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プロローグ『裏』


                 II

彼はいらだっていた。

初めてかもしれない。

こんなに我慢したのは

普通に、何の変哲もなく人に道を聞いたのに

無視

無視して走っていった。

そいつは制服だったのでどこの学校かもわかった。

近く殺しに行こうと考えたが

無駄な奴らも殺してしまうかもしれないから彼は足を止めた。

・・・彼自身学校に長らく行っていない。

引き留めてくれる幼馴染もいおらず

兄弟もおらず

母もおらず

父もおらず

肉親はおらず

親戚はおらず

教会暮らしのほぼホームレスのような生活

いや寧ろ孤児だ

しかし・・・

先程から後ろの人間が気になる。

フードをかぶり

夏なのにロングコートを着ていて

真っ黒な服


・・・・


何故か興味がそそる。

こんな時間に、何故こんな公園でいるのか。

何故、暑そうな恰好をしているのか。

謎が止まらず、同時に興味が湧くに沸いた。


彼はこっそりとついていった。


動き出したのは次の日を迎える手前の時間。

彼はついて行ってコートの奴のことが分かってきた。

あいつは女だった。

たまたまフードを脱いだ時に顔を見た。

綺麗な顔立ちだった。

と、言っても後姿しか見ていない

しかし後ろから見てもわかる程の綺麗さ

まるで作られたかのような華麗さだった。

だがもう一つ気が付いたことがあった。

匂い。

花の匂いを連想させるような匂い

だが違う。

何故か・・・ほんのりとした無機質な匂いもあった。

なにかこう・・・・不安を掻き立てるような、そんな匂いがした。

今は暗い深夜。

ふと目を離すと見失ってしまうほど

つまり見失った。

といっても目を離したわけではない。

いきなり目の前から消えた。

神隠しレベルの消え方だった。

彼はその瞬間、自らの目的を変えた。

ついていくだけで済ませようとしたが彼は更にその先を望んだ。

連れていく。

悪く言えば拉致、よく言えば誘惑。

彼はその目的を心に決めた瞬間。完全に目の色が変わった。

口の口角は上に吊り上がり白い歯はナイターの明かりに灯され輝く。

次第に彼は霧に包まれていった。

いや、包んでいったという表現が正しいのだろう。

彼は災害だった。

それもうんと酷い災害。

その災害

名は無く

親も無く

兄弟も無く

過去も無く

未来も無く

夢も無く

悲しみも無く


そんな人間。

ただ一つ

憧れたもの

人間。

何の付加価値も無く、ちゃんとした基本がある。

そんなものに・・・彼は憧れた。

6月9日

もうすぐ6月10となりそうなこの時。

雲は闇で見えずとも雨の兆しは感じられた。


               IV‘

名前。

それは必然的に付けられるもので自らを示すもの。

しかし彼にはそれはなかった。

普通ならある筈の名前。

理由など喋ればいくらでもあるのだろう。

が、それは戯言と何も変わらない。

証拠にはなりえない。

つまりを言えば全くの謎なのだ。

・・・といえども彼にはどうでもいいことだった。

一度も興味を示さなかった。

・・・・・そんな話は置いておこう。


「——————クソッ!どこにもいないのか・・・・・・あぁ、クソ。—————あぁそうかここら一帯を破壊すれば見つかるかもな!」


彼は不敵な笑みを浮かべながら両手を広げた。

彼の周りの霧は急激に濃くなっていった。

音もなく、変りもなくただただ霧が濃くなる。

そこに不思議さを感じながらも危機感を感じられない。

しかし確実に力は溜まっていた。

本気で——————ここら一帯を破壊するつもりなのだろう。

指の第一関節を内側に曲げた。

更に第二関節。そして第三関節までも曲げ拳を握った。

———————あぁ・・・もうさいっこうの気分だ——————

彼はそのまま腕を振ろうとした。

しかし彼はそれを途中で止めた。

造られたような花の匂い。

彼は走った。

自分で出した霧をかき分け、走り走り走り・・・・・

彼はたどり着いた。

手も足も判断できないくらいの『彼女』を。

後ろ姿しか見ていない彼には誰か判別できる。

だが普通に見れば

夥しい数の切られた跡のあるただの肉塊だった。

——————・・・・まただ・・・

また死んだ。

俺が興味を持つ人間は・・・皆死ぬ。

彼は肉塊と化した彼女の近くに寄る。

彼は肉塊を・・・細かく、細かく刻んだ。そうして切り刻まれた肉塊は・・・・

彼の出していた霧と混ざり、白い霧が赤く紅く朱くなっていった。

彼は考えた。

何故この人が死なねばならなかったのだろうと。

何の関わりも無く、ただ興味を引いた人間になぜ感情移入をしようとしたのだろうか


彼は四回『自分』について考え

二回『何』について考えた。

考えても考えても現れぬ答え

彼はそれを求めた。

求めて走った

何の意味もない事と知りながらも

彼の追い求める答えと同じように走った。

闇に呑まれた夜の路地裏を—————————


               V'


「ハァ—————、ハァ—————・・・・クソ————なんで走ってんだよ!何で何で・・・・何で何で何で何で——————。」


そう言いながら彼はゴミ袋の上に座り込んだ。

入っていたのは紙類ばかりだったので柔らかかった。


「—————何で・・・・何で・・・あぁ・・・最悪だ。」


そう言いながら彼は右手で何かを掴み、それを頭上に挙げた。

するとポタ・・・ポタ・・・と音を出しながら何かが垂れ落ちていた。


「なんだこれ・・・紅い・・・鉄の味・・・血か。」


彼はそれを舐め、それを血と判断した。

ただ一つ

彼には気になることがあった。

味。それは鉄の味。

しかし、匂いは違った。

あの———————造られたかのような花の匂い。

彼はポタポタと垂れ落ちる血を見ながらその何かを見続けた。

何の変哲もない定期券。

ただ彼はそんな普通の定期券を眺めていた。


「—————————はぁ・・・こんなことかよ・・・・全く自分に腹が立つよ。」


そう言いながら彼は立ち上がった。

そして彼の目は、覚悟を決めた目だった。


ドカッ!


遠くで何かが倒れる音がした。

彼はその音を聞いて口角を挙げた。

カタカタ・・・と履き崩れたスニーカーで音をだしながら歩きだした。

彼の周りには黒い霧が立ち込めた。

ドタドタドタと音が近くなってきた。

だんだんと声も聞こえてきた。

三人の男

何故か恐怖に引きつった顔だった。

そして男達から・・・あの匂いがした。


「———————クソッタレ!あんなイカレ野郎が現れるなんてよ!警察に通報してやる!そうすりゃあいつも終わりだ!後で泣きずら・・・・。」


「なぁ・・・聞きたいことがあるんだが・・・お前らどっから来た?」


男達はいきなりの彼の登場におののき言葉を失った。

が、多数に風情

彼らはいきなり強く出た。


「は?お前に教える気はねーよ!—————あぁそうだ。とりあえず今持ってるもんここに置いてけよ。あとなぁ・・・・。」


そう言いながら男の一人が彼の腹部に拳を入れた。


「俺らのサンドバックになってくれよ。ちょっと俺らキレてるんだよ。ま、死なない程度に殴ってやるからよ!」


男はそう言って彼の顔を殴ろうとした。

が、男は殴れず、気を失った。

いや、死んだ。

死んだ。

腹部が一瞬にして消え、大きな穴が腹部に出来ていた。


「———————は?なんだよそれ・・・え?なんで?なんで・・・」


「・・・・『俺らのサンドバックになってくれ』・・・か。」


彼はそう言いながら真っ赤に染まった右腕と左腕を広げた。

そうして彼の口角は・・・完全に上がりきった。

そして残った二人の方向に顔を向けた。


「なぁ・・・俺のサンドバックになってくれよ。イライラしてんだ。ま、死ぬ程度で殺してやるからよ!」


そう言いながら彼は腕を振った。

瞬間、残り二人の体はあという言葉を言うことも無く消えてしまった。


人間では到底追い付けない。防げない『災い』

彼はその一人だった。


彼は大きく背を伸ばし、まるで先程まで寝ていたかのようなあくびをして朝日を迎えた。

この日、事が二つあった。

一つは目的。

ようやく生きる目的を見出せたことだった。

二つ目は———————

名前。

彼はこれまで名前というものがなかった。

だが彼は今日、その名前を見つけた。

終着点

彼は・・・いや終着点はそう決めた。

自分が存在する意義それを見付けた日だった。

そう—————今日は終着点にとって・・・

どうでもいいような最悪の日だった。


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