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魔導書使いの調伏師  作者: 和泉ふみん
第一章 司、調伏師となるまで
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燃え盛る炎と共に、熱い口づけを

「紫織ぃ!居たら、返事しろぉ!」


灼熱地獄の中、屋敷内を駆け巡る。熱い。体ごと、蒸発しちまいそうだ。意識も朦朧とする。でも、でも!


「好きな女、ほったらかして、一人で逃げれっかよぉぉぉぉ!」


今までは、母親のような、姉のような、そんな目で紫織を見てた。しかし、成長していく心と体は、紫織を一人の女として、認識し始めた。顔を見るたびに、胸が締め付けられる。


つたえたい


こわしたくない


だきしめたい


はなれたくない


様々な思いが、脳を縦横無尽に、かき乱す。でももう、考えるのはやめた。会って言わなきゃ。そんな矢先に、この火事。神様よ、俺から紫織を奪おうってのか?確かに、紫織は可愛い。あんたが欲しがるのも分かる。でもな、


「そう簡単に渡すほど、俺もお人好しじゃねえのさ。」


俺は、ついに紫織の部屋の前に到達する。俺は、ドアを蹴破って中に突入する。そこには、床に倒れた紫織の姿。すぐさま駆け寄って、抱き抱える。


「おい!紫織!大丈夫かっ!」


「司…坊っちゃま…。」


力ない声の、返事が返ってくる。相当衰弱している。早く手当てしないとまずい。


「俺の背に乗れ!脱出するぞ!」


捜索に手間取って、火の手が強くなってしまった。今にも、天井が崩れ落ちてきそうだ。


「いえ…。私を背負っていては、助からないでしょう…。早く、早く坊っちゃまだけでも…。」


ふるふると首を振る紫織。だが、俺はそれを無視して、


「つべこべ言ってないで、行くぞ。」


ぐったりしている、紫織を無理矢理乗せて、走り出す。


「どう…して…。助けてくださるのですか…?」


「決まってんだろ。お前は、俺のモノだからだ。」


「え…?」


「俺は、俺はお前の事が、ずっと好きだった。最初は、家族に対するそれだと思ってたが、どうやら違ったらしい。一人の女として、お前の事が好きだ。」


「…!私は、付喪神ですよ…?それでも、それでもそんな風に、言ってくださるのですか…?」


「ああ!紫織は紫織。それ以外の何者でもない!だから助ける!絶対に!」


「嬉しい…。ありがとうございます、坊っちゃま…!」


俺は、走る、走る、走る。ただひたすら走る。出口に向かって。

明日への希望に向かって。


俺達が脱出してすぐ、家は崩れ落ちた。間一髪の所だった。あと少し遅れていたら、そんなことを考えるとゾッとする。

紫織は、すぐに病院に担ぎ込まれた。俺は、その間ずっと紫織のそばにいた。紫織が退院したのは、それから一月してからだった。


紫織と共に、家に帰る。財産は一部は焼けたものの、大部分を別の場所にある、倉に置いていたため、入院していた一月の間に、家はすっかり修復されていた。俺達は、父さんと母さんに、書斎に呼ばれた。


「用事って何?」


「何故、あのようなことをした。お前は、ここの跡取りだぞ。」


「そうよ、あなたが死んだら、誰がここを継ぐのよ!」


二人は大分ご立腹だ。まあ、これは俺が悪い。突然、火に飛び込んだら心配もする。俺は、二人の事を勘違いしていたのかもな。俺の事を心配してくれるんだ。そんな呑気なことを考えていたが、それがすぐに間違いだった事を思い知らされる。


「何より、そんな女のために、命を捨てようとしたことが許せん!例えそいつが死んだとて、それはそいつが、トロいだけだ!」


あ…?そんな女…?そんな女ってのは、紫織のことか…?


「化物を庇って死のうとするなど、愚の骨頂だぞ!全く、つまらん事に命を張るな!このバカ者が!」


紫織の顔を見ると、普段は見せない、涙を流していた。

その顔を見た瞬間、俺の中でブチッという音がした。

あ、ダメだ。もう無理_


ボコオッ!!


その瞬間、俺は父さん、いや目の前の男をぶん殴っていた。しかも、本気で。


「ゲホッ!何をする…!」


男は、口から血を流しながら、こちらを睨み付ける。母さん、いや目の前の女は、口をパクパクさせているが、驚きすぎて、声になっていない。


「そんな女?化物?誰の事を言ってんだァァァァ!」


俺の怒号が屋敷中に響き渡る。


「紫織は、紫織は俺の大切な人だ!てめえらなんか、てめえらなんかが、バカにしていい存在じゃねえ!」


怒りが止まらない。俺の事はいい。自分でも、出来のいい子供じゃねえのは分かってる。てめえらがほしいのは、自分の言うことを聞く、()()()()()()()だからな。だが、紫織をバカにすんのだけは、ゼッテーに許さねえ!


「俺は、いや俺たちは、今日限りで、ここを出ていく。後はてめえらで勝手にやれ。養子でも何でも、勝手にとりゃいいさ。」


そう言って、俺は、突然の事に、理解が追い付かない紫織と共に、部屋を出ていこうとする。


「ま、待て!貴様、財産が惜しくないのか!?貴様は待っているだけで、大金持ちになれるのだぞ!」


最後の望みとばかりに、俺を引き留めにかかる。だが、今の俺にとっては、ただただ、汚らわしいのみであった。


「要らねーよ、そんなもん。俺がいるのは…。」


俺は、紫織を抱き寄せて、


「コイツだけだ。」


「ウムッ!?」


口づけを交わした。


一瞬とも、永遠とも言える口づけの後、俺たちは、呆然としている二人を尻目に、荷物をまとめ、家を出た。


町を離れ、家も見えなくなった頃、紫織が、話を切り出した。


「本当に、良かったのですか?仮にも親でしょうに…。」


「いいんだ。あんな奴ら、親でも何でもない。」


「しかし、これからどうする気なのですか?」


「とりあえず、旅をしようと思う。」


「行き先は?目的は?手段は?何か、決めていることはあるんですか?」


紫織がジト目で聞いてくる。痛いところを突かれた。


「な、何とかなるさ!」


しどろもどろになりながらも、返事を返す。


「はあ、何も考えていなかったのですね。」


「ごめん…。」


怒らせたか?と思ったが、紫織の表情は、柔らかかった。


「まあ、いいです。私は、司坊っちゃまに、命を救われた身ですし。どこまでも、お供いたします。」


良かった、怒ってない!あ、そういえば気になってた事があった。


「あ、そうそう。今度から、その坊っちゃまってのはナシね。もう、俺は、坊っちゃまでも何でもない。それに、紫織ももう、使用人じゃないからな。」


すぐには無理かもだけど、徐々に対等な関係になれたらいいな。


「ええと、では、司坊っちゃま…じゃなかった。司さん。これからよろしくお願いしますね。」


「うんうん、いいね。やっぱり、紫織がいてくれると、本当に嬉しい。もう、紫織以外は何も要らないかもな!」


その瞬間、紫織は顔を真っ赤にして、


「にゃ、にゃにを仰るんですか!?もう…司さんはズルいです…。私の喜ぶ言葉ばっかり言ってくれます…。」


クネクネ体を動かす、紫織。照れてるところは、初めてみたな。これから、どんどん新しい表情を見れたらいいな。


こうして、俺達の、波瀾万丈の旅が、幕を開けた。





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