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魔導書使いの調伏師  作者: 和泉ふみん
第一章 司、調伏師となるまで
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契約と覚醒は計画的にっ!

「キャアアッ!!」


「うわああっ!!」


俺達を吹き飛ばした、二メートルほどの大きさのハサミ。

そのハサミは、俺達の命を刈り取る、死神の鎌のようにも見えた。山中で出会ったバケガニ。コイツが何者で、何でここにいるのかとか、そんなことは些細なこと。大事なのは、コイツが、俺達を獲物として認識していること。そして、俺達には、コイツを倒す手段がないこと。この二つ。状況的には、完全に詰みってやつだ。


「ハハハ…。何だよありゃ。俺達、こんなところで死ぬのか?しかも、訳わかんねぇ化け物に襲われて…。」


逃げながら、自嘲気味に笑う。


「落ち着いてください、司さん!アイツはバケガニ。妖怪の1種です。」


「妖怪?付喪神とは違うのか?ってか、何で俺達を襲うんだよ?」


「妖怪は、確かに付喪神と同じで、霊子を吸収して生まれます。でも、短期間で大量に吸収するため、自我を失い、知能も低く、人の姿をとれないことが多いです。そして、本能のままに、目の前の物を、喰らい尽くすんです。ここは霊子濃度が、極端に濃いですし…。恐らく吹き溜まりのような場所なのでしょう。その影響で、野生のカニが、妖怪化したのでしょう。」


生き物でも、妖怪化すんのか。付喪神は、器物しかならないからな。驚いた。ってか、付喪神になるまでに、百年かかるんだもんな。生き物は、なれるわけねえ。


「キィィィィィ!!!」


後ろから、バケガニが奇声をあげながら迫ってくる。


やべっ、追われてるの、すっかり忘れてた。アイツ、無茶苦茶足速いな!八本足を器用に使って、シャカシャカ走ってくる。案外気持ち悪い。


「くそッ、何かないのかよ、アイツを倒す方法!」


「1つ、1つだけあります。」


「何だ?勿体ぶってないで、教えてくれよ!」


紫織は、言い渋っていたが、意を決して、


「司さんが、私の真の力を使うことです。私は、本は本でも、魔導書の付喪神。この世の、全ての魔法を扱う能力を持っています。それを、霊力の素養がある人間が扱えば、あれを倒せるかもしれません。司さんは、霊力の保有量は桁違いですから、後はきっかけがあれば…。」


「そうすりゃ助かるってことか?」


「はい、時間がありません。いきます!」


ボフンッ


突如紫織が煙を発し、その中から、一冊の本が出現した。これこそ、紫織の本当の姿だ。


「司さん、私を使って!」


「よっしゃ!え~と、これか!火球(ファイアーボール)!」


俺の目の前に、火球…じゃなくて、小さい、線香花火みたいな玉が現れた。


「え?火球(ファイアーボール)ってこれ!?」


「そ、そんなはずは!少なくとも、手のひらサイズにはなるはずですよ!?」


「まさか…俺って、魔法使えないんじゃ…。霊力の素養がないんじゃ…。」


「そんな馬鹿な!霊力は、魔法発動には十分なはずなのに!」


「キイイ!」


「うわあっ!」


「きゃっ!」


ハサミの一撃を受け、木に叩きつけられる。頭を打ってしまった。意識が朦朧としてくる。薄れ行く意識の中で、紫織の悲痛な叫びのみが聞こえていた。





「ここは…。天国?はたまた地獄か…?」


何にもない、真っ白な空間。そこに俺は、ポツンと立っていた。

俺、死んじまったのかなぁ…?


「司さん。」


「紫織…。」


「これは私の魔法、通信(テレパシー)です。司さんの精神に、直接語りかけています。」


なるほど、魔法か。本当に何でもアリだな。


「時間がないので、手短にいきますね。私の真の力を引き出すために、もう1つ、試しておきたいことがあります。」


「それは?」


「真名契約です。」


「真名契約?」


「真名とは、真実の名。普段使っている紫織は、渾名ですが、真名は、私の本質の名。これを知っている者こそ、真の所有者であり、付喪神の能力を、まるで自分のもののように扱えます。」


「そんなスゴいもの…。何で早く教えなかったんだ?」


これは当然の疑問だ。こんな話、今までに聞いたことがない。


「リスクが大きすぎるのです。真名は、付喪神に対して、強制力があります。命令の絶対遵守など、悪用されやすいもので、むやみやたらと、教えていいものではないのです。事実、司さんのお父様とお母様には、お教えしていません。」


「そんな大事なもの、俺に教えちまっていいのか?」


「はい。あなたは、私を助けてくれた。私を優しく抱き締めてくれた。私の唇に、キスをしてくれた。愛しい愛しい、私のご主人様。そんなあなただからこそ、私の全てを、捧げたいんです。」


紫織は、俺の腕に自分の腕を絡めながら、嬉しそうな顔で、そう告げる。


「それに、司さんは、もう既に真名を知っているはずですよ。」


「え?いや、え?全然記憶にないんだけど…。」


「ああ、もう時間が来てしまいました。通信(テレパシー)は、私の力では制限時間があるんです。もう戻らなくては。」


「あ、おい!紫織!」


「よく考えて見てください。真名は、本質を表す名ですよ!」


その言葉と共に、俺の意識は、現実に引き戻された。




「キィィィィィ」


勝利を確信したバケガニは、ゆっくりゆっくりと紫織に迫る。ハサミをカチカチ鳴らしながら。ハサミが、紫織を襲おうとした、まさにその時、俺の中で、何かが溢れ出した。


「紫織に触れるなぁぁぁぁ!この、化け物がぁぁぁ!」


その瞬間、俺は走り出したが、すぐに体の異常を感じた。体が軽い。羽のようだ。あっという間に、バケガニとの距離を詰め、五メートルぐらいジャンプして、脳天かかと落としを決めた。


「司さんッ!?霊力が覚醒したんですか!?」


「ああ、どうやらそのようだ。何だよこれ、身体能力まで強化されてんじゃん。まあ、これで戦える。一緒に戦ってくれないか、紫織…いや、」


ずっと考えてた。紫織は本だ。本の内容を一番表してるものってなんだろうって。それは…。


「本のタイトル…。やっと思い出したよ。禁じられた魔導書(インデックス オブ ウィザーズ)グリモワール!」


その時、俺達の体内から光の玉が出てきて、二人の中央で混じり合い、再び二つに分かれて体内に戻った。


「契約完了です。これで、私は完全にあなたのもの。この命、どうぞお好きにお使いください。」


紫織は、恭しく頭を下げる。


「じゃあ、最初の命令。真名の契約を結ぼうと、俺は俺、紫織は紫織だ。今まで通り生活すること、いいね?」


こればっかりは譲る気はない。俺の目標は、紫織と対等な関係になることだ。


「はい、承知しました。司さん。それでは、アイツに、とどめを刺してしまいましょう。」


紫織が指差す先には、頭を押さえながらフラフラと立ち上がる、バケガニの姿があった。まだ立ち上がるか。さすがに装甲が硬いや。


「今楽にしてやる…!紫織!」


「はいっ!」


ボフンッ


紫織が本になり、俺が左手でそれを抱える。


「今ならやれる…。火球(ファイアーボール)!」


今度は、バランスボール並みの巨大な火球が出現した。それをバケガニにぶつける。


「ギィィィィ!」


火球はバケガニの体を包み込み、燃やす。いかに装甲が硬くとも、熱には弱いはずだ。火が収まった頃には、バケガニは虫の息だった。


「とどめだ、来たれ、雷神の怒りの鉄槌。」


呪文と共に、俺が手を天に掲げると、バケガニの上だけ、雷雲が発生した。


雷迎天撃(らいごうてんげき)。」


手を降り下ろすと、超高圧電流がバケガニを直撃した。バケガニは、声をあげる暇もなく、一瞬で消し炭と化した。

こうして、俺の初めての妖怪との戦闘は終わった。


紫織との真名契約、俺の霊力の覚醒。様々なことがあった今回の事件。これが、まだ始まりにすぎないことは、この時の俺達は知るよしもない。これが、俺の調伏師としての、第一歩であるということも。

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