表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導書使いの調伏師  作者: 和泉ふみん
第一章 司、調伏師となるまで
7/38

空を飛んで、落っこちて♪猪焼いたら毛むくじゃら♪

「イィヤッホォォォォォ!!!すげえ!俺達、空飛んでるぜ!」


天地 司、現在地、空!そう、俺達は今、魔法で空を飛んでいる。

身体強化魔法、龍翼(ドラゴウイング)、その名の通り、背中に龍の翼を生やして空を飛ぶ魔法!やべえ、めっちゃ楽しい…。


「司さん、前!前見て!」


紫織が、あわあわと警告する。


「へ?ヒデブッ!」


某漫画の雑魚キャラのような声を出しながら、俺は地面に墜落していく。何で、1本だけこんなところに、たっかい松の木なんか…。しかも、ちょうど俺の進行方向に…。おかしいだろぉぉ…。



「もう!魔法が使えるようになって、嬉しいのは分かりますが、もうちょっと節度ある行動をしてください!大体、何であの高さから落ちて、無事なんですか、おかしいでしょ、バカなんですか?それから…クドクドクドクド…。」


「はい…はい、すいません、あ、はい…。」


こういうときの、女性は怖い。刺激しないことが大事なのだ。途中でバカにされてても、理不尽なこと言われてても、ひたすら我慢する。これが長続きする秘訣なのだ。って、恋愛の秘訣を話している場合ではない!言われてみれば、恋愛って理不尽だらけだね、とかいってる場合か!


「ちょっと待って、何で俺元気なの?優に10メートル超えてたよね?あの高さから叩きつけられて、擦り傷だけってどうなの?」


俺の体は、骨折などの大ケガは1つもなく、足とか手に、擦り傷が少しできただけだった。


「恐らく、霊力の覚醒が原因ですね。霊力量が多すぎると、周りに様々な影響を及ぼします。その1つに、身体機能の超強化があります。どうやら司さん、もう人間よりも、付喪神に近くなっているようですね。」


確かに、これでもまだ、自分は人間です!とは言えないよねぇ。

でも、俺にとっては人間でいることより、紫織と一緒の存在になれることの方が、よっぽど嬉しいし価値がある。


「いいさ。俺は俺、その事に変わりはない。むしろ、これでよかったと思ってる。」


「え?」


紫織がキョトンとした顔をする。


「だって、これから何があっても、紫織を守ってやれる。それだけでも、こうなった価値はあるってもんだ。」


「司さん…。」


紫織は、頬を染めながら、嬉しそうな笑顔をこちらに向ける。

へへッ、こっちまで嬉しくなってくるな。


「あの~、大丈夫ですか?」


ふと、声のした方を見ると、小さな女の子が、こちらを心配そうに見ていた。


「ああ、すいません。どうやら怪我をされているようだったので…。」


「ああ、大丈夫大丈夫。君は?どこから来たの?」


「近くに村があって。私はそこの猟師の娘で、楓って言います。」


「楓ちゃんは、どうしてここに?山の中で1人は危ないですよ?」


「大丈夫です!ここは、私の庭みたいな物ですから。それにほら、こんなに山菜が採れるんです!村のみんなにも教えてない、秘密の場所なんですよ!」


楓は、最後の方はひどく興奮しながら、楽しそうに語った。


「よかったら私たちの村に来ませんか?なにぶん山の奥で、外から人が来ることなんて、滅多にないですから。」


「それじゃあ、ちょっとお邪魔させてもらおうかな。紫織もいいよね?」


「はい、楓ちゃん、よろしくね。」


「じゃあ、私についてきてください。村まで案内します。」





「着きました、ここが私たちの村です!」


そこは、山の中だけあって、自然豊かな村だった。畑には、青々とした瑞々しい野菜が生え、そこら中に、草を食む馬や牛、豚に鶏などの家畜が飼われていた。


「楓、お帰り!」


「お父さん!」


そこには、猟銃を背負い、毛皮でできた帽子をかぶった髭もじゃのおっさんがいた。


「お客さんかい?ようこそ、ワシらの村へ。といっても何もねえところだからなぁ、大したもてなしは出来ねえが、こらえてくれ。」


「いえいえ、十分ですよ。突然来てもてなせなんて、そんなおこがましいこと、言えるはずないですよ。」


「若いのに謙虚だねぇ。よし気に入った!あんた、今日はうちに泊まりな!とびっきりのご馳走食わしてやる!楽しみにしてな!」


思いがけない提案に心が踊る。


「本当ですか?ありがとうございます!」


猟師のご馳走と言えば、やっぱり肉かな?鴨とか雉とか?どちらにしても楽しみだ!



その晩、食卓に上がったのは、とてつもなくデカイ猪のステーキだった。


「うめえ!」


一口噛む度に、旨味が口の中に溢れ出る。脂身が全くしつこくなく、むしろ甘味を感じさせる。いくら食べても飽きが来ず、腹一杯になるまで食い尽くした。予想とは違ったが、大満足だ。


「いや~、旨かったです。ここは、猪も獲れるんですね。」


「おうよ!ワシの腕があれば、どんなヤツだって狩ってみせるぞ!ただ、厄介なのもいるんだよなぁ…。」


楓の父さんは、顔を曇らせ、困ったような声を出した。


「何かあるんですか?」


「いや、客人に聞かせる話じゃねえな。すまなかった、忘れてくれ。」


何だろう。楓の父さん、さっきまで陽気だったのに、急に暗くなっちまったぞ。


「皆さーん、お風呂が沸きましたよー!」


遠くから、楓の声が聞こえる。


「一番風呂は譲るよ。ワシは食器とかを片付けてくるからな。」


「そうですか、ではお言葉に甘えて。」


俺は、久しぶりの風呂を堪能し、出たら引いてくれていた布団に、そのまま倒れこみ寝てしまった。



その頃、近所の森の中で、10体ほどの影が蠢いていた。


「エサ…オンナ…。」


「ワカイ…ムスメ…。」


「クワセロ、クワセロォォォォ!」


1本足で跳ねる、一つ目の毛むくじゃらの妖怪が、村に迫ろうとしていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ