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魔導書使いの調伏師  作者: 和泉ふみん
第二章 司、調伏師として全国を巡る
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黒室長

大学は慣れるのに時間がかかりますね。何学ぶのかもよくわからん学部だし…。

都会の街並みは、嫌いじゃない。人間の叡知の結晶とも言える、複雑な構造物の複雑な集合体。その中に、ちっぽけな人間が、ワラワラと蠢いている。さながら、血管を駆け巡る血球のように。


「最高ですね。平和を噛み締めながら飲む、極上のコーヒーの味は。」


マグカップ片手に、窓の外を眺めている男。黒いスーツに黒いネクタイ。広いオフィスに置かれた、机も、椅子も、時計も黒。コーヒーだって、一分の隙もなく黒。


「よろしいでしょうか?」


扉をノックする音が聞こえる。


「入りたまえ。」


「失礼します。室長、お客様がお越しです。」


「うん、お通ししなさい。」


「かしこまりました。」


部下の男は、5分ほどで帰って来た。1人の客人を連れて。


「キミはもういい。」


「はっ。」


恭しく頭を下げ、部下は部屋を出ていく。2人きりの部屋には、しばしの沈黙が続く。室長は笑顔、客人は無表情。互いに探りを入れているようだ。そして、先に禁を破ったのは、室長だった。


「コーヒー、好きですか?」


「いらねえ。」


「なるほど、そっけないお方だ。早く話を始めろと?」


「分かってるなら、早くやれ。こっちは忙しいんだ。」


「申し訳ありません。人間以外にも、コーヒーの素晴らしさが分かるのか、試したかったものですからねぇ。」


「人間が神を試すな、バカ野郎。俺を呼びつけた目的は何だ、黒神凶夜?」


笑顔を絶やさない凶夜。神を目の前にして、動揺も、畏怖も、興奮もしていない。ただ、当たり前にそこに存在し、力みも油断もない。


「その前に、あなたのお名前は?いや、失礼。どう呼ぼうかと、思案していたものですから。」


「天地 司。」


「つっけんどんな返事、ありがとうございます。本日、司様にお越しいただいたのは、これからの人類と神々との関係について、お話ししたかったからなのです。」


「あ?」


司は、驚いて凶夜の顔を見る。黒、いや漆黒というべき眼を見つめ、それが本気であることを確かめる。


「どうか、なさいましたか?」


「いや…そっち側から、そんな話題が出るとはな。」


「人間が、神の思い通りにならないのは、あなた方が、地上を治めていた頃からの話ではありませんか。それより、動画はご覧になりましたか?」


「ああ。俺が映ってるやつなら。」


「それは話が早い。我々は、国家危機管理室という組織におります。元々は、テロや、国家間の戦争などに対する対策本部として、秘密裏に設置されたものです。しかし、今の目的は、あなた方、超常の存在に対する、人類の保全です。」


凶夜は、パソコンに何やらパスワードを打ち込み、データを開いて見せた。


「こちらに、見覚えは?」


「俺が今まで倒してきた妖怪…。まさか、見てやがったのか?」


「ええ。最初は、偶然でしたが。たまたま、監視カメラに少しだけ映っていたんですよ。それからは、我々も頭を悩ませました。何しろ、妖怪や神などというものは、おとぎ話と信じてやまない人間たちばかりでしたから。」


「ケッ。」


苦虫を噛み潰した顔の司と、心底楽しそうなドS顔の凶夜。


「それから調査が始まりました。そして、あなた方の存在にたどり着いた。心が踊りましたよ。強大なる力が、この世界に実在したんだとね‼」


爛々と目を輝かせる凶夜には、先程までの冷静沈着さはない。


「おい…どうした?」


「失礼。取り乱しました。とにかく、我々は、あなた方の力を解析しました。もちろん、完全には無理でしたが。ただ、試作品(・・・)はできました。」


「試作品?」


「ええ。お見せしましょう。こちらへ。」


凶夜は、コートを羽織って部屋を出ていく。

司も、いぶかしみながらも後を追う。







向かい風の吹き付ける中をスタスタと歩く凶夜。かれこれ、30分は街を歩いている。

しびれを切らした司が、口を開く。


「おい!どこまで行く気だ!」


「そう怒らず。ここですよ。」


巨大なビルの前で立ち止まる。だがそこは、見慣れた国家の中心であった。


「あ?ここは、都庁じゃねえか。こんな人の出入りの多いところ…、ここに何があるってんだ?」


「都庁にはありません。その、下です。」


親指で地を指す凶夜。挑発を受けたようで、カチンとくる司。怒りを笑顔で踏み潰して、青筋浮かべながら凶夜についていく。凶夜は、都庁の地下道に向かい、ポケットから小型のスイッチのようなものを取り出した。スイッチを押すと、コンクリートの壁が割れ、エレベーターの扉が現れた。


「このエレベーターの先の存在は、最重要機密事項。日本のトップクラスでも、詳細は知りません。全ては、私の頭の中に。つまり、私が死ねば全ては闇に葬られる。いや、葬られなければならない、そういうモノが、この先にあります。」


凶夜が話終えると同時に、エレベーターが口を開けた。


「では、ご覧下さい。人間の叡知の結晶を。」


2人を乗せたエレベーターは、ものすごいスピードで更なる地下に潜っていく。エレベーターのボタンは、たった1つ。『EX』の文字のみだ。


EX(エクストラ)とは、大層な名前だな。」


「ハハッ、確かにその意味もありますが、開発(エクスプロイト)死刑執行(エグゼキューション)など、いろんな意味が含まれているんです。」


「物騒な言葉ばかりだな、おい?」


「人類を守るためには、なりふり構っていられませんから。」


「そうまでして、何を開発したってんだ?相当ヤバイものを造ってんだろうけどよ。」


凶夜が口を開こうとした瞬間に、エレベーターのベルが鳴る。目的地に到着した音だ。扉が開いた先には、暗闇が広がるばかりで、何も見えない。ただ、冷たいコンクリートの感触が、靴越しに伝わるだけだ。


「電気をつけましょうか。」


先程のスイッチを押す音が聞こえ、照明が一気につく。そこには、サッカー場ほどの巨大な空間が広がっていた。


その中央に、ぽつんと人形らしきものが置いてある。ヘルメット状の頭部に、身体各所のアーマーとナイロン製のスーツが、光に照らされて煌めく。


司が近づいてみると、その人形が突然動きだし、司に拳を向けた。


「何だ、お前。やる気か?」


「私としては、そうしてくれた方がありがたいですね。何しろ彼らは、あなたの兄弟ですから。」


「は?」


「彼らは、対妖怪用アンドロイドG-21。見た目こそ全く違えど、あなたの力を解析してデータとして組み込んだ、あなたのクローンですよ。」


司は、人間の技術がここまで進歩しているとは、考えもしなかった。司が神になったわずか150年前には、まだ電気が通っていないところが多かったというのに。


「さて、本題ですが。あなたには、この子と戦っていただきたいのです。」


「何?いいのかよ、俺と戦ったら壊れちまうぞ。」


「ご安心を。思う存分やってください。良質なデータを取りたいので。」


「そのデータをどうする気だ?こいつの改良に充てるのか?俺たちレベルになるまで、どんだけかかるのかね。」


「さあ、もう届いているかもしれませんねぇ?」


凶夜のあからさまな挑発に、戦闘準備を始める司。人間1人の戯事など、聞き流せばいいのだが、司はそうはできなかった。


『Now loading! Complete!!』


「目の前で神の力を見られるとは、光栄です。お願いします。」


「フン。紫織、来い!」


『シオリ Summon&神化(エヴォリューション)!!!』


戦闘スタイルである、白髪の青年の姿に変化する司。本を片手に敵を見据える。


「それでは…始め!」


「まずは…火球(ファイアーボール)!」


小手調べとして軽いジャブを放つ。普通ならば、相手は避けるのだが、ロボットは動く気配を見せない。ロボットに火炎が着弾すると思われたその時、目にも止まらぬ速さで、ロボットが腕を振り抜いた。火球は、突然の暴風にかき消されてしまった。


「なっ…!?」


「言ったでしょう、あなたのクローンだと。そのつもりでやっていただかないと、膝を屈することになりますよ。」


「完全解析できてないんじゃなかったのかよ…!」


「ええ。あなたが付喪神に借りた力は、全く解析できていません。しかし、物理的なパワーやスピード、戦闘技術などは、大いに盗ませてもらいました。更に、この子には、AIを搭載していますから、この瞬間も、あなたを学んで強くなっています。いずれデータが揃えば、あなたより先に、新たな戦術を開発できるようになるでしょう。そのためにも、どんどん戦ってください、データを提供してください!」


後半になるにつれ、どんどん興奮してくる凶夜。己の生み落とした我が子が成長するのを、嫌がる親はいないということか。


「とんだバカ親だぜ、ったく…。聞いてたな?最初から本気だ。」


「はい。了解です、司さん。」


「フゥ…フッ!!」


全身に力を込め、霊力をたぎらせる。


「スクラップにしてやる!!」


今、ゴングが鳴った。


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