未知の知識と、化け物との遭遇
A県山中_俺達は、道なき道を、ひたすら歩いていた。
「ゼエゼエ…。疲れた…。」
「ファイトですよ、司さん!このままじゃ、日が暮れちゃいますよ!」
紫織は、俺の数メートル先から、元気な声で励ましてくれる。何であんなに元気なんだ…。おんなじ距離を、歩いているはずなのに…。
「どうして、ハァ、紫織は、ハァ、そんなに、ハァ、元気なの?」
「フッフーン、お忘れですか?私は、仮にも付喪神ですよ?本とはいえ、これくらいでへばるほど、ヤワではありません!」
そうだった。これでも昔から、大人の男以上に、体力あるんだった。タンスとか、軽々運んでたし。
「そういや、紫織って、食事してる姿とか、見たことないんだけど。そこらへん、どうなってるの?」
家を出て1週間。紫織は、1度も食事をとっていない。家にいたときも、食事の席に、紫織が同席したことはなかった。
「それはですねぇ。まず付喪神がどうやって、生まれるのか、それから説明しないといけませんね。」
紫織は、どこからか眼鏡を取り出して、女教師風に解説を始めた。
「司さんは、どうやって付喪神が生まれるのか、知ってますか?」
「ええと。まずモノが、100年ぐらい経つと、目に見えない霊子を吸い込んで、付喪神になるんだよな。んで、そいつは、人格を持ってて、人の姿をとることが、多いと。」
「正解です。私たちが、存在するためのリソースは、霊子なんです。付喪神が、どうして人に所有してもらわないと、いけないのか。それは、人との間に、霊子供給ラインを、設けているからなんです。」
「自然とかからは、吸収できないの?」
「確かに、自然にも、大量に霊子は存在します。でも、それらは、吸収するのに、時間がかかるんです。一番手っ取り早いのが、人から霊子を貰うことなんです。」
紫織によると、空気中の霊子は、市販の風邪薬、人から貰う霊子は、オーダーメイドの薬のようなものらしい。空気中の霊子は、誰にでも吸収できるが、性質が自分と合ってない事が、非常に多いんだそう。食べられるけど、不味いから、あんまり食べたくない、とも言える。人からの霊子は、ラインを結んだ人間からしか、霊子は貰えないし、人間一人からしか貰えないが、その代わり、とてもよく体に馴染むのだそう。常にやるなら、断然こっちらしい。
「司さんは、赤ちゃんの頃から、私の霊子をガンガン浴びてますから、霊子保有量は、かなりのモノですよ。赤ちゃんの時は、吸収率も高くて、この時にたくさん吸収すると、最大保有量も増えるんだそうです。」
え!?初耳!そんな実感、全くなかったからなぁ。
「司さんだったら、私の真の力を、使えるかもしれませんね…。」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ、何でもありません。これは別に、知る必要がなければ、知らなくていいことですから。」
え、何それ気になる。気にするな気にするなって、誘ってるとしか、思えないんだよね。まあ、紫織の顔が真剣だし…。やめとこ、後が怖そうだ。
「説明は、以上です。質問、クエスチョン、言いたいことは?」
何だそりゃ。独特な言い回しだなぁ。お前は、何人だみたいな感じ。
「特にないな。」
「では、また歩き始めましょう!時間をとってしまいました。」
再び歩き始めた俺達。しかし、やっぱり俺の体力が足りず、山で野宿することになった。
「ごめん、俺のせいで。」
「いいんですよ。私は、水を汲んできますので、司さんは、火起こしをお願いします。」
了解!司二等兵、火起こしに全力を尽くすであります!
パチッ、パチパチッ
「おっそいなー、どこまで行ってんだろ…。」
火を起こして、ずっと待っているが、紫織が帰ってこない。水場が、近くにないのかもしれない。そんなことを考えていると、
「キャーッ!!」
悲鳴が聞こえた。しかも、紫織の声だ。
「紫織!くそッ、どこだ!?」
考えるよりも先に走り出す。記憶をたどり、声が聞こえた方向に向かって、ひたすら走った。
そこには、川があった。俺は、自分の目を疑った。
「紫織!」
「司さん!」
そこにいた、紫織の手をつかんで、距離をとる。
「何だ、コイツは!?」
紫織を襲った犯人は、俺達に、ハサミを振りかざしてくる。
その正体は、この世のものとも思えぬ、
巨大なバケガニだった。