運命分岐点〈黒〉
I
・・・ここはどこだい?
眼を覚ました時、俺の体はなかった。
所謂意識状態。
覚めない眠り
つまり俺は死んだ。
言い訳の出来ようがない。
死んだ。
不満は多い。
だが死んだからもうそんなの関係ない。
フワフワとする意識。
何にも縛られない心。
・・・・だけど
悔しい。
俺はこれが後悔というものなのか
そう実感した。
————後悔で後悔で後悔で
どうにかなってしまいそうだ。
地縛霊になったりして・・・
・・・・あ
いっそのこと、地縛してみようか。
あっちの世界怖いし
あぁそうしよう。
そうすればあっちの世界で生きられる。
でもやっぱ幽霊界でもランクとかあるのかな?
地縛霊だと・・・結構下なのかな?
平和な暮らしできるかな?
————あぁやばい。
そっちに気持ちがよりかけている。
ホントにいっそのこと地縛しちゃおうかな?
あぁでもでも・・・・・
「いつまでいじけてるの?ちゃっちゃと決めなさいよ。」
「ああ・・・ちょっと時間をくれ。もう少し考えたい・・・。」
あれ?
もしかしてお迎え?
ついに来たのか・・・
早く決めないと
全く興味のないとこに連れてかれる・・・。
「ほら、早く決めて。このまま死ぬ?それとも・・・。」
黒コートで長髪の女性がこちらに向かって歩いてきた。
「・・・・女神様になるか。」
咄嗟に彼は振り向いた。
そのお迎えさんは
怪しげに笑っていた。
II
「・・・つまり・・・・というか貴方誰ですか?お迎えさんですか?天使様ですか?鬼ですか?」
「鬼というのは気に食わないけど・・・まぁいいわ。とりあえず説明しましょうか・・・。貴方は今選択肢を与えられている。それはこのまま死ぬか。それとも女神となるか。」
「・・・・・えーと。」
「まぁ君に選択権はないけどね。」
彼女は言い切った。
そして『見てみなよ』と俺を指さした。
反射的に下を見ると
先程までなかった体が、
何か繊維のようなスカスカ状態ながら戻っていた。
「もう君の復活は始まっている。止めることはできない。」
彼女は遠い何かを見つめるような目をして俺を見つめた。
「———君は、疑問はないの?君はこれから・・・蘇るのよ?」
・・・何が言いたいんだろう。
さっぱりわからない。
だって
蘇れるんだろ?
そんなことに、疑問がどうして生じよう。
「———言ってる意味がよく分かりません。つまり・・・蘇れるんでしょ?ならそれでいいじゃないですか。それに疑問を持つなんて・・・。」
「———君は、自分の変化に気が付いてる?」
「———変化?そんなもの感じられ・・・。」
あれ?
俺、こんな丁寧な奴だったっけ?
確か俺は・・・
「———ようやく、気づいたんだね。自分の消失に。」
消失?なんだよそれ。
おかしいだろ。
だって今俺は
蘇っているんだぜ?
なのに・・・・
「———ほら、本当の迎えが来たよ。・・・じゃあね、ヴェル君。」
「何を言ってるんですか?僕の名前は・・・・。」
喰喘 黒
「———『ヴェルフェゴート・ネグロ』で・・・す。」
・・・・
誰・・・だそいつ?
———おかしいだろ。
———こんなのおかしいだろ。
———何で・・・何で!
「悲しいよね。でも・・・君は良い方だよ。」
彼女はふっと顔を近づけた。
「喰喘の人間で。」
そして俺の感覚はプツリとキレた。
俺は、無事蘇った。
自分・・・『喰喘 黒』を殺して。
III
「————ガハッ!」
俺は目覚めた。
激しい嘔吐感はあるものの
体には何もなかった。
———頭が重い。というか体が・・・いや、なんか体は軽い。
重たいと思った頭は、触ってみると腰ほどまでに届く髪の毛になっていた。
・・・そりゃ重いよな。
俺は寝ていたベットを降り、
大きな鏡のある場所へと足を運んだ。
自分の姿を確認す・・・
俺は一度鏡の前から離れた。
・・・見間違い・・・だよな?
改めてもう一度鏡を見てみる。
・・・いや、おかしい。
何だろうか・・・
この鏡に映る小娘は、誰だろうか。
・・・俺じゃないよな
そんなはずないよな・・・
ああこれは夢だ。
だからほっぺを引っ張ろう。
そしたら・・・
「・・・痛い。ってことは・・・まじか。」
そう言えば・・・
あいつは確か・・・。
『女神様になるか』
「・・・え?」
急いで俺は確認した。
何を確認したかは明確にはしない。
・・・よかった。まだ男だ。
一安心し、息をつく。
———瞬間、思い出したくないことを思い出した。
『喰喘 黒は消失する』
「———僕の名前は・・・ヴェルフェゴート・ネグロか・・・。」
意気消沈。
悲しみはどっと押し寄せた。
そのまま腰を落とした。
服を着ていないせいかとても尻が痛い。
———俺は本当に・・・。
そして途方無いことを考えた。
「———これからは・・・どうしたらいいんだ?」
泣き言を言いながら俺は天井を見た。
「———なぁ、僕はこれからどうすれば・・・。」
ガチャリ
その音と共にドアが開き、そこから黒髪の少女が現れた。
ヴェルと少女は目が合い、動かなくなった。
———なお、ヴェルは裸である。
「「ぎゃややややぁぁぁぁぁぁぁ!」」
二人の悲鳴協奏曲は響き渡った。
IV
「・・・・・。」
見られた。
女子に裸見られた。
名前も何も知らない女子に
全裸を・・・・
ふっと少女の方を見るとその顔はどちらかというと僕が叫んだことに驚いているみたいだった。
「・・・あ、あの!———驚かないんですか?」
「———十分驚いたわよ。いや十二分程に、あ、でも八分目かもしれない。何?何でいきなり叫んだの?まさか裸を見られたから?」
「え?あ・・・ああはい。そうです・・・けど。」
あれ?
もしかして・・・平気なほう?
痴女様?ビッチ様?
もしかして・・・・。
「別にいいじゃない。女子どうしでそんな恥じらい起きる訳ないでしょ?」
あぁ・・・そうだ。
完全に勘違いしてるよ。
・・・なんかこう・・・きついな。
すごく———恥ずかしい。
「えーと・・・その。」
「何?言いたいことがあるならはっきり言いなさい。」
・・・強気な人だ。
強情というのだろうか。
まぁどっちでもいい。
でも・・・言った方がいいよな。
「僕は男です。」
「そんなはずはない。」
一刀両断。
すっぱり切られた。
・・・この人ホント強情だな。
仕方ない・・・ここは。
「ならば証拠をみせます。」
「悪いけどあれが付いてても私は貴方が女だと言うわ。」
「そ、それは・・・おかしいのでは?」
「ただあれが付いてきた女の子と見るわ。」
「いやそれだめでしょ!流石に認めましょうよ!」
「嫌よ。だって貴方は確実に女のはずなのよ。」
何を根拠に・・・
「だったら・・・私の目で確かめるわ!」
・・・
あ、この人痴女だ。
やばい。
逃げなきゃ。
「ちょ・・・待って!」
瞬間、少女の目は変わった。
・・・これは物理的にである。
少女の目は、黒目の周りが赤くなり、その赤が輝き出した。
「・・・・・?」
それに怪しさを感じた瞬間、
急に視界が変わった。
いや、正確には見えるものが増えた。
ありとあらゆるものに、文字のようなものが浮かんでいた。
それは空気中にも漂い、
その量は図り知れなかった。
「・・・・こんなの———おかしいわ。」
少女は目を泳がせながらカタカタと震えていた。
「そんな———何で・・・何で男なの?」
その顔には先程の強情さは無く、ただただ怯えていた。
「まぁまぁお姉さま。力抜きましょーよ。」
そう言ってドアから見覚えのある少女が出てきた。
確か・・・
「どうも、『魔法少女』でーす。以後お見知りおきおー。」
・・・やっぱりあれはこいつだったのか。
そう、こいつはあの男か女かわからないあいつである。
少女はふっと目の赤みが消え、目を瞑った。
「—————。」
何か、耐えがたいという顔だった。
「まぁまぁヴェル君!久しぶりのシャバだ!羽を伸ばしてきたまえ!」
そう言って魔法少女は僕に服を着せ、持ち上げた。
「ああそうそう。私達の名前を言うの忘れてました。私の名前はルズと申します。ルーとお呼びください。そしてあそこに座り込んでいる私のお姉さまがクルドと言います。めんどくさいのでクルミでも結構です。まぁそんな訳で・・・。」
ルーは僕を窓から投げ捨てた。
「ごゆっくりとー!」
そして僕は投げられた。
が、背中に痛みはなく、気づけば地面に着いていた。
V
「・・・・・。」
クルミは黙ったまま動こうとしなかった。
「まぁまぁお姉さま。そう落ち込まないでください。」
「・・・・あり得ない・・・あり得ないのよ・・・。何で・・・。」
「まぁまぁ。」
そう言ってルーはクルミの背中に抱き着いた。
「———いい加減にしないと・・・怒りますよ?」
クルミの震えは止まり、さっと立ち上がってそのまま部屋を出て行った。
「———仕方ないです・・・それが『運命』なんですから。」
ルーは窓を開け、空を見つめた。
陽炎が見える程の暑さだった。