいた奴らが、一斉に斬りかかる。だが、その刃が俺達に届くことはなかった。
「ふっ!ハッ、ハッ!」
刃の切っ先を最小限の動きで躱しながら、鳩尾に鋭い一撃を決める。奴らは前につんのめり、もがいている。
「いてえ、いてえよぉ…。」
「勘弁してくれ、神様ァ…。」
なっさけねえ、最初からやらなきゃいいのに。俺は残った一人、号令をかけたリーダーに向き直る。
「さあて、お仲間はこうなっちゃいましたけど?まだやるってのかい?」
「くそッ、全員引け!お頭を呼ぶぞ!」
オマエがリーダーじゃないんかい!そう心の中でツッコミをいれている隙に、奴らは消えていた。まあいいさ、目障りな奴が消えてくれて清々した。奴らがお頭を連れてくる前に、さっさとトンズラしちまおう。
「はあーぁ、めんどくさかった。ああいう奴らを社会のゴミって言うんだ。やっぱ殺しときゃよかったかな。」
「司さん、最近言うことが過激になってきてません?力を手にいれて慢心するのは、阿呆のやることですよ?私は、司さんはそんな過ちを犯す人間ではないと、信じていますからね。」
紫織は、真面目な顔で俺を諭す。俺が道を踏み外しそうになったら、叱り飛ばして引き戻してくれる。非常に稀有な存在。だからこそ、一緒にいてほしい、そう思える。
しばらく歩いていると、眼下に町が見えてきた。だが様子がおかしい。煙が立ち上り最近嗅ぎ慣れてきた臭いがする。そう、
「血と鉄の臭い…。行くぞ紫織!」
「はいっ!」
俺達は、町の門をくぐり抜け中に入る。そこかしこに死体が転がり、生臭い臭いが鼻をつく。そいつらの体には、大きな切り傷があり、恐らくそれが死因であると思われた。
「酷いことしやがる…。女も子供も皆殺しじゃねえか…。」
「司さん、あれ!」
紫織の指差した方向には、さっき俺が痛め付けた盗賊の一味がいた。あいつらが犯人か!
「おい!てめえら!何してやがる!」
「あ、てめえさっきはよくも!お頭ァ!こいつですぜ、俺達を痛め付けてくれたのはァ!」
「ほお~ぉ。お前か、俺の部下を可愛がってくれたのは。」
そこには、2メートルを超える巨体を持つ、筋骨隆々の男がそびえ立っていた。傍らには、褐色肌の巨乳のお姉さんを従えて。お姉さんは襦袢をはだけさせているため、目のやり所に困る。
キュイーン
頭の中に鳴り響くこの音。霊力の発生源は、目の前のお姉さんからだった。しかも青色の点、ということは、こいつはまさか!
「お前、付喪神か!?」
「ふむう、よく見破ったな。そうだ、私は刀の付喪神、刀華だ。一応、こいつの所有物になるな。」
「グハハ、刀華がいれば敵無しだ!貴様もすぐに骸と化してくれるわ!」
ボフンッ
男がそういうと、刀華は付喪神の本来の姿となった。刀身が妖しく光輝く業物。その光は、とても鈍く見えた。
「さあて、狩りの時間よ!俺を楽しませろよなぁ!」
血走った目。その瞳には、俺達という存在は映っていない。映っているのは、これから殺すべき獲物、ただそれだけだった。
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