プロローグII
IV
路地。
猫。
ゴミ箱。
点滅を繰り返す街灯。
烏。
ただ歩いていた。
ある筈のない左手は再生し、テーピングでぐるぐるに巻かれ。
レインコートを着て一歩一歩歩く。
血のついたナイフを持って
右胸押さえながら
フラフラ歩く。
息荒く
視界は霞む。
口に違和感を感じ、そのまま吐いた。
吐かれたものは赤い液体だった。
口には鉄の匂いがした。
・・・・俺は今、何をすべきかわからなかった。
このまま家に帰るわけにもいかないし
かと言ってこのままこの格好でいるのもまずい。
・・・・血が見たい。
「・・・ッ!」
俺は・・・どうしてしまったのだろうか。
これじゃ・・・・
殺人鬼じゃないか・・・・。
こんな俺は多分人を見ただけで殺しに掛かってしまうのだろう。
よかった。
この路地裏の道にきて。
ここなら人もさほどいない。
こんな時間だ。
いても猫・・・・その辺だろう。
大丈夫
そう信じて俺は歩いた。
フラグはいつの間にか立っている。
そんなこと知らない俺はゆらゆらと歩き続けた。
雨に濡れることなく
雨は止まない。
V
食宮 初。
こう書いてシキミヤ イロハと読む。
成績優秀。性格は穏やか。運動は・・・多分苦手。
クラス委員長でもある食宮は男女問わずの人気者だった。
教室の木彫り像的存在の俺にも話しかけてくれるまぁ言えばお人好し。
来るもの拒まず去る者追わず
そんな人間だった。
たまに抜けたところがあったりとかそういうところがあったりする。
そういうところもあり親しみやすい。
運動が苦手というのもまた良いところなのだ。
正直、美しいという言葉よりも可愛いの方が似合う人だ。
家は・・・特に厳しいというわけでもないらしく
のびのびと自由に成長した結果
誰にも好かれる人間になったらしい。
正直夜に遊ぶというような人間でもない人だ。
今日も色々とドジをしていた。
・・・・違うぞ
断じて違うぞ。
まさか好きとか言う感情があるんじゃないか?
みたいな疑問を浮かべているならそれは誤解だ。
・・・本当だ。
毎回毎回視界に入るだけだ。
そう・・・ただそれだけ。
それだけなんだ。
そう・・・ただそれだけ。そんな出来てもいない人間関係だ。
VI
夜は明けず
闇も深まってきた。
でも俺は変えるわけにはいかない。
だって
カエッタラ、ダレカヲコロシソウダカラ。
夜は何もなく明けるはずだった。
はず・・・ダッタ。
ドガッ!
遠くからそんな音が聞こえた。
・・・足は勝手に走り出した。
そして音の位置についた。
小さな公園。
そこには
男3人に囲まれた女性がいた。
女性が着ている服はうちの学校の制服。
そして男達の目は完全に野獣の目だった。
・・・そういうことか。
それ以外に考えられなかった。
いや、寧ろそれ以上考えるつもりはなかった。
今の俺は
女性を助けなければと思う心と
タダキリサキタイ
その二つが心の中で蠢いていた。
が、その蠢きも4人目の登場で消えた。
後ろから何かでたたかれそのまま地面に落ちた。
意識はあったが
とにかくどかどか痛くもなく蹴られ殴られ叩かれた。
「おいおいおいおい!まさかの白馬の王子様的な?うわうけるわ!」
「そんな真っ白の王子様には泥がお似合いだぜ!」
「にしてもだっさい奴だよな・・・・お?おいおいこいつナイフ持ってやがるぜ!まさか俺達を殺そうとしてたんじゃねーの?」
ゲタゲタという笑い声が聞こえた。
そういうと男たちはいきなり蹴るのを止めて起き上がるよう合図した。
その合図に従い、俺は立ち上がった。
すると一人の男が何か手招きしていた。
「俺は優しいからな・・・よし!『コロシアム』ってやつをしようぜ!その名の通り『殺し合おう』ぜ!」
・・・・・
そんなことやりたくない
でも
心臓は違った。
心拍数が上がっていく。
もう・・・我慢の限界だ。
その時・・・俺の中の『何かが』目覚めたような気分になった。
そして・・・目の前のこいつらが、人には・・・人とは見えなくなっていた。
「・・・・馬鹿な人間ですね。」
「あ?」
「コロシアムはなコロッセオっていう名前からきているんですよ。殺し合いとは関係は全くないんですよ。そもそも何で日本語と外国語が一緒なんですか。馬鹿なのですか?ああ、馬鹿なんですね。馬鹿な人間なのですね。いや・・・人間ですか?」
「・・・だまってきいてりゃぁよぉ!もう手加減しねえぞ!」
「・・・うん。いいよ。僕も・・・・」
ナイフを構える。
相手は鉄パイプ。
いや、俺からすれば鉄くず。
今の俺には・・・・・
快楽しかなかった。
「精一杯手加減しますよ。貴方が未練なく死ねるように。」
二人は交差した。
一人は固まったまま。
一人は手でナイフを回していた。
音もなく、赤い噴水は上がった。
そしてぐたりと倒れた。
俺はこのとき、どうしようにもないくらい自分に呆れた。
同時に、どうしようもないくらい人間が好きになった。
VII
俺は殺していない。
ただ痛めつけただけだ。
動けば死ぬくらいに痛めつけただけだ。
それだけ
後はあいつが恐れのままに動いたから・・・・こうなった。
わかっている
今俺がとてつもなくどうしようのない人間になっていることくらい。
でもそれを考えさせないほど
俺は快感に包まれていた。
もう
俺は救いようのない人間に変貌してしまったのかもしれない。
だって今
慌てふためく残りの人間を
切り裂きたくて切り裂きたくて仕方ないのだ。
自分でも自分に呆れる。
・・・・・
「か、かか、怪物!お前・・・なにしたかわかってんのか!け、警察呼ぶぞ!」
男の一人がそういいながら震える指で携帯を開いた。
警察。
確かにこのとき、多分妥当な脅し方だろう。
だけどそれは普通の人間ならの話。
怪物相手なら別だ。
そもそも話が通用する奴じゃない。
無論、俺は足を踏みしめ切りかかろうとした。
が、
それは後ろからの予想外の力によって止められた。
「——————————は?」
そのまま重力のまま俺は地面に倒れてしまった。
男たちはその時すかさず傷ついた男を連れて逃げ出した。
起き上がろうとしたが、
欲求が解消されたのか俺はそのまま望まぬ睡眠に入った。
ただ覚えているのは
俺を引っ張った相手・・・・
それが食宮だったことだけだった。
あともう一度言おう
俺は食宮に惚れてなどいない。
正真正銘、その子は食宮だった。
幻覚などでは絶対ない。
食宮だった。