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魔導書使いの調伏師  作者: 和泉ふみん
第一章 司、調伏師となるまで
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救出と怒りの炎と新たな目的

今回はいつもの倍ぐらいあります。分割しようかとも思ったんですが、キリが悪くて…。読みにくかったらごめんなさい。

チュンチュン ピヨー


鳥のさえずりが聞こえる、清々しい朝。最高に素晴らしい目覚めだ。俺は、一度大きく伸びをして、のそのそと布団からでた。隣には、紫織がまだスヤスヤと寝ていた。長旅で疲れていたのだろう。かといって、泊まっている身で寝坊して、迷惑をかけるわけにもいかない。俺は、頬っぺたをツンツンと突っついてみる。


「ふにゃ~、もう食べられませんよぉ。司さんったら、ドSなんだから…。」


なんちゅう夢見てんだ。しかも、食わしてるの俺かい。俺が悪者かい。


「コラー!起きろ!変な夢見てんじゃねえ!」


「キャア!猪の化け物!」


「誰が化け物だ!」


この野郎、二度と起きれないようにしてやろうか。


「はっ、司さん?よかった、化け物じゃなかった…。ごめんなさい、急に目の前に顔があったものですから。」


「それ謝ってんの?バカにしてんの?ねえ?」


顔が、怒りのあまり引きつってしまう。


「まあまあ、こんなところで騒いでたら、迷惑ですよ。さっ、布団を片付けましょう!」


こいつ…。何事もなかったようにしやがった。しかも、悪気なくやってるから怖い。そう、紫織は多少天然な所があるのだ。こんなときは、何をいっても効果がない。


「フフッ、仲いいんですね、二人とも。」


振り向くと、楓がこちらを見ながら微笑んでいた。


「どこから見てた?」


「頬っぺたを突っついた辺りから。」


「ほぼ最初じゃねえか…。」


楓は、エロ親父よろしく、こちらをニヤニヤしながら見ている。これは、弱味を握られたかもな…。うわぁぁ、今思うと、無茶苦茶恥ずかしい!


「朝食ができていますので、早めに来てくださいね。あまり、お二人で()()()()()()()()()()()()()。」


楓って、実はオジサンなのでは…?いろんなこと知りすぎだろ…。




朝食は米と野菜と味噌汁。さすがに毎回肉は出ない。それでも滅茶苦茶旨かった。



朝食を済ませた俺達は、腹ごなしに村を散歩していた。のどかな風景を見ながら、快い風を感じていると、奇妙な風景が目に入った。


「何だこれは…。」


とある廃屋があったのだが、そこの壁は、人以外のナニカの手によって、抉りとられていた。かなり大きな爪痕が何本も残っている。村の外れとはいえ、修理されていないと言うのもおかしい。


「司さん、何か感じませんか?」


紫織が、真剣な顔で告げる。


「ん…。はっ、もしかして霊力?」


「そうなんです。司さんも感じたと思いますが、わずかながら霊力が残っているんです。恐らく、この爪の持ち主は…。」


「妖怪ってことか…。」


この村は、妖怪に襲われた事があるのかもしれない。楓の父さんに、話を聞いてみないと。


キュイーン


「何だ?頭の中に、何かの反応が?」


頭の中で、金属音のようなものが鳴り響く。そしてポツポツと、赤い点のようなものが、いくつか浮かぶ。


「それは、霊力感知能力です。強い霊力を持った者は、自分より弱い霊力の出所を、感知できるようになります。そして、青い点が付喪神。赤い点は…妖怪です。」


「赤い点が近づいてくる…。この方向はマズイ!楓の家だ!」


俺と、紫織は猛ダッシュした。楓の家の周りには、10体ほどの1本足の妖怪が、楓を連れ去ろうとし、必死で取り返そうとする、楓の父さんの姿があった。猟銃を放ちながら、果敢に距離を詰めようとするが、数が多すぎてどうしようもない。妖怪どもは、2体ほどを残して、森に消え去ってしまった。


「くそッ!楓ぇ!貴様ら、そこをどけぇぇぇ!!」


父親の悲痛な叫び。愛娘を取り返したいという、強い思い。それは、俺の心を動かすには十分すぎる代物だった。


「親父さん!離れて!」


俺は、そう言うが否や、妖怪の1体に、強烈な跳び蹴りを放った。


メキョメキョ


鼻っ柱の折れる音が響く。そいつは、地面をゴロゴロと転がり痛がる。もう1体も、突然の事に驚き、ただただ呆然と立っているだけだ。


「紫織!」


「はいっ!」


ボフンッ


紫織が、魔導書モードに変身する。


「喰らえ、土槍(ランドランス)!」


威力の高い魔法は、呪文詠唱が必要だが、このくらいの魔法なら、呪文を詠唱破棄できる。それでも、こいつらを倒すには十分だった。地面から突如生えた槍に、避ける間もなく胴を貫かれて消滅した。


「大丈夫ですか、親父さん!?」


「ああ、大丈夫だ…。しかし、楓が、楓が連れ去られてしまったッ!助けにいかなければ!」


「落ち着いて!アイツは一体なんなんですか?」


「アイツは1本だたら。猪の変化さ。ここ辺りは、霊的に不安定な場所でな。野生の猪が、集団で妖怪化しちまうのさ。今年は特に数が多くて…。今までは、何とか追い返してたが、今回は…。」


楓の父さんは、無念そうに語る。最後の方は、涙をこぼしていた。自分の不甲斐なさを責めているのだろう。しかし…。


「大丈夫。楓は、俺が必ず助けます。親父さんは、ここにいてください。俺が今から、取り返しに行ってきます。」


「君は一体…。先程のあれは、付喪神の能力かね?そこにいる嬢ちゃんは、付喪神だったのかい?」


「はい。魔導書の付喪神で、紫織といいます。楓ちゃんは、私たちが、必ず取り戻します。だから安心して待っていてください。」


「いや。いかに客人が調()()()だったとはいえ、父親として、ただ待っているわけにはいかない。ワシも行く。足手まといにはならん、死にそうになったら、見捨ててくれてもいい。だから、頼む、この通りだ。」


楓の父さんは、若い俺に頭を下げる。ここまで楓を想っているのだ、無下にするわけにはいかない。


「分かりました。でも、これだけは約束してください。絶対に、死にそうになったら逃げること。死んでしまっては、誰が楓を迎えてやるんですか?」


楓の父さんは、ハッとした顔で、こちらを見ると


「そうだな。すまない、頭に血が上っていた。」


「いいんですよ。じゃあ早速、楓を助けにいきましょう。」


俺は、さっき気づいた霊力感知能力を、この山全体をイメージして使ってみる。思った通り、こいつは範囲指定が任意でできるようだ。そして、山の中腹辺りに、奴らの住みかを見つけた。


「行こう!」


「はい!」


「おう!」


俺達3人は、囚われの姫を助けに走り出した。





「あそこだ。行くぜ、気ぃ引き締めろよッ!」


山の中腹の洞穴、見張り番がこちらに気づき、警告の雄叫びをあげる。すると、洞穴の中から、20体ほどの1本だたらが出てきた。奥には、楓が気絶させられて抱えられているのが見えた。


「オマエ、テキ、カエレ!」


単語の羅列だが、言葉を発してくる。比較的知能は高いのかもしれない。集団で行動するのも、それを裏付けている。


「生憎と、帰るわけにはいかねえんだよ…!てめえら、楓を渡せぇ!」


体から、霊力を放出しながら、奴らを威嚇する。その殺意の奔流に、奴らも臨戦態勢を取り始めた。


「紫織!」


「はいっ!司さん!」


ボフンッ


魔導書モードの紫織を抱え、ページをめくる。


「まずは、先制攻撃!重力操作(グラビティコントロール)!」


ここら一帯には今、通常の3倍の重力がかかっている。しかも1本だたらのみに作用するような、だ。楓を抱えていた1本だたらは、自らの重みに耐えられず、楓を落としてしまう。そこを、楓の父さんが救出した。


「よし、人質はいなくなったぜ?さあ、絶滅タイムだ!」


俺は、資格がないやつが装着したら死んでしまう、あの黒い鎧のやつのような台詞を吐き、奴らに迫る。


このときの事を、紫織はこう語った。


司さんのこのときの顔は、この世の終わりを告げる悪魔のような顔でした。_by紫織


「行くぜ、覚悟しろよぉ!広範囲魔法!」


奴らの倒れこんでいる地面一帯に、魔法陣が出現した。


「燃え盛れ、地獄の業火。焼き尽くせ、天空の神火。灰塵をも滅せよ、我らが怒り、現世(うつしよ)の全てを喰らい尽くせ!」


煉獄(インフェルノ・)(フレイム)!!」


「アヅイイイイ!」


「タスケテ!」


魔法陣から溢れ出した、火柱。さながらマグマの噴火のようなこの魔法は、一片の慈悲も与えず、1本だたらを燃やし尽くした。




あの後、すぐに楓は目を覚まし、生きていたことへの安堵と父親に会えたことへの喜びから、大声をあげて泣いた。楓の父さんも泣いてた。家族の美しい姿を見たような思いだ。俺も家族と、こんな風になれたらよかったのになぁ…。


「司くん、紫織ちゃん。本当にありがとう。ワシは、どうやってお礼をしたらよいのか…。」


「礼なんていいですよ。それより、さっきの調伏師ってのはなんですか?ずっと気になってたんですよ。」


助けに行く前に、楓の父さんがいった言葉が、ずっと引っ掛かってたんだ。それに、付喪神のことについても知ってたし。


「調伏師ってのは、君みたいに付喪神を使って、妖怪を倒したり、怪現象を解決したりする人の事さ。ここは、知っての通り霊的に不安定な場所だからな、時折1本だたら討伐を依頼したりするのさ。」


なるほど、そんな人がいるのか…。今まで聞いたことなかった。


「まあ、忍者や陰陽師みたいなもので、普段はそんなに表立って行動することもないらしい。知らないのも無理はないさ。人知れず世間の裏で、怪異を収める。そんな人達らしいからな。」


へえ、って事は、俺以外にも付喪神使いがいるって事か。会ってみてえな…。


「どこかに、組織みたいなのはあるんですか?そもそも、皆さんはどうやって依頼を?」


「ここから遠く離れた山奥に、総本山があるとは聞いたことがあるが…。正確な場所は分からんな。依頼は、伝書鳩を使っている。最初に出会った調伏師がくれたんだ。どうやら妖怪の1種らしく、追いかけてもすぐに姿を消してしまうんだ。どうやって手懐けたのか…。」


「そうですか…。じゃあ地道に探すとしましょうかね。」


そうだ、旅はまだ始まったばかり。気長に探していこうじゃないか。





俺達は、村を発つことになった。


「司さん、はいこれ!」


「お?何だこりゃ?」


「お守り!私が作ったの!」


そこには、刺繍の入ったお手製のお守りがあった。


「また会いに来てね、絶対だよ!」


「ああ、約束する。また会おうな!」


「はい、絶対にまた来ます!」





「じゃーねー!!」


楓がちぎれんばかりに手を振る。俺達もそれに返しながら、ゆっくりと村を離れていく。


「調伏師、か…。どんな奴らなのかな?」


「会ってみたいですね。これで旅の目的が1つ出来ましたね!」


旅の目的か。いいぜ、ちょっと厳しいくらいが丁度いいんだ。いつかは絶対に見つけてやるぜ、と心に誓い、俺達は強く歩み始めた。





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