ご注文はロリ巫女の許嫁ですか?
「おいっ、どういうことだ!何でアイツがッ!村の有志を募ってんじゃなかったのかッ!」
俺は、怒りのあまり時乃に詰め寄る。
「し、知らぬ!おい、村長どういうことじゃ!妾を騙しておったのか?」
泣きそうな目で、村長に尋ねる時乃。その答えは、ひどく残酷なものだった。
「ふはは、何だあの女と知り合いだったのか。まあよい。そうだよ、時乃。今までの生け贄はぜーんぶ、村の外からさらってきたもんだ。」
衝撃の事実に愕然とする時乃。それに追い討ちをかけるように、
「それに、ここにいるやつらの顔を見てみろよ。もし生け贄が村の有志だとして、今までに捧げた生け贄の顔はどこに見える?」
時乃は食い入るように、聞かされた事実が嘘であると信じようとしているように、村人の顔を見る。だが、お目当ての顔は見つからない。時乃の顔から、どんどん生気が失われていく。
「そうだよな、見つかるはずねえよな。だってあいつらは、もうここにゃいねえ。いや、この世にはいねえと言った方がいいかな?」
「そんな、まさか…。それ以上言うなッ!言わないでくれぇッ!!!」
「あいつらはみーんな、死んじまったよ。そりゃそうさ、霊力を吸い取られまくって全く処置を施さなけりゃ、誰だって死んじまう。生気を吸い取られてんのと一緒だからな。とにかく、お前のせいで、大量に人間が死んだ。そういうことだ。」
「ああッ、あぁああぁあぁぁ!!!」
時乃は、膝をつき慟哭する。大粒の涙を流しながら、自分のしたことを後悔する。我が身を呪う。何故、このような力を持って生まれてしまったのか。数百年の時を、天秤として生きた自らの生を、丸ごと否定してしまいたかった。しかし、どうやっても過去は消えない。時乃の目が、心が絶望に染まりかけたその時、
ギュッ
時乃を抱き締める者がいた。誰だろう。涙で視界が歪んで顔が見えない。でも温かい。こんな汚い自分を抱き締めてくれるなんて。ああ、そうか、これは夢、幻覚なのだ。現実を受け止めきれない私が生み出した幻影。
「―、―。」
あれ、何だろう。声が聞こえる。自分はもう頭がおかしくなってしまったのか。もう妾に、話しかける者などいないはずなのに…。
「時乃、時乃!」
「司…?」
声の主は司だった。
「辛かったよな。悔しかったよな。悲しかったよな。でももう大丈夫。俺達が付いてるからな。」
「司…。ダメじゃ…。妾の手は汚れてしもうた…。皆に会わす顔など無い。ましてやお主に抱き締められる資格なぞ…。」
「そんなもん、俺だって一緒さ。旅の中で幾度となく命を奪ってきた。後悔もしてる。でもな時乃、いつまでも後悔したまんまじゃ、前には進めない。それに今回の事は、お前だけの責任じゃない。お前だけが、業を一身に背負う必要はないんだ。どうしてもって言うなら…」
俺は一呼吸おいて腕を広げ、
「俺も一緒に背負ってやる!もうお前が泣かなくていいように、お前だけが辛い思いをしなくていいように。お前がこの世に生まれたことを、意味のあることにするために!」
「司…。いいのか?お主に甘えてしもうても…。お主に、妾の業を共に背負わせることになっても…。」
「ああ、ドンとこい!たまには、周りに頼っていいんだぜ!」
時乃は、嬉しさのあまりより一層俺に抱きついて、
「司ぁ~!ありがとうなのじゃぁ~!ヒグッ、ふえぇぇぇぇん!」
また大声で泣き始めた。いいぜ、辛いときは泣きゃあいい。泣いて忘れちまえばいいのさ。さて、残るは…。
「おい、村長。」
時乃の背中をポンポンしながら、俺は村長に向き直る。
「よくも時乃を泣かしてくれたよなぁ。それに、紫織をあんな目に遇わせやがって…。」
自分でも分かる。俺の体から、とんでもない量の殺意が漏れ出していることを。村人全員の顔が凍りつく。
「おいこら、村人共。てめえらは知ってたのか?こいつが人拐いしてること…。いや、知らねえわけねえよな。人拐いには、協力者がいたはずだぜ。ってことは、お前ら全員グルだな?」
俺の睨みに、脆いものは気を失う。けっ、いけねえな。犯罪者がそんな脆くちゃあよ。
「ふん、それがどうした?我々には、幸せな未来をつかむ権利がある。その手助けをしてもらっているだけではないか。その女だってそうだ。村の周りをうろちょろしてたから、家に泊めてやったら、自分から付喪神って名乗りやがったんだ。付喪神の体内には、大量に霊力がたまってる。そいつをちょいと拝借しようとしたら、抵抗されて仕方なく薬で眠らしたって訳だ。」
身勝手なことばかりを宣う村長。反省の無い態度に、俺の怒りは頂点に達した。
「刀華ァ!」
「ああ、私ももう我慢の限界だったところだ!!」
ボフンッ
「なっ、そいつも付喪神かよ!?」
「こうなった以上は、例えてめえらが丸腰だろうと容赦しねえ!」
卑怯と思うなら笑えばいい。外道と言うなら、その罪を背負って生きてやる。それが、俺の人生観ってもんだ!
「はあっ!幻惑の型、灯籠流し!」
俺は、目にも止まらぬ速さで、村人全員を斬る、斬る、斬る。だが、誰一人として死なない、傷もつかない。それの原因は、俺の使った技によるものだ。
灯籠流し…、現世において、霊を送り出すための儀式、行事、お祈り。だが、それを俺が使うと意味が変わってくる。この場合、川は血液、送るのは霊は霊でも、霊力の方。それによって引き起こされる結果は…
「うわぁあぁああぁ!」
「ひいいっ、くるなぁぁああ!」
「た、たすけてぇぇえぇ!」
「おいっ、どうした?何もいねえじゃねえか!?」
一人斬撃を受けていない、村長が慌てる。それはそうだ、突然皆が何もないところを見て、恐怖しているのだから。
「訳が分かんねぇって顔してるな?」
「!?」
「今俺がやったのは、斬った相手に霊力を流し込み、脳をちょっといじくって、幻覚を見せる技。少なくとも1日はこのままだぜ。ま、大抵の奴は壊れちまうんだがな。人間は恐怖にそこまで強くねえ。」
「くそッ、雑魚共が!」
「人の事を罵ってる場合かよ?今度はお前の番だぜ。ただし、お前は幻覚なんて生っちょろいもんじゃねえ。本当に地獄で、死神と踊ってもらうぜ?」
「お、おいまさか…。」
「そのまさかさ。よかったなぁ、一瞬で逝けるんだ、あいつらよりか楽かもよ?」
俺は、刀を振り上げ斬りかかろうとする。
「ま、待て!待ってくれ!なぁ、時乃!今までの事は謝る。今度は、お前の願いをいくらでも叶えてやってもいい!だから、だから…。」
時乃にすがり付く村長。しかし、
「妾の願いは、この村の外に出て、いろんな世界を見て回ること。祠暮らしはもう飽きた。それに…。」
時乃は俺に抱きつきながら、
「妾は、司に大きな借りが出来てしもうた。その借りを返すためにも、妾は司のモノとなり旅に付いていく。それ以外の物など要らぬ。じゃから、お主の申し出は受けられぬ。自らの罪を噛み締めながら、死んでいけ。」
時乃に見放された村長は、ただただうなだれる。
「んじゃ、またな。死んだら地獄で会おうぜ。俺も、地獄行きだろうからな。」
ザシュッ!村長の首は飛び、鮮血が散った。これで、事件は幕を閉じた…。
「紫織、おいっ、紫織!」
俺達は、祭壇から紫織を救出する。薬で眠らされたままだったが、息はあった。
「あれ…、ここは…?あ、司さん…?」
「紫織ぃ…、よかったぁぁあ…。」
「えっ!?ちょっとどうしたんですか?」
俺が抱きついたことで動揺する紫織。
「紫織、ごめんな。俺、紫織の事考えてなかった。」
「いいんですよ。私も、怒っちゃってごめんなさい。」
俺達が、お互いに仲直りしていい雰囲気になっていたその時、
「何じゃ、二人は喧嘩しておったのか?」
「あの、この子は?」
「ああ、こいつは時乃。すごいんだぜ、こいつは…」
「妾は時乃。天秤の付喪神で、司の未来のお嫁さんじゃ!」
俺の言葉を遮って、時乃は見事な爆弾発言をかました。
「おぃいいぃぃ!?何言ってくれちゃってんのぉぉお!?」
「何じゃ、妾が幼児体型だから駄目なのか?それなら問題ない、まだまだ成長期ゆえな、いくらでも大きくなる。それとも、司は妾が嫌いか?」
時乃は、頬を赤くしてうるうるした目でこちらを見る。
ゴゴゴゴゴゴ…
「司さん…?こんな小っちゃい子にまで手を出すなんて…、何を考えてるんですか…?」
「いや、違…」
「問答無用!!」
「ヒエエッ!おいっ、刀華!何とか言ってくれ!」
「あー、雷が怖いので。ごめんな、主人。ガンバ!」
「ちょっとぉ!?」
軽く見捨てられた。
「覚悟ぉ!!」
「ギャーッ!!!」
雷を落とされまくって、それを避けるのと、怒りを鎮めるのに三時間かかった司なのであった。
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