救出と怒りの炎と新たな目的
今回はいつもの倍ぐらいあります。分割しようかとも思ったんですが、キリが悪くて…。読みにくかったらごめんなさい。
チュンチュン ピヨー
鳥のさえずりが聞こえる、清々しい朝。最高に素晴らしい目覚めだ。俺は、一度大きく伸びをして、のそのそと布団からでた。隣には、紫織がまだスヤスヤと寝ていた。長旅で疲れていたのだろう。かといって、泊まっている身で寝坊して、迷惑をかけるわけにもいかない。俺は、頬っぺたをツンツンと突っついてみる。
「ふにゃ~、もう食べられませんよぉ。司さんったら、ドSなんだから…。」
なんちゅう夢見てんだ。しかも、食わしてるの俺かい。俺が悪者かい。
「コラー!起きろ!変な夢見てんじゃねえ!」
「キャア!猪の化け物!」
「誰が化け物だ!」
この野郎、二度と起きれないようにしてやろうか。
「はっ、司さん?よかった、化け物じゃなかった…。ごめんなさい、急に目の前に顔があったものですから。」
「それ謝ってんの?バカにしてんの?ねえ?」
顔が、怒りのあまり引きつってしまう。
「まあまあ、こんなところで騒いでたら、迷惑ですよ。さっ、布団を片付けましょう!」
こいつ…。何事もなかったようにしやがった。しかも、悪気なくやってるから怖い。そう、紫織は多少天然な所があるのだ。こんなときは、何をいっても効果がない。
「フフッ、仲いいんですね、二人とも。」
振り向くと、楓がこちらを見ながら微笑んでいた。
「どこから見てた?」
「頬っぺたを突っついた辺りから。」
「ほぼ最初じゃねえか…。」
楓は、エロ親父よろしく、こちらをニヤニヤしながら見ている。これは、弱味を握られたかもな…。うわぁぁ、今思うと、無茶苦茶恥ずかしい!
「朝食ができていますので、早めに来てくださいね。あまり、お二人でお楽しみになりすぎないよう。」
楓って、実はオジサンなのでは…?いろんなこと知りすぎだろ…。
朝食は米と野菜と味噌汁。さすがに毎回肉は出ない。それでも滅茶苦茶旨かった。
朝食を済ませた俺達は、腹ごなしに村を散歩していた。のどかな風景を見ながら、快い風を感じていると、奇妙な風景が目に入った。
「何だこれは…。」
とある廃屋があったのだが、そこの壁は、人以外のナニカの手によって、抉りとられていた。かなり大きな爪痕が何本も残っている。村の外れとはいえ、修理されていないと言うのもおかしい。
「司さん、何か感じませんか?」
紫織が、真剣な顔で告げる。
「ん…。はっ、もしかして霊力?」
「そうなんです。司さんも感じたと思いますが、わずかながら霊力が残っているんです。恐らく、この爪の持ち主は…。」
「妖怪ってことか…。」
この村は、妖怪に襲われた事があるのかもしれない。楓の父さんに、話を聞いてみないと。
キュイーン
「何だ?頭の中に、何かの反応が?」
頭の中で、金属音のようなものが鳴り響く。そしてポツポツと、赤い点のようなものが、いくつか浮かぶ。
「それは、霊力感知能力です。強い霊力を持った者は、自分より弱い霊力の出所を、感知できるようになります。そして、青い点が付喪神。赤い点は…妖怪です。」
「赤い点が近づいてくる…。この方向はマズイ!楓の家だ!」
俺と、紫織は猛ダッシュした。楓の家の周りには、10体ほどの1本足の妖怪が、楓を連れ去ろうとし、必死で取り返そうとする、楓の父さんの姿があった。猟銃を放ちながら、果敢に距離を詰めようとするが、数が多すぎてどうしようもない。妖怪どもは、2体ほどを残して、森に消え去ってしまった。
「くそッ!楓ぇ!貴様ら、そこをどけぇぇぇ!!」
父親の悲痛な叫び。愛娘を取り返したいという、強い思い。それは、俺の心を動かすには十分すぎる代物だった。
「親父さん!離れて!」
俺は、そう言うが否や、妖怪の1体に、強烈な跳び蹴りを放った。
メキョメキョ
鼻っ柱の折れる音が響く。そいつは、地面をゴロゴロと転がり痛がる。もう1体も、突然の事に驚き、ただただ呆然と立っているだけだ。
「紫織!」
「はいっ!」
ボフンッ
紫織が、魔導書モードに変身する。
「喰らえ、土槍!」
威力の高い魔法は、呪文詠唱が必要だが、このくらいの魔法なら、呪文を詠唱破棄できる。それでも、こいつらを倒すには十分だった。地面から突如生えた槍に、避ける間もなく胴を貫かれて消滅した。
「大丈夫ですか、親父さん!?」
「ああ、大丈夫だ…。しかし、楓が、楓が連れ去られてしまったッ!助けにいかなければ!」
「落ち着いて!アイツは一体なんなんですか?」
「アイツは1本だたら。猪の変化さ。ここ辺りは、霊的に不安定な場所でな。野生の猪が、集団で妖怪化しちまうのさ。今年は特に数が多くて…。今までは、何とか追い返してたが、今回は…。」
楓の父さんは、無念そうに語る。最後の方は、涙をこぼしていた。自分の不甲斐なさを責めているのだろう。しかし…。
「大丈夫。楓は、俺が必ず助けます。親父さんは、ここにいてください。俺が今から、取り返しに行ってきます。」
「君は一体…。先程のあれは、付喪神の能力かね?そこにいる嬢ちゃんは、付喪神だったのかい?」
「はい。魔導書の付喪神で、紫織といいます。楓ちゃんは、私たちが、必ず取り戻します。だから安心して待っていてください。」
「いや。いかに客人が調伏師だったとはいえ、父親として、ただ待っているわけにはいかない。ワシも行く。足手まといにはならん、死にそうになったら、見捨ててくれてもいい。だから、頼む、この通りだ。」
楓の父さんは、若い俺に頭を下げる。ここまで楓を想っているのだ、無下にするわけにはいかない。
「分かりました。でも、これだけは約束してください。絶対に、死にそうになったら逃げること。死んでしまっては、誰が楓を迎えてやるんですか?」
楓の父さんは、ハッとした顔で、こちらを見ると
「そうだな。すまない、頭に血が上っていた。」
「いいんですよ。じゃあ早速、楓を助けにいきましょう。」
俺は、さっき気づいた霊力感知能力を、この山全体をイメージして使ってみる。思った通り、こいつは範囲指定が任意でできるようだ。そして、山の中腹辺りに、奴らの住みかを見つけた。
「行こう!」
「はい!」
「おう!」
俺達3人は、囚われの姫を助けに走り出した。
「あそこだ。行くぜ、気ぃ引き締めろよッ!」
山の中腹の洞穴、見張り番がこちらに気づき、警告の雄叫びをあげる。すると、洞穴の中から、20体ほどの1本だたらが出てきた。奥には、楓が気絶させられて抱えられているのが見えた。
「オマエ、テキ、カエレ!」
単語の羅列だが、言葉を発してくる。比較的知能は高いのかもしれない。集団で行動するのも、それを裏付けている。
「生憎と、帰るわけにはいかねえんだよ…!てめえら、楓を渡せぇ!」
体から、霊力を放出しながら、奴らを威嚇する。その殺意の奔流に、奴らも臨戦態勢を取り始めた。
「紫織!」
「はいっ!司さん!」
ボフンッ
魔導書モードの紫織を抱え、ページをめくる。
「まずは、先制攻撃!重力操作!」
ここら一帯には今、通常の3倍の重力がかかっている。しかも1本だたらのみに作用するような、だ。楓を抱えていた1本だたらは、自らの重みに耐えられず、楓を落としてしまう。そこを、楓の父さんが救出した。
「よし、人質はいなくなったぜ?さあ、絶滅タイムだ!」
俺は、資格がないやつが装着したら死んでしまう、あの黒い鎧のやつのような台詞を吐き、奴らに迫る。
このときの事を、紫織はこう語った。
司さんのこのときの顔は、この世の終わりを告げる悪魔のような顔でした。_by紫織
「行くぜ、覚悟しろよぉ!広範囲魔法!」
奴らの倒れこんでいる地面一帯に、魔法陣が出現した。
「燃え盛れ、地獄の業火。焼き尽くせ、天空の神火。灰塵をも滅せよ、我らが怒り、現世の全てを喰らい尽くせ!」
「煉獄・焔!!」
「アヅイイイイ!」
「タスケテ!」
魔法陣から溢れ出した、火柱。さながらマグマの噴火のようなこの魔法は、一片の慈悲も与えず、1本だたらを燃やし尽くした。
あの後、すぐに楓は目を覚まし、生きていたことへの安堵と父親に会えたことへの喜びから、大声をあげて泣いた。楓の父さんも泣いてた。家族の美しい姿を見たような思いだ。俺も家族と、こんな風になれたらよかったのになぁ…。
「司くん、紫織ちゃん。本当にありがとう。ワシは、どうやってお礼をしたらよいのか…。」
「礼なんていいですよ。それより、さっきの調伏師ってのはなんですか?ずっと気になってたんですよ。」
助けに行く前に、楓の父さんがいった言葉が、ずっと引っ掛かってたんだ。それに、付喪神のことについても知ってたし。
「調伏師ってのは、君みたいに付喪神を使って、妖怪を倒したり、怪現象を解決したりする人の事さ。ここは、知っての通り霊的に不安定な場所だからな、時折1本だたら討伐を依頼したりするのさ。」
なるほど、そんな人がいるのか…。今まで聞いたことなかった。
「まあ、忍者や陰陽師みたいなもので、普段はそんなに表立って行動することもないらしい。知らないのも無理はないさ。人知れず世間の裏で、怪異を収める。そんな人達らしいからな。」
へえ、って事は、俺以外にも付喪神使いがいるって事か。会ってみてえな…。
「どこかに、組織みたいなのはあるんですか?そもそも、皆さんはどうやって依頼を?」
「ここから遠く離れた山奥に、総本山があるとは聞いたことがあるが…。正確な場所は分からんな。依頼は、伝書鳩を使っている。最初に出会った調伏師がくれたんだ。どうやら妖怪の1種らしく、追いかけてもすぐに姿を消してしまうんだ。どうやって手懐けたのか…。」
「そうですか…。じゃあ地道に探すとしましょうかね。」
そうだ、旅はまだ始まったばかり。気長に探していこうじゃないか。
俺達は、村を発つことになった。
「司さん、はいこれ!」
「お?何だこりゃ?」
「お守り!私が作ったの!」
そこには、刺繍の入ったお手製のお守りがあった。
「また会いに来てね、絶対だよ!」
「ああ、約束する。また会おうな!」
「はい、絶対にまた来ます!」
「じゃーねー!!」
楓がちぎれんばかりに手を振る。俺達もそれに返しながら、ゆっくりと村を離れていく。
「調伏師、か…。どんな奴らなのかな?」
「会ってみたいですね。これで旅の目的が1つ出来ましたね!」
旅の目的か。いいぜ、ちょっと厳しいくらいが丁度いいんだ。いつかは絶対に見つけてやるぜ、と心に誓い、俺達は強く歩み始めた。