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魔導書使いの調伏師  作者: 和泉ふみん
第一章 司、調伏師となるまで
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ご注文はロリ巫女の許嫁ですか?

「おいっ、どういうことだ!何でアイツがッ!村の有志を募ってんじゃなかったのかッ!」


俺は、怒りのあまり時乃に詰め寄る。


「し、知らぬ!おい、村長どういうことじゃ!妾を騙しておったのか?」


泣きそうな目で、村長に尋ねる時乃。その答えは、ひどく残酷なものだった。


「ふはは、何だあの女と知り合いだったのか。まあよい。そうだよ、時乃。今までの生け贄はぜーんぶ、村の外からさらってきたもんだ。」


衝撃の事実に愕然とする時乃。それに追い討ちをかけるように、


「それに、ここにいるやつらの顔を見てみろよ。もし生け贄が村の有志だとして、今までに捧げた生け贄の顔はどこに見える?」


時乃は食い入るように、聞かされた事実が嘘であると信じようとしているように、村人の顔を見る。だが、お目当ての顔は見つからない。時乃の顔から、どんどん生気が失われていく。


「そうだよな、見つかるはずねえよな。だってあいつらは、もうここにゃいねえ。いや、()()()にはいねえと言った方がいいかな?」


「そんな、まさか…。それ以上言うなッ!言わないでくれぇッ!!!」


「あいつらはみーんな、死んじまったよ。そりゃそうさ、霊力を吸い取られまくって全く処置を施さなけりゃ、誰だって死んじまう。生気を吸い取られてんのと一緒だからな。とにかく、()()()()()()、大量に人間が死んだ。そういうことだ。」


「ああッ、あぁああぁあぁぁ!!!」


時乃は、膝をつき慟哭する。大粒の涙を流しながら、自分のしたことを後悔する。我が身を呪う。何故、このような力を持って生まれてしまったのか。数百年の時を、天秤として生きた自らの生を、丸ごと否定してしまいたかった。しかし、どうやっても過去は消えない。時乃の目が、心が絶望に染まりかけたその時、


ギュッ


時乃を抱き締める者がいた。誰だろう。涙で視界が歪んで顔が見えない。でも温かい。こんな汚い自分を抱き締めてくれるなんて。ああ、そうか、これは夢、幻覚なのだ。現実を受け止めきれない私が生み出した幻影。


「―、―。」


あれ、何だろう。声が聞こえる。自分はもう頭がおかしくなってしまったのか。もう妾に、話しかける者などいないはずなのに…。


「時乃、時乃!」


「司…?」


声の主は司だった。


「辛かったよな。悔しかったよな。悲しかったよな。でももう大丈夫。俺達が付いてるからな。」


「司…。ダメじゃ…。妾の手は汚れてしもうた…。皆に会わす顔など無い。ましてやお主に抱き締められる資格なぞ…。」


「そんなもん、俺だって一緒さ。旅の中で幾度となく命を奪ってきた。後悔もしてる。でもな時乃、いつまでも後悔したまんまじゃ、前には進めない。それに今回の事は、お前だけの責任じゃない。お前だけが、業を一身に背負う必要はないんだ。どうしてもって言うなら…」


俺は一呼吸おいて腕を広げ、


「俺も一緒に背負ってやる!もうお前が泣かなくていいように、お前だけが辛い思いをしなくていいように。お前がこの世に生まれたことを、意味のあることにするために!」


「司…。いいのか?お主に甘えてしもうても…。お主に、妾の業を共に背負わせることになっても…。」


「ああ、ドンとこい!たまには、周りに頼っていいんだぜ!」


時乃は、嬉しさのあまりより一層俺に抱きついて、


「司ぁ~!ありがとうなのじゃぁ~!ヒグッ、ふえぇぇぇぇん!」


また大声で泣き始めた。いいぜ、辛いときは泣きゃあいい。泣いて忘れちまえばいいのさ。さて、残るは…。


「おい、村長。」


時乃の背中をポンポンしながら、俺は村長に向き直る。


「よくも時乃を泣かしてくれたよなぁ。それに、紫織をあんな目に遇わせやがって…。」


自分でも分かる。俺の体から、とんでもない量の殺意が漏れ出していることを。村人全員の顔が凍りつく。


「おいこら、村人共。てめえらは知ってたのか?こいつが人拐いしてること…。いや、知らねえわけねえよな。人拐いには、協力者がいたはずだぜ。ってことは、お前ら全員グルだな?」


俺の睨みに、脆いものは気を失う。けっ、いけねえな。犯罪者がそんな脆くちゃあよ。


「ふん、それがどうした?我々には、幸せな未来をつかむ権利がある。その手助けをしてもらっているだけではないか。その女だってそうだ。村の周りをうろちょろしてたから、家に泊めてやったら、自分から付喪神って名乗りやがったんだ。付喪神の体内には、大量に霊力がたまってる。そいつをちょいと拝借しようとしたら、抵抗されて仕方なく薬で眠らしたって訳だ。」


身勝手なことばかりを宣う村長。反省の無い態度に、俺の怒りは頂点に達した。


「刀華ァ!」


「ああ、私ももう我慢の限界だったところだ!!」


ボフンッ


「なっ、そいつも付喪神かよ!?」


「こうなった以上は、例えてめえらが丸腰だろうと容赦しねえ!」


卑怯と思うなら笑えばいい。外道と言うなら、その罪を背負って生きてやる。それが、俺の人生観ってもんだ!


「はあっ!幻惑の型、灯籠流し!」


俺は、目にも止まらぬ速さで、村人全員を斬る、斬る、斬る。だが、誰一人として死なない、傷もつかない。それの原因は、俺の使った技によるものだ。

灯籠流し…、現世において、霊を送り出すための儀式、行事、お祈り。だが、それを俺が使うと意味が変わってくる。この場合、川は血液、送るのは霊は霊でも、霊力の方。それによって引き起こされる結果は…


「うわぁあぁああぁ!」


「ひいいっ、くるなぁぁああ!」


「た、たすけてぇぇえぇ!」


「おいっ、どうした?何もいねえじゃねえか!?」


一人斬撃を受けていない、村長が慌てる。それはそうだ、突然皆が()()()()()()()を見て、恐怖しているのだから。


「訳が分かんねぇって顔してるな?」


「!?」


「今俺がやったのは、斬った相手に霊力を流し込み、脳をちょっといじくって、幻覚を見せる技。少なくとも1日はこのままだぜ。ま、大抵の奴は壊れちまうんだがな。人間は恐怖にそこまで強くねえ。」


「くそッ、雑魚共が!」


「人の事を罵ってる場合かよ?今度はお前の番だぜ。ただし、お前は幻覚なんて生っちょろいもんじゃねえ。本当に地獄で、死神と踊ってもらうぜ?」


「お、おいまさか…。」


「そのまさかさ。よかったなぁ、一瞬で逝けるんだ、あいつらよりか楽かもよ?」


俺は、刀を振り上げ斬りかかろうとする。


「ま、待て!待ってくれ!なぁ、時乃!今までの事は謝る。今度は、お前の願いをいくらでも叶えてやってもいい!だから、だから…。」


時乃にすがり付く村長。しかし、


「妾の願いは、この村の外に出て、いろんな世界を見て回ること。祠暮らしはもう飽きた。それに…。」


時乃は俺に抱きつきながら、


「妾は、司に大きな借りが出来てしもうた。その借りを返すためにも、妾は司のモノとなり旅に付いていく。それ以外の物など要らぬ。じゃから、お主の申し出は受けられぬ。自らの罪を噛み締めながら、死んでいけ。」


時乃に見放された村長は、ただただうなだれる。


「んじゃ、またな。死んだら地獄で会おうぜ。俺も、地獄行きだろうからな。」


ザシュッ!村長の首は飛び、鮮血が散った。これで、事件は幕を閉じた…。




「紫織、おいっ、紫織!」


俺達は、祭壇から紫織を救出する。薬で眠らされたままだったが、息はあった。


「あれ…、ここは…?あ、司さん…?」


「紫織ぃ…、よかったぁぁあ…。」


「えっ!?ちょっとどうしたんですか?」


俺が抱きついたことで動揺する紫織。


「紫織、ごめんな。俺、紫織の事考えてなかった。」


「いいんですよ。私も、怒っちゃってごめんなさい。」


俺達が、お互いに仲直りしていい雰囲気になっていたその時、


「何じゃ、二人は喧嘩しておったのか?」


「あの、この子は?」


「ああ、こいつは時乃。すごいんだぜ、こいつは…」


「妾は時乃。天秤の付喪神で、司の未来のお嫁さんじゃ!」


俺の言葉を遮って、時乃は見事な爆弾発言をかました。


「おぃいいぃぃ!?何言ってくれちゃってんのぉぉお!?」


「何じゃ、妾が幼児体型だから駄目なのか?それなら問題ない、まだまだ成長期ゆえな、いくらでも大きくなる。それとも、司は妾が嫌いか?」


時乃は、頬を赤くしてうるうるした目でこちらを見る。


ゴゴゴゴゴゴ…


「司さん…?こんな小っちゃい子にまで手を出すなんて…、何を考えてるんですか…?」


「いや、違…」


「問答無用!!」


「ヒエエッ!おいっ、刀華!何とか言ってくれ!」


「あー、雷が怖いので。ごめんな、主人。ガンバ!」


「ちょっとぉ!?」


軽く見捨てられた。


「覚悟ぉ!!」


「ギャーッ!!!」


雷を落とされまくって、それを避けるのと、怒りを鎮めるのに三時間かかった司なのであった。

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