災害II
II
「・・・・・俺は。」
腕の震えが止まらない。
この腕で・・・・俺は—————
ヒトヲコロシタ。
「・・・・で、でもネクロ君は私を助けてくれたよね?私の為に・・・。」
止めてくれ。
「もっと私がちゃんとしていれば・・・。」
ヤメテクレ
「・・・私が————————。」
もう・・・やめてくれ。
これ以上・・・俺を慰めないでくれ。
でないと俺は・・・・ 『コワレテ・・・シマウ』
いつまでも自己保身をしていって・・・ 『ザイアクカン』
最後は・・・食宮、お前も傷つけてしまう。 『ヒトジャ・・・ナクナル』
だから・・・・もう—————— 『ヒトデアリタイ』
食宮はだんだんと俺の近くに寄ってきた。
少しずつ。少しずつ。少しずつ
だがそれは止められた。
「・・・あぁそうだよ怪物。君は人殺しだよ。・・・俺と同じでね。」
そう言いながら男は俺を引き上げた。
「俺は別にお前が化物だと言ってるだけで別に深い訳はないよ。それに・・・生きていけないとも言っていないだろ?だから・・・今から俺が生きる道を指してやるよ。」
そう言って男は俺を引きずって行った。
「・・・・どこに連れていくんだ?」
「お。喋れるくらいに頭の中で整理できたのかな?」
「——————全然。寧ろ酷くなってる。大体こんな話をして理解できる奴なんているのかよ。」
「まぁそうだね。ごめんごめんまぁとりあえず・・・ほい。」
ほい。という音は人を放り投げた音だ。
つまりこの男は俺を放り投げた。
変に大きな真っ白な部屋に。
「お—————————、おおおおおい!な、なにしやがる!」
「え?何ってそりゃ・・・・・戦闘だよ?」
「・・・・・は?」
男は淡々としゃべりだす。
「君はね・・・どっちなのかわからないんだよ。災害なのか・・・はたまた何なのか。」
「おい!お前・・・・。」
「あぁ、言うの忘れていたね。俺の名前は煉というんだ。煉 灯。レン トモシと言う。・・・・では改めて。どうしたんだいネクラ君?」
「俺の名前はネクロだ!えっと・・・煉?なんか名前見たいだな・・・。お前はまだ、大切なことを言ってないんじゃないのか?」
煉は顔を顰めて「君は幸せ者だねぇ。」と小声で言いながら履いていたスニーカの底を床にぶつけた。
正直その行動はよくわからなかったが、癖か何かだと俺は考えスルーした。
「・・・んじゃわからずやの君に教えて差し上げよう。つまり君は災害かはたまたそれ以外の何かなのではないかという疑惑がつけられているのさ。」
「あぁ。それはわかってる。俺が聞きたいのはそのそれ以外のことだ。そのくらいは教えろよ。」
煉はニット帽を目が隠れるくらいに隠した。
そしてこちらを見つめ、そのうえで再び溜息をついた。
「それ以外・・・っていうのはね・・・まぁ俗にいう『人口物』ってやつかな。少年風に言えば・・・『改造人間』ってとこかな。一様俺も改造人間の部類に入る。」
「・・・・・・その可能性は俺にはないな。」
うんそうそう。だって改造された覚えはないし。悪の集団に連れ去られて体改造されたとかそんな経験ないし。うん。そうだよ。あり得ない。あり得ないよ。うん。
「いや、君はどう見ても改造人間だ。災害ではない。」
「いやいやいやいやご冗談を。だって俺改造された覚えないですよ。そんなはずないですよー。いやぁ煉さんは面白い冗談をつきますねぇ。」
「・・・まず君の誤解を解くとしよう。何か君は少年の妄念にでも取りつかれているのかい?別に改造というもの全てが悪の集団に連れてかれて体を改造するわけではないんだよ?悪の集団とかも置いといてもだけど。」
図星。
考えていることをほとんど全て言われてしまった。
しかし気になる。
ならばどういう改造なのだろうか。
「じゃあ・・・煉お前はどうゆう経緯で改造人間になったんだ?」
まずはこれ。
これを聞けば取り敢えず、大半はわかるはずだ。
「ん?俺?俺は普通に改造されたけど・・・研究所で。」
「説得力ないな!」
III
「いやいやいやいや!説得力皆無じゃないか!さっきまでの俺の関心を返せ!」
「おいおいそんなことを言うなよ。君はイレギュラーなんだぜ?俺、結構戸惑ってるんだぜ?」
「知るか!じゃあ何?俺知らない間に人体改造されてるの?んな・・・そんなこと・・・・。」
「・・・いや、君は改造されたばかりだよ。だってまだ副作用が出てないじゃないか。」
そう言って煉はニット帽を脱いだ。
頭の上にはピンッと立っている猫耳・・・いや、犬耳か?どちらかが付いていた。
「・・・・驚いたかな?・・・そう、こんな感じの副作用が出るんだよ。でも見たところまだ力も発揮していないと見た。だから君は改造されたばかり・・・ということだ。」
・・・いや寧ろ
大の大人の頭に獣耳が生えてることが少し・・・・。
「まぁそんな訳でだ。単刀直入に聞くぞ。お前は何の獣だ?」
「・・・言ってる意味が分からないんだけど・・・人・・・かな?」
「おいおいそれは通常状態だろ?俺が言ってるのはね君が何の獣の力を持っているかということなんだよ。・・・ああ説明がまだだったね。俺達・・・改造人間つまり人工物はね・・・神格化した獣を力として戦っているんだ。まぁ要約すると・・・。」
瞬間目の前から煉は消えた。
いや、そうではなかった。
飛んだ。
そして今————————
「・・・・本気出さないと・・・死ぬよ?」
綺麗な飛び蹴りが炸裂した。
「————————が!・・・・はが・・・!」
突然の攻撃。
・・・くそ・・・頭が回らない。
取り敢えず・・・蹴られた腹は・・・。
「———————おいおい・・・マジかよ・・。」
どう見ても何かが出ていた。
白い物体。
それはすぐ理解できた。
だがそれはつまり・・・
「ホントに本気で行かなきゃ・・・死んじまう訳か。」
「・・・あぁ、そういうことだ。ではネクロ。喰喘 黒!自分探しを頑張ろうか!」
そう言いながら煉は不敵な笑みを浮かべた。
IV
遠吠え。
その甲高い声は聞こえてすぐ止む。
すると瞬間音もせず近付いて連打を打ち出す。
さっきからそのコンボ染みた攻撃を何度も何度も繰り返された。
いや、正確には何度も・・・という確証はない。
何せ音を立てず攻撃してくるんだ。
いつ、どこで、どの部位をやられたかなんてわからない。
ただわかるのは自分の体にそろそろガタが来そうなくらいだ。
「——————————。————・・・」
・・・チッ・・
耳もやられたのか・・・
自分の声すら聞こえない。
いやだがまだ俺には・・・。
瞬間、俺は吹き飛ばされた。
いや、どこまで吹き飛ばされたのかわからない。
そもそも吹き飛ばされたのか否かということも謎だ。
何せ壁にぶつかった。
それくらいしか感じられない。
だけど痛みは尋常じゃなかった。
「————————ガハッ・・・。」
・・・なぜだろうか。
なぜ今、俺は俺の声を感じ取れたのだろうか。
だが今の俺にはそんなこと考える余裕はなかった。
「・・・・君、力の使い方わからないのかな?」
煉はカツカツと歩きながら黒の方向に歩いてきた。
「・・・なら教えてやるよ。片一方の心臓・・・つまり今動いてる心臓を———止めるんだよ。」
煉は俺の服を掴みバッと引き上げた。
「そうしたら自動的・・・生物的反応でもう一つの方の心臓が動き出すんだよ。」
・・・・違う。
「ちょっと理性が途切れるけど・・・まぁその辺は大丈夫だよ。」
・・・あぁ、そうなのかも知れない。
だけどそれはあんたらだけだろ・・!
俺は違う・・・俺は・・・
「———ぉれは・・・違う・・・。俺は違う。」
「・・・君は自分は特別な何かと思ってるのかい?・・・・だったらそれはね・・・。」
タダノキミノオモイチガイダヨ
そう言って煉は俺を蹴り飛ばした。
ガゴ。
・・・あぁ頭・・・強く打ち過ぎた・・・な。
「・・・しょうがないか・・・不本意だけど・・・死んでもらうよ。」
・・・・ま、そうなるわな。
こいつからすれば俺は邪魔でしかない。
なにせ知っちゃいけないことを知ってしまったんだから。
そりゃ即時抹殺だよな。
・・・あぁ、短い人生だった。
ホント・・・短い・・・内容のない人生だった・・・・
内容のない人生・・・・
だから・・・・
「死んでたまるかよ!」
内容がないなら作れ。
紡げ。
繋げ。
足掻け。もがけ。苦しめ。
そして生きる。
心臓高鳴れ。
・・・もう一人。起き上がれ。
遠吠え。
再び音は消える。
・・・でも
もう、通用しないけどね。
「わかってますよ。狼さん。」
ネクロはそう言いながら体を回転させ、煉の攻撃を避けた。
厳密には蹴って進行ルートを強制的に変更した。
「おいおいネクラ君。まだ君は力を使おうとしないのかい?もったいないなぁ・・・」
その時、ネクロには変化が表れていた。
一つは髪。
何故か白く発光しており、髪自体も真っ白に染まっていた。
体には特に変わった部分はなかった。
ただ一つ。
ただ一つ上げるとすれば。
「何をおっしゃるのですか?僕は・・・ちゃんと力を使っていますよ?」
人間・・・いや、それ以上の存在なのかもしれない。
その目・・・ネクロの眼は
リングのような発光する部分が
薄紫の目に、黒く発光するリング状の何かが浮き出ていた。
怪しくも美しく
そして儚さを感じられるこの目は
単なる人よりも、人らしく見えた。
まるで、人の象徴と表すように